17.試験の日 ―光は再び、少年の掌に
十年。
世界が最強の魔導師・スチュワード・レオンを封印してから、ちょうど十年が経った。
魔法社会は平穏を取り戻したように見えた。
しかし、裏では異変が続いている。魔力濃度の不規則な波、制御不能の“異界干渉”、そして十年前には存在しなかった“無詠唱反転”の発現者。
学術的には説明のつかない現象が、若い世代の魔法師たちの中に現れ始めていた。
その中で、ただ一人――異常なほどの才能を見せる少年がいた。
名は、天城リアム(あまぎ・リアム)。
十五歳。
日本魔法学校入学試験、史上初の“詠唱なしで三系統中級魔法同時発動”を成功させた天才。
彼の出身は、山間の孤児院。
血筋も家系も何も分からない。ただ、幼少期から“魔力の流れを視る”ことができた。
本人いわく、「世界の中に音がある。それが見えるんだ。」
試験会場――魔法学校の第一試験区。
円形の広場に、数百人の受験生が立っている。
審査官の声が響いた。
「次、受験番号1072番――天城リアム!」
その名が呼ばれると、周囲の空気がわずかに震えた。
彼が一歩前に出た瞬間、まるで空気が吸い込まれるように静まり返る。
黒髪に金の瞳。
その瞳は、十年前のあの少年――レン・シノミヤの面影をどこかに宿していた。
「準備は?」
「ええ、もう始まってます。」
審査官が目を見開く。
リアムの足元から、淡い光の紋章がゆっくりと浮かび上がった。
詠唱はない。
彼の呼吸と鼓動だけで、魔法陣が自律的に構築されていく。
「なっ……! 詠唱が、ない……!」
「待て、あの構築式は――十年前に封印された“時属性”の流れ……!?」
広場全体がざわつく中、リアムは小さく息を吐いた。
「……“刻流”。」
光が弾け、風が止まる。
砂塵の一粒さえも空中で凍りついた。
審査官たちは息を呑む――世界が、一瞬だけ“止まった”のだ。
やがて風が戻り、光が消える。
リアムは静かに立っていた。
「……試験は、これでいいですか?」
その声音は淡々としていたが、どこか悲しげでもあった。
審査官の一人が震える声で言う。
「天城リアム――合格だ。だが君、今使った魔法……どこで学んだ?」
リアムは首を傾げた。
「分かりません。ただ……夢で誰かが教えてくれたんです。
“お前の中に、時間の欠片がある”って。」
その瞬間、遠く離れた封印施設の奥――
時空封印区画L-01。
沈黙していた光の棺が、かすかに脈動した。
ほんの一瞬、内部の結界が波打つ。
封じられたレオンの意識が、微かに動いた。
(……誰だ……? この波動……まさか……)
少年が、空を見上げて微笑む。
彼の瞳の奥に、金色の残光が灯った。
それはまるで――レン・シノミヤの魂が、再び世界に還ったかのように。




