20.時継者 ―刻の魔導
深層封印区画、第七環。
そこは、かつてレオンが封印された場所のすぐ上層。
空間そのものが歪み、常に“時間の流れ”が不安定な領域だった。
「信号を検出――Λの紋章だ!」
警備部の魔法師が叫ぶ。
漆黒のマントに、赤い幾何紋を刻んだ影が三つ、ゆらりと浮かぶ。
Λ(ラムダ)の残党。
十年前に滅んだはずのその組織の残滓が、
禁術〈虚数再構〉によって“再現”されていた。
「解析不能……!? 構成魔力値が――歪んでる!」
教師たちが防御陣を展開する中、
その中央で、リアムがゆっくりと前に出た。
「みんな、下がって。」
その声は穏やかだった。だが、
立ち込める魔力の圧が空気を裂いた。
時間そのものが逆巻く――
風が後ろへ流れ、砂粒が空中で止まる。
「……こいつ、何だ……? 動きが、見えねぇ――!」
Λの一人が焦り、黒い鎌を振る。
だがその軌道が完成する前に、リアムの姿は掻き消えた。
次の瞬間、背後。
「“時断”――終わりだ。」
静かな声とともに、Λの身体が三つに裂かれた。
斬撃の軌跡が存在しない。
切断ではない――“その瞬間”を消されたのだ。
「時の連続が、抜け落ちた……?」
教師のひとりが震える。
リアムは振り返り、冷静にもう一人へ視線を向ける。
「お前たちが何を再構しようと、過去は戻らない。」
Λの二人目が詠唱を開始する。
「――虚数魔法陣・多元展開、《デ・ループ・エターナル》!」
空間が千層に分裂し、同じ空間を無限に反射する。
「時間の輪で俺を閉じ込めるつもりか。」
リアムは右手を掲げる。掌に、淡金色の陣が咲いた。
「“時返し(リバース・クロノス)”――展開。」
光が瞬いた。
Λの陣形が、起動する“前”の状態へと戻される。
詠唱の声も、魔力の流れも、すべてが逆再生された。
次の瞬間、リアムの左手が淡く光を放つ。
「“時崩”。」
音もなく、Λの残り二体が崩壊した。
まるでその存在自体が、“時間の記録から削除された”ように。
静寂。
風も、音も、呼吸すらも止まっていた。
――終わった。
リアムが息を吐いた瞬間、
封印区域の壁面に刻まれた“紋章”が淡く輝く。
〈魔導師レオンの紋章〉。
封印の奥で、かすかな声が響いた。
> 『……よくやった、リアム。だが……気を緩めるな。
> Λは、これで終わりではない。』
リアムは頷く。
「分かってます、先生。……けど、もうあんな悲劇は繰り返させない。」
その瞳には、確かな光――
レオンがかつて“世界を守った時”と同じ、黄金の輝きが宿っていた。
教師たちはただ、息を呑んで見ていた。
初級一年生。まだ入学したばかりの少年が、
“時の理”をねじ曲げ、Λの残党を一瞬で消滅させた。
誰かが呟いた。
「……まるで、レオンの再来だ……。」
だがその瞬間、封印棺の内部に走る一条の光。
ひび割れが、ひとつ。
小さく、しかし確実に、走った。




