21.継承と堕落 ―魔界創世
静寂。
それは、封印区域の中心にある“棺”が割れた音の後に訪れた、永遠の静けさだった。
リアムの身体を包む光が強くなり、視界が白く塗り潰される。
浮かぶ記憶――レオンの過去。
弟子レンとの訓練、滅びゆく戦場、時を逆転してまで守った命。
――すべてが流れ込む。
肉体、魔力、魂の回路。
その全てが、リアムの内に融合していく。
「先生……全部、俺に……?」
レオンの意識が微笑む。
『お前なら、託せる。私が見た未来の果て――その続きを歩め。』
リアムの胸の奥で、“時の核”が輝いた。
同時にレオンの肉体から光が抜け落ち、
かつての世界最強の魔導師は、ゆっくりと崩れ落ちる。
「先生……!」
リアムが駆け寄るが、レオンの瞳はすでに虚ろだった。
その口が、微かに動く。
『――あとは……任せた。』
完全な沈黙。
レオンの肉体から、命の気配が消える。
リアムはただ、膝をつき、拳を握った。
その時――
封印陣の奥。
光が完全に消えた瞬間、空間の裂け目から“黒”が滲み出した。
それは闇ではなく、“存在そのものの不在”。
リアムが顔を上げる。
「……何だ、これは……?」
低い声が響く。
『……器、空となりしか。』
冷たい、獣のような息。
棺の中で、動かぬはずのレオンの身体が――動いた。
血管が黒く染まり、瞳が開かれる。
その虹彩は、金ではなく、深紅。
『……ここが、現世か。』
周囲の魔法陣が次々と砕ける。
教師陣が結界を展開しようとした瞬間、空間ごと切断された。
リアムの足元にひびが走る。
立ち上がった“それ”は、もうスチュワード・レオンではなかった。
黒の外套が自動的に生成され、彼の周囲に深紅の魔法陣が六つ、回転する。
その中心から、声が響く。
『我は、かつて神々が棄てた世界の王なり。
滅びを喰らい、時間を呑む者――魔王レオン=ディザイア。』
地上にまで届く衝撃波。
空が裂け、地が割れ、
地底深くに漆黒の亀裂が広がっていく。
リアムは思わず後退した。
「先生……違う……これは、あなたじゃない……!」
しかしその呼びかけに、“魔王”は微笑んだ。
『“私”など、もうどこにもいない。
お前が奪ったその力は、確かにレオンのもの。
ならば、我が奪うのは――この世界そのものだ。』
天が反転した。
大地が沈み、闇の海があふれ出す。
光を拒絶する新たな世界――
《魔界》。
数分のうちに、地球の北半球が黒い霧に覆われた。
すべての魔力測定器が狂い、各国の魔法理事長たちは絶句する。
リアムは崩れゆく大地に立ち、拳を握った。
「……先生。あなたが残した力で――あなたを、超えてみせる。」
その瞳には、もう迷いはなかった。
時の継承者と、堕ちた英雄。
世界は今、二つの“魔導”によって裂かれようとしていた。




