22.沈黙の一年 ―魔界胎動
世界が黒に染まったあの日から――一年が経った。
空は再び青を取り戻した。
大地は人の手によって修復され、街には笑い声が戻った。
しかし、それはあくまで“表層”の話。
本当の地獄は、地の底――魔界ディザリアにあった。
そこは天も光も届かぬ逆転世界。
地上の理はここでは通じず、時間すらも歪んでいた。
中央には黒曜石の王座があり、その上に一人の男が座していた。
――魔王、レオン=ディザイア。
かつての優しい眼差しは消え、紅蓮の瞳が永劫の炎を映している。
彼の前に、四つの影が跪いていた。
『報告せよ、四天。』
重く響く声に応じ、一人が立ち上がる。
◆第一の魔将「紅の刃」ヴァルガ=ディーノ
――全身を血色の鎧に包み、千の剣を操る剣帝。
「魔王様。地上の“魔力層”は回復しつつあります。人間どもは、まだ我らの存在に気づいておりませぬ。」
◆第二の魔将「沈黙の賢者」マルセナ
――かつて人間だった大魔導師。レオンが生み出した“影の知性体”。
「人間界の防衛組織『時導連盟』は、未だ再建段階。彼らの魔法技術は貴方の体系には遠く及びません。」
◆第三の魔将「獣王」ガルダロス
――魔界に棲む十万の魔獣を統率する巨獣。
「我が軍勢、既に百八十万体。地上に出す準備は整っております。」
◆第四の魔将「虚影」イゼルナ
――姿を持たぬ女の魔族。精神干渉と幻術を司る。
「レオン様、人の夢に侵入し、“恐怖”を植え付ける作業は順調です。1年もあれば、心の半分は既に我らの領域に。」
魔王は静かに目を閉じた。
その胸の奥では、何かがまだ眠っている――レオン本人の意識の欠片。
だが、それはもう声にはならない。
『……よい。ならば、地上を再び闇で覆う刻が来た。』
王座の周囲に赤黒い光が走る。
空間の歪みから、獣とも人ともつかぬ無数の影が蠢いた。
――それは「魔獣」と呼ばれる存在。
闇から生まれ、魂を糧とする。
魔王レオンが1年間かけて創造した、生きた呪詛そのものだった。
地上では、リアムが結界塔の頂上でその波動を感じ取る。
「……きたか、先生。」
彼の背後には、かつての教え子たちの子孫、若き魔法師たちが並ぶ。
その目は迷いを捨てた戦士のそれ。
リアムの右手に、淡く輝く光が宿る。
それは――レオンから継承した“世界魔力の核”。
「一年。俺たちは備えた。
次は、取り戻す番だ。」
風が吹いた。
雲が裂け、空が二色に割れる。
その境界から――黒い竜の群れが降り注いだ。
魔界、地上へ侵攻開始。
そして再び、世界は戦火の時代に突入する。




