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魔法戦争  作者: ははんぽ
16/25

16.封印 ―この身、時の果てに沈むとも

レンが光となって消えてから、三日が経った。


 魔法学校の敷地は封鎖され、空はどこまでも曇っていた。

 生徒たちは外出を禁じられ、教師陣のほとんどは沈黙を守っていた。

 そして理事長会議――五大国合同の非常会議が、日本支部にて行われていた。


 その中央に立つのは、スチュワード・レオン。

 世界唯一の魔導師。

 レンの師であり、この時代で最も強く、最も危険な存在とされる男。


 「……スチュワード・レオン。君の存在は、もはや均衡を壊している。」

 重々しい声で告げたのは、アメリカ支部の理事長、アーネスト・ウォーカー。

 彼の言葉には怒りでも恐怖でもなく、“畏れ”が滲んでいた。

 「あの少年の死を悼む気持ちは我々も同じだ。しかし、君が一時的に発動した“時の魔法”――その力は、すでに人智を越えている。」


 「……時の魔法?」

 ロシア理事長のセルゲイが低く呟く。

 アーネストが頷いた。

 「目撃者がいる。レン・シノミヤが光と消えた瞬間、時空がわずかに逆行した。

 それは魔導師である君の“反応”だ。彼の魂を呼び戻そうとした……そうだな?」


 沈黙。

 レオンは答えない。

 彼の周囲の空気がわずかに震えた。

 周囲の理事長たちは息を詰める。

 彼の存在そのものが、魔力の奔流そのものなのだ。


 「……私は、救いたかった。ただそれだけだ。」

 低く、掠れた声。

 「彼はまだ、生きていていい人間だった。誰よりも純粋で、誰よりもまっすぐだった。

 なのに……“システム”が彼を見捨てた。」


 レオンの瞳が、淡く紅を帯びる。

 空気の温度が下がり、周囲の壁がきしむ。

 彼がほんのわずか感情を揺らしただけで、世界の構造が軋むのだ。


 「スチュワード・レオン。」

 日本理事長――老魔導師、榊 慶円が立ち上がった。

 「お前の痛みは、分かる。だが、今のままでは世界が耐えられぬ。

 “滅握封印”を執行する。」


 その言葉に、レオンの肩がぴくりと動いた。

 “滅握封印”。

 それは、超越者や滅握者クラスの暴走を止めるための最終儀式。

 対象の魔力を時間と空間の狭間に封じ、存在そのものを“凍結”させる。


 レオンの後ろで、空間がゆっくりと歪む。

 五大国から召集された滅握者たちが、封印陣を展開していた。

 天井から、無数の光の紋章が降り注ぎ、床には古代文字が輝く。


 「君の意識は保存される。」

 アーネストが言う。

 「いずれ、再び必要とされる日が来たら――我々が君を呼び戻す。」


 レオンは、ゆっくりと目を閉じた。

 かつて、レンが最後に見せた笑顔が脳裏に浮かぶ。

 金色の光、仲間たちを救ったあの瞬間。

 ――ああ、そうか。あの子は、自分を“信じた”のだ。


 「……その日が来るまで、私は抗わない。」

 静かな声が響く。

 「だが一つだけ、約束してほしい。レン・シノミヤという名を、世界から消さないでくれ。」


 榊がうなずく。

 「記録は、残す。彼は歴史に刻まれた“光の生徒”として記される。」


 封印陣が完成した。

 光がレオンの周囲を包み、空気が重く沈む。

 レオンは一度だけ拳を握りしめ、呟いた。


 「……レン、次の世界でまた会おう。」


 その瞬間、白い光が弾けた。

 教室で、あの時のように。

 だが今度は誰も悲鳴を上げない。ただ静寂があった。


 レオンの姿は光に溶け、やがて跡形もなく消えた。

 封印完了。時空座標L-01、魔導師スチュワード・レオン、静止。


 その夜、世界はほんの一瞬、時を止めた。

 風も波も、雲さえも止まる――まるで、彼の眠りを見守るかのように。

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