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魔法戦争  作者: ははんぽ
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2.影差す教室、黒き鼓動

 翌朝。

 東ノ宮学園の空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。

 昨日の騒動――白峰アリサの魔力暴走――は、関係者以外には伏せられ、

 レオンの教室にも再び日常が戻ったように見えた。


 だが、その“静けさ”こそが、嵐の前触れだった。


 「よし、今日は“魔力共鳴実験”をやるぞ」

 レオンがいつものように軽い調子で言うと、生徒たちはざわついた。


 「先生、また昨日みたいに……爆発しないですよね?」

 「しない、多分」

 「“多分”って言った!」


 笑いが起こる。

 昨日の恐怖も、こうして笑いに変えるのが彼らの日常だった。

 だがレオンは笑いながらも、すでに教室の結界を三重に張っている。

 魔力の乱れ――昨日の黒い靄は、自然発生したものではなかった。


 レオンは机の上に小さな球体を置いた。

 透明な結晶のようなそれは、内部に薄く蒼い光を帯びている。


 「“魔脈球”って呼ばれる道具だ。個人の魔力を計測して、共鳴波を可視化できる。順番に触ってみろ」


 一人ずつ生徒が前に出て、球に手をかざしていく。

 赤、青、緑、紫……色とりどりの光が室内に踊る。

 それぞれの魔力の個性が、色と波動で分かるようになっていた。


 「うん、良い感じだな。全員、魔力は安定――」


 その時だった。


 最後に前へ出た男子生徒の手が、球に触れた瞬間。

 教室の空気が凍り付いた。


 「……あ?」


 球の中の光が、闇に飲み込まれる。

 周囲の空気が沈み込み、低い唸り声のような振動が響く。

 次の瞬間、球が黒く染まった。


 「全員、下がれ!」

 レオンの叫びと同時に、球が爆ぜた。

 衝撃波が教室を揺らし、黒い煙が渦を巻く。

 その中心で、少年――神宮寺レン――が立っていた。


 彼の瞳は、蒼から漆黒に変わっていた。


 「先生……僕、これ……止まらない……!」


 レオンは瞬時に理解した。

 ――これは、昨日のアリサと同質。だが、遥かに濃い。

 「反転術式」に侵蝕された魔力。


 「おいレン、落ち着け。呼吸を整えろ。魔力を閉じ――」


 「無理です! 勝手に……体の中で、誰かが詠唱してる!」


 その言葉に、生徒たちが悲鳴を上げる。

 教室の壁に黒い文様が走る。魔法陣の構成式。

 “自動詠唱式オート・チャント”――。

 通常、上級魔法にしか存在しないはずの術式だ。


 「くそっ……誰がこんなもんを――」


 レオンは左手をかざし、蒼の魔法陣を展開した。

 「蒼滅陣・封結式ブルーロック!」

 青い光が教室全体を覆い、黒の術式を飲み込む。

 火花のような魔力衝突が起こり、衝撃で机が吹き飛ぶ。


 そして――。

 爆音の中、レオンはレンの前に立ち、そっと額に触れた。


 「……“静まれ”」


 たった一言。

 その瞬間、暴走していた黒の魔力が霧散した。

 光が戻り、レンはその場に崩れ落ちる。


 沈黙。

 生徒たちは呆然とレオンを見る。

 彼の白衣は焦げ、頬には血が一筋流れていた。


 「……よし、授業終了」

 いつもの調子でそう言い、レオンは微笑んだ。

 だがその目の奥では、冷たい光が灯っていた。


 (これはもう、“偶然”じゃない。誰かが意図的に……この学園の中で)


 その夜、レオンは学園長室を訪れた。

 室内には、老齢の学園長――真宮寺巌が座っていた。


 「レオン、二日連続での魔力暴走。報告書は見たよ」

 「偶然では済まない。これは“感染”です」

 「感染?」

 「はい。反転術式が、魔力そのものに伝染している」


 学園長は深く息を吐いた。

 「まさか……あの十年前の“崩壊”が、再び――?」

 レオンは無言で頷く。


 「生徒たちは、まだ知らなくていい。恐怖は魔力を歪める。

  だが、監視を強化する必要があります。特に、白峰アリサと神宮寺レン」


 「わかった。二人はお前のクラスだ。頼んだぞ、魔導師」


 部屋を出た後、レオンは夜空を見上げた。

 結界の上空――富士の空が、かすかに歪んでいる。


 黒い裂け目が、昨日よりも大きくなっていた。


 「やっぱり、止まってないな……」


 その呟きと共に、風が吹き抜ける。

 世界の魔力が、再び軋みを上げ始めていた。


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