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魔法戦争  作者: ははんぽ
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4.封印会議 ―動き出す五大国

翌日、世界魔法評議会《Arcane Council》の通信塔が稼働を開始した。

 日本、アメリカ、ロシア、中国、インド――

 それぞれの国の魔法学校理事長が、魔力通信陣によって一堂に会する。


 議題は一つ。

 「日本支部における封印区域の崩壊」。


 中央の巨大な円卓には、国を象徴する五つの紋章が刻まれている。

 その中心に、蒼い光のホログラムが浮かび上がった。


 「――全員、接続完了を確認した」

 日本代表、天城院 錬真てんじょういん・れんま

 日本魔法学校の理事長にして、超越者の頂点。

 年齢不詳、白銀の髪と蒼い瞳。

 レオンの師であり、唯一彼を“魔導師”と認めた男。


 アメリカ代表、ローラン・クロウリー。

 かつて「戦略魔導の怪物」と恐れられた滅握者。

 無精髭のまま椅子にもたれ、軽薄な笑みを浮かべている。


 ロシア代表、エレーナ・ヴォルコワ。

 氷の魔女と呼ばれる女性。冷徹な瞳で議事録をめくる。


 中国代表、李 リー・ファン

 武と術を兼ね備えた豪胆な男。腕を組み、沈黙を保つ。


 インド代表、サーラ・デーヴィ。

 瞑想のような静けさを保ちながらも、目には鋭い光を宿している。


 そして天城院は、ゆっくりと報告書を開いた。


 「昨夜二十三時四十二分、日本支部・地下封印区域“黒塔書院”において、

  封印魔法セフィロト・アークが部分崩壊した。」


 会議室の空気が、わずかに揺れる。


 「崩壊の原因は、学生による侵入――そして、“書”の接触」


 エレーナが眉をひそめる。

 「生徒? 封印区域は理論上、超越者でも入れぬはず。どうやって?」


 天城院は指を動かす。空中に魔力映像が浮かぶ。

 そこには倒れた神宮寺レンと、彼の胸に刻まれた“黒い紋章”が映っていた。


 ローランが口笛を吹いた。

 「……“コード紋章”か。おいおい、懐かしいな。十年前を思い出すぜ。」


 「まさか、“アーク・コード”の残滓がまだ残っていたとはな」

 李が低く呟く。


 サーラが静かに目を閉じた。

 「封印の均衡が崩れたのは、彼の中に“器の核”があるからでしょう。

  つまり、アーク・コードは完全には眠っていなかった。」


 会議の空気が重く沈む。


 天城院は、ゆっくりと名を呼んだ。

 「……スチュワード・レオン。お前はどう見る?」


 ホログラムの影から、レオンが現れた。

 寝癖のついた髪、片手にコーヒー。

 他の理事長たちが緊張を走らせる中、唯一気の抜けた表情だった。


 「どう見るも何も……封印は“呼ばれた”。

  俺じゃなく、あの少年――神宮寺レンを通してな。」


 「呼ばれた?」

 エレーナが鋭く問い返す。


 レオンは首を掻いた。

 「アーク・コードは生きてる。封印されてる間も、ずっと“次の器”を探してたんだろう。

  十年前、俺たちが封じたときに使った“反転術式”……あれが限界だった。」


 天城院が目を細めた。

 「十年前、お前は何を“犠牲”にして封印を成立させた?」


 その言葉に、一瞬、レオンの表情が固まる。

 だが、すぐに笑って誤魔化した。

 「さて、何だったかな。もう忘れちまったよ。」


 誰も笑わなかった。


 沈黙を破ったのはローランだ。

 「なぁ、レオン。今度はどうする? またお前が封印をやるのか?」


 レオンは、静かに言った。

 「封印なんかじゃ、もう止まらねぇよ。

  今回は“世界全体”で動かないと、間に合わない。」


 天城院が頷く。

 「その通りだ。――ゆえに、これを“封印会議”とする。」


 五国の理事長が立ち上がり、それぞれの国章を前に掲げる。

 五つの光が円卓を囲み、中央に巨大な魔法陣が形成された。


 「“五国結陣ペンタ・サークル”、発動」


 天井が震え、世界魔法網が一斉に活性化する。

 五つの国を結ぶ魔力回路がつながり、

 地球全土に“異常魔力反応”が同時発生した。


 ローランが舌打ちした。

 「もう動き始めてやがる……」


 地図上のアメリカ東海岸、ロシア極北、中国西部、インド南域――

 そして、日本・東京湾。

 同時に五箇所で、黒い魔力の柱が天に伸びていた。


 サーラが目を開け、言葉を放つ。

 「アーク・コードは“再構築”を始めた。

  五大国の魔脈を、再び一つに戻そうとしている。」


 天城院は短く息を吐いた。

 「……時は満ちたか」


 レオンがぼそりと呟いた。

 「十年前の封印は、“延命処置”だったんだな」


 やがて通信が揺れ、五人の影が薄れる。

 会議が終わる直前、天城院の声だけが響いた。


 「レオン、神宮寺レンを守れ。

  奴が“鍵”であるなら、世界の命運は彼の中にある。」


 レオンは目を閉じた。

 「……了解。

  けど、あの子が“覚醒”したら、もう誰にも止められないぜ。」


 「だからこそ、お前がいる。」


 通信が途切れた。


 静まり返る教員室で、レオンは一人つぶやく。

 「――面倒くせぇことになったな。」


 窓の外。

 東京湾の上空に、薄く黒い雲が渦を巻いていた。


 そして、世界は静かに、再び“滅びの予兆”へと向かっていく――。

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