13.双心世界 ―レオンの覚醒とレンの邂逅
音が消えた。
風も、波も、鼓動すらも。
レンは目を開ける。
そこは黒と白が混ざり合う空間。
地も天もなく、ただ無数の魔法陣が浮かぶ世界。
「……ここは、どこだ……?」
呟いた声が、何重にも反響して返る。
自分の声ではない。何百、何千の自分が同時に喋っているようだった。
> 『ここは、お前の“核”だ、レン。』
耳に届いた声は、懐かしく、穏やかで、少しだけ気だるげだった。
振り向くと、そこに――彼がいた。
白銀の光を纏い、片手に杖もなく、ただ空気を掴むように立つ男。
教師服のような姿をしているが、輪郭が光に溶けて曖昧だ。
「……レオン先生?」
> 「ああ。ようやく繋がったか。悪いな、少し時間がかかった。」
レオンは穏やかに笑う。
しかしその背後に広がるのは、無限に展開する魔法陣群。
それは彼自身の思考と魔力が世界全体に拡散した証。
「……先生、死んだんじゃ……」
> 「死んだよ。一度はな。でも、同時に生まれ変わった。」
その言葉に合わせて、空間が震える。
白い光が渦を巻き、レンの足元から“魔力の海”が広がった。
> 「俺はもう“人間”じゃない。世界の裏側――魔力網そのものに繋がっている。」
> 「この身体はないが、世界中の魔法が呼吸するたび、俺はそこにいる。」
「……つまり、あなたは……」
> 「“世界の教師”ってとこだな。悪くない肩書きだろ?」
軽口のような言葉の裏に、計り知れない重みがあった。
その瞬間、レンの胸に熱が走る。
レオンの声が、直接魂を叩いてくるようだった。
⸻
> 「レン、見ろ。」
レオンが指を弾くと、周囲の闇が割れた。
そこに映ったのは、地上の光景。
崩壊した日本魔法学校、黒塔から溢れる呪力の奔流。
そこに立つ、一人の少年――“もう一人のレン”。
> 「あれが、お前だ。」
「……僕……?」
> 「アーク・コードの断片が、お前の魔力構造に融合して生まれた。
> お前は封印の“鍵”であり、“再起動の端末”でもある。」
レンは唇を噛む。
理解は追いつかない。だが胸の奥で、確かに“あれ”が自分の一部だと感じていた。
> 「世界は今、再調律の真っ最中だ。お前の中の“もう一人”が完全に覚醒すれば、
> 封印は壊れ、アーク・コードが再び全世界に展開する。」
「……じゃあ、止めるには?」
> 「簡単だ。自分を倒せ。」
静かな言葉。
しかしその響きは、刃のように冷たかった。
「僕が……僕を?」
> 「そうだ。だが一人では無理だ。
> あいつは、俺が十年前に封印した“アークの意志”を継いでいる。
> 今のままじゃ勝てない。」
レオンが掌をかざす。
そこに、光の文字列が浮かび上がった。
『神位構文』
> 「これは、俺が世界魔力網と融合した時に見えた“上位構文”だ。
> 通常の魔法構築は式の集合体に過ぎないが、これは世界そのものの法則式。
> 言い換えれば、“神の詠唱”だ。」
光がレンの胸に流れ込む。
脈が跳ね、視界が白く染まる。
> 「これは俺の一部。お前に託す。」
> 「な、なにを……」
> 「“概念干渉”。
> お前自身の存在構文を書き換える権限だ。
> お前の意思次第で、どんな運命も塗り替えられる。」
レンの意識が焼ける。
叫びながら、彼は光の奔流に包まれた。
⸻
目を開けると、そこは再び現実。
崩壊した魔法学校の跡地。
黒塔の前に、“もう一人の自分”が立っていた。
> 『ようやく、来たか。』
黒いレンが微笑む。
その瞳の奥には、世界の闇そのものが揺らめいている。
だがレンは、もう怯えていなかった。
胸の中で、あの声が響いている。
> 『恐れるな。俺が、ここにいる。』
光の魔法陣がレンの足元に展開する。
それはレオンの魔力構文を継承した“世界語の詠唱”。
空気が震え、時空が軋む。
「――神位構文、展開。式番号・無限。再構築:存在定義――!」
黒いレンが笑う。
> 『それは……レオンの術か。やはりあの男、消えてはいなかったか。』
「先生は、世界になった。
そして、僕に“生きろ”と言った。
だから――お前を、終わらせる!」
雷鳴のような音が空間を裂く。
レンと“もう一人のレン”が、真っ向からぶつかる。
その瞬間、空の彼方で光が走った。
黒塔の上空に、無限の魔法陣が出現する。
それは、世界そのものがレオンの意志に応えている証。
> 『――これが、真なる魔導師か……!』
黒いレンが叫ぶ。
だがその声は、すぐに雷鳴にかき消された。
白と黒。
創造と破壊。
その狭間で、少年は初めて“本当の自分”と向き合う。
そして、レオンの声が再び響く。
> 「さあ、レン。授業の時間だ。
> 世界の“正しい在り方”を、教えてやる。」




