19.時の欠片 ―封印の下の邂逅
地底訓練区域――
魔法学校の最深部に存在する、禁域。
生徒たちが足を踏み入れることは通常許されないが、
今回は“特例”として、上級教員主導の実戦演習が行われることになった。
「おかしいよな……。十年前に封印区域ができたって記録はあるけど、誰が封印されたかは未公開なんだ。」
リアムは壁面に刻まれた古い魔法文字を見つめながら呟いた。
隣でクロウが肩をすくめる。
「理事長の命令だろ? まあ、魔法の天才リアム様がいりゃ、何とかなるってことさ。」
「やめろよ、その呼び方。」
リアムは苦笑した。だが、胸の奥がざわつく。
この区域に足を踏み入れた瞬間から、
**“何かに呼ばれている”**感覚が絶えず彼を締め付けていた。
地鳴りが走る。
奥から風とも熱ともつかない魔力の流れが吹き抜けた。
ミラが息を呑む。
「この魔力……あり得ない。属性が、すべて混在してる……!」
その瞬間、リアムの視界に――**“光の棺”**が映った。
古代の紋章に囲まれ、無数の魔法陣が螺旋状に浮かぶ。
その中心で、ひとりの男が眠っていた。
金色の髪。白の外套。
閉じられた瞳の下で、何千もの術式が脈打つ。
「……まさか、これが……」
リアムの喉が凍りつく。
胸の鼓動が痛いほど早くなり、世界が歪む。
――聞こえるか、リアム。
脳に直接響くような声。
周囲の音が消え、時間が止まった。
ミラもクロウも、凍りついたまま動かない。
「レオン……先生……?」
――久しいな。十年ぶり、か。
リアムの足元に、淡い光が渦を巻く。
そこに現れたのは、透けるような人影――
それは確かに、スチュワード・レオンだった。
微笑みを浮かべたその姿は、かつての映像記録で見たよりもずっと穏やかで、
けれど、背後に広がる魔力の海は“次元そのもの”を揺らすほどの圧だった。
「先生……どうして……あなたが……?」
――封印の奥で眠っていた。だが、お前が“呼んだ”のだ。
――お前の中に宿る“時の欠片”が、私の意識を外へ引き出した。
リアムは拳を握る。
「時の……欠片?」
――あの時、お前はまだ生まれていなかった。
――だが、レンの最期の魔法が……お前を導いたのだ。
レオンの視線が柔らかくなる。
「レン……?」
――あいつの命の灯が、お前という“未来”に受け継がれた。
――だから、お前は時を越えた私に触れられる。
リアムの瞳に涙が滲む。
胸の奥が、誰かの痛みで軋むようだった。
レオンは静かに右手を差し出した。
――この世界は、また崩れ始めている。
――封印は弱まり、Λの残滓が再構成を始めた。
「じゃあ、俺が……先生を解放すれば……」
――まだ早い。封印を破れば、世界が再び分断される。
――だが、私の“意識”を少しだけ、お前に預けよう。
レオンの手がリアムの胸に触れた瞬間、
光の奔流が爆ぜた。
封印の紋章が一瞬、赤く輝き――そして静まる。
クロウとミラが動き出す。
「リアム!? 今、何が――!?」
リアムは振り返る。だが、その瞳はさっきと違っていた。
淡い金の光が瞳孔に宿り、
その周囲を“時の魔法陣”がゆっくり回転している。
「……先生の、力が……俺の中に。」
空気が震えた。
リアムの足元に、誰も知らない詠唱文字が浮かび上がる。
――“時門・開”。
その瞬間、彼の周囲の空間が歪み、
封印区域の全センサーが同時に警告を発した。
> 【警告:封印区画に異常発生――時属性干渉検知】
地上では、魔法理事長が立ち上がる。
「……まさか、あの封印が――!」
地底では、リアムの声が響く。
「レオン先生。俺が――あなたを超えてみせる。」
その誓いとともに、彼の背に“黄金の魔法陣”が展開された。
それは、かつて世界唯一の魔導師が使った紋章と同じ形だった。




