表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法戦争  作者: ははんぽ
8/25

8.反魔派の影 ―シグマ再臨

午前零時。

 魔法庁上空を、黒い稲妻が裂いた。

 次の瞬間、空全体に魔力の波が走り、通信塔や魔力管制網が一斉に沈黙する。


 「……やられたか。」

 レオンは研究棟の屋上で、煙草を落とした。


 校舎の下から、数名の教師が駆けつけてくる。

 「レオン先生! 日本中の魔力網が……!」

 「消えたんだろ?」

 レオンは目を細める。

 「“反転波”だ。十年前のアーク・コード暴走と同じ波形。」


 彼の脳裏に、あの男の声が蘇る。


 ――お前ごと、世界が背負うしかないな。



 日本魔法学校・理事長室。

 ガラス越しに夜の街を見下ろす初老の男が、レオンに視線を向けた。


 「スチュワード、久しいの。」

 「……六年前ぶりですね。理事長。」

 「いや、正確には“あれ”が沈黙してからだ。」


 理事長は机に一枚の封書を置いた。

 封には、見慣れない印章――Λ(ラムダ)の文字。


 「これが……例の“反魔派”からの声明文か。」

 レオンが開封すると、そこにはただ一文。


 > 『封印を解け。偽りの魔導師よ。世界を欺いた罰を、今ここで下す。』


 レオンの指が一瞬止まる。

 理事長は静かに続けた。

 「十年前、アーク・コード事件の唯一の生存者……“シグマ・ロウ”。

  奴がΛを名乗り、世界各国の魔法網を次々に破壊している。」


 「……やっぱり、生きてたか。」

 レオンは低く呟く。

 「シグマは消えたんじゃない。

  封印の“外側”にいたんだ。世界そのものを見下ろす立場で。」



 同刻。

 ロシア連邦上空――氷原の真ん中に、巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。

 中央に立つのは、白い外套の男。

 黒髪をなびかせ、瞳は赤い。


 シグマ・ロウ。


 彼の周囲には、十数名の影――Λの幹部たちが集まっている。

 その中には、かつての魔法学校の卒業生の姿もあった。


 「報告を。」

 シグマの声は低く、響く。


 「アメリカ魔力網、陥落。中国支部の封印柱も沈黙しました。」

 「よろしい。」

 シグマはゆっくりと指を上げる。

 「残るは――日本。」


 幹部の一人が不安げに口を開く。

 「しかし、“魔導師”スチュワード・レオンがいます。彼を敵に回すのは――」


 シグマの赤い瞳が静かにその男を射抜いた。

 瞬間、その男の身体が粉々に砕け、氷の粒となって消えた。


 「恐れるな。あいつは神ではない。

  ――神を気取った“罪人”だ。」



 翌朝。

 魔法学校の校舎前は、報道魔導具を持った取材班でごった返していた。


 「理事長! 反魔派Λが“日本の魔導師は世界の災厄”だと声明を!」

 「レオン先生は本当にアーク・コード事件の首謀者なのか!?」


 教員たちは口を噤み、生徒たちは不安げに空を見上げる。

 曇天の向こう、東京湾上空に黒い雲が渦を巻いていた。


 ――封印が、再び開きかけている。



 放課後、誰もいない講義室でレオンは独り立っていた。

 手には一冊の古い書。

 それは、十年前シグマと共に書き上げた“反転構築の原典”。


 そこには、ある一文が赤く書き足されていた。


 > 『世界は、反転する。真の魔法は、神を殺す術だ。』


 「……シグマ。」

 レオンは目を閉じた。

 「お前、本気で神に挑む気か。」


 背後で扉が開いた。

 入ってきたのは、教え子の篠宮レンだった。


 「先生、ニュース見ました……あれ、本当なんですか?」

 レオンは笑う。

 「さぁな。俺も自分が何者か、よくわかっちゃいない。」


 レンは拳を握りしめた。

 「でも、俺たちを守ってくれたのは先生です! 信じます!」


 レオンの表情が一瞬だけ柔らかくなった。

 「……ありがとな、レン。

  だが、“信じる”ってのは一番危ない魔法だ。」


 外で雷鳴が轟いた。

 その瞬間、学校の魔力障壁が一斉に崩壊。

 教室の窓が砕け、空から黒い羽が舞い落ちてくる。


 ――Λの襲撃だ。



 屋上。

 黒雲の中から姿を現したのは、白外套の男。

 ゆっくりと降り立つ彼の足元で、瓦礫が氷に変わる。


 「久しいな、レオン。」


 レオンは煙草を咥えたまま笑う。

 「よぉ、十年ぶりだな。

  生きてたとは思わなかったぜ、シグマ。」


 「お前が“死ななかった”からな。」

 シグマの瞳が赤く光る。

 「封印を壊すためには、お前の反転構造が必要だ。

  俺は、あの夜の続きを終わらせに来た。」


 「……あの時止めたのは俺だ。

  今度は、また止めてやる。」


 二人の間で、空気が凍りつく。

 世界最強の魔導師と、神を否定した反魔の男。


 その夜、世界の均衡が――音を立てて崩れ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ