18.継がれし門 ―新世代の開花
入学式の日、空は青く晴れ渡り、魔法学校の巨大な浮遊城は陽光を浴びて輝いていた。
十年前の激戦の跡は完全に修復され、いまやここは“希望の象徴”と呼ばれている。
だが、誰も知らない――この学び舎の中心、地底に封じられた“棺”が今も鼓動していることを。
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「おい、リアム! 今日から初級一組だってよ!」
金髪の少年、クロウ・リュシエルが声を上げた。
陽気で、誰とでもすぐに打ち解ける性格。雷属性の素質を持ち、クラスでは早くも中心的存在だ。
「うるさいな、クロウ。俺はまだ心の準備ができてないんだ。」
リアムはため息をつきながらも、肩の力を抜く。
その隣には、黒髪を後ろで束ねた少女――ミラ・ナツメが静かに歩いていた。
無詠唱の治癒魔法を扱う才女。周囲では「白魔の再来」と呼ばれている。
「あなたが緊張してどうするの。あの試験を無詠唱で突破したくせに。」
「……あれは、たまたまだよ。」
そう言ってリアムは小さく笑う。
けれど、胸の奥ではいつも不思議な感覚がざわめいていた。
――誰かに見られている。
――誰かが、自分の中にいる。
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その夜、寮の自室で。
リアムは夢を見た。
暗闇の中、無数の魔法陣が浮かぶ。
その中心に、白衣を纏った男が静かに立っていた。
『……聞こえるか? 少年。』
「誰だ……?」
『十年前、世界を守るために封印された者――スチュワード・レオン。』
リアムの瞳が見開かれた。
「魔導師……レオン……?」
『お前の中に、私の魔力の欠片が宿っている。……いや、正確には、“時間”そのものが。』
『少年、時がまた狂い始めた。封印の外で、“Λ(ラムダ)”の残滓が動いている。』
リアムの呼吸が速くなる。
「Λ……? まさか、まだ生きて――」
『違う。奴らは“生きていない”。 だが、再現されている。』
夢が揺らぎ、レオンの姿が薄れる。
『……私を、目覚めさせるな。まだ早い。だが……お前が“鍵”だ。』
「待って、先生! 俺は――!」
叫びと同時に、目が覚めた。
額には冷たい汗。
窓の外では、魔法塔の灯がひとつ、ふっと消えていた。
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翌朝。
学園中に緊急通達が走った。
「第二実験棟にて未知の魔力波検出。魔力構造――“時属性”。」
リアムの心臓が跳ねた。
その足元では、誰にも見えないほど微細な光の粒が漂っている。
それは、まるで誰かが封印の中から“助けを求めている”ように……。
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遠く離れた地下深く、
光の棺の表面に、細かな“亀裂”が走った。
そのひびから、柔らかな声が漏れる。
> 『……リアム……まだ、来るな……。』
封印は、確実に弱まっていた。
そして同時に、封印区画の外では――
Λの紋章を刻んだ黒衣の影が、静かに動き出していた。




