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魔法戦争  作者: ははんぽ
12/25

12.再調律計画 ―魔導師、世界を繋ぐ

空がざわめいていた。

 雲が流れるたびに、空間がひずむ。

 人の目には見えない“魔力の風”が、世界中で逆流しているのだ。


 その中心――東京魔法区、旧・中央魔法局跡地。

 かつて黒塔が立っていた場所に、今、白い巨大な魔法陣が描かれようとしていた。


 「中心座標、固定完了。

  北緯三十五度四十一分、東経百三十九度四十一分。

  ……これで、日本が“世界の心臓部”になる。」


 指揮を執るのは、スチュワード・レオン。

 黒い手袋を外し、地面に直接手を置く。

 彼の指先から金の光が走り、幾何学の紋様が広がっていった。


 周囲には、各国から派遣された魔法師たち。

 アメリカ、ロシア、中国、インド、そして欧州連盟――

 それぞれが自国の“魔力塔”と同期するよう、術式を調整している。


 「これが……“再調律陣”ですか。」

 真里亜理事長が静かに問いかける。


 レオンはうなずいた。

 「人類が持つ魔力波形を一度すべて“初期化”する装置だ。

  世界中の生命体の魔力を、一瞬だけ繋げる。」


 「そんなこと、本当に可能なの?」


 「不可能だよ、普通ならな。」

 彼は軽く笑った。

 「けど、俺がやるんだ。普通じゃねぇ魔導師が。」



 魔法陣の調整が進むにつれ、空間の温度が変わっていく。

 地面から立ち上がる蒸気のような魔力。

 それが風に乗って漂い、人々の身体を通過するたびに、心臓が一瞬跳ねる。


 「……これが、世界を一つに繋ぐ力。」

 誰かがつぶやいた。


 「だが、代償も大きい。」

 レオンは立ち上がり、空を見上げた。

 「この術式を完成させれば、俺の魔核は崩壊する。

  世界に繋がった“根”が、俺自身を分解するんだ。」


 真里亜は拳を握る。

 「まだ間に合うわ。別の方法を――」


 「いや、これは“選んだ結果”だ。」

 レオンの声は穏やかだった。

 「俺は教師として、あいつらに“未来を選ぶ力”を教えた。

  なら、俺自身が“選ぶ背中”を見せてやらねぇと。」



 その頃、世界各地で異変が起きていた。


 ニューヨークの上空では、空が割れるように光が走り、

 ロシアの氷原では、大地の下から青い光柱が立ち昇った。

 中国の西域では、砂漠の真ん中に“第二の月”が出現し、

 インドの聖都では、神殿の石像が一斉に魔力を放ち始めていた。


 世界が、呼応している。


 そして、それらすべてが――

 東京の一点、レオンのもとへと集束していく。



 夜。

 日本魔法学校の屋上。


 レオンは一人、空を見ていた。

 月が歪み、薄く黒い線が走っている。

 黒塔の残滓。


 「……やっぱり、間に合わねぇかもしれねぇな。」


 ポケットから、小さな水晶球を取り出す。

 中にはレンの魔力波が封じられている。

 微かに、光が揺れていた。


 「レン、お前の中の“もう一人”……どこまで侵食してんだ?」


 背後から声がした。

 「彼はまだ、戦ってるわ。」


 真里亜だった。

 彼女の手にも同じ水晶球があり、優しく光を放っている。


 「心の底で、あなたの声を探してる。

  だから――レオン、あなたが諦めたら、彼はもう戻ってこない。」


 レオンは小さく息を吐いた。

 「分かってる。……だから、全部繋ぐんだ。」



 翌日。

 “世界再調律会議”が開かれた。

 各国代表が再び結界空間に集い、巨大な立体魔法陣を見上げる。


 「人類の総魔力を制御するなど、神の領域だ。」

 ジョナス・ケインが吐き捨てるように言う。

 「失敗すれば、世界が一瞬で崩壊する。」


 「分かってる。」

 レオンは即答した。

 「だが、やらなきゃ確実に滅ぶ。」


 「お前は……自分を犠牲にしてまでそれをやる価値があると思うのか?」


 レオンは笑った。

 「価値なんざ知らねぇよ。

  けど――“守りたい顔”があるんだ。

  それだけで十分だろ。」



 最終準備。

 世界各地の魔法塔が一斉に光を放つ。

 地球全体が淡い金色の線で結ばれ、まるで巨大な陣を描いたように見える。


 その中心、東京で、レオンが立つ。


 「開始まで、あと五分。」

 真里亜の声が震える。


 レオンは目を閉じ、息を吸った。

 空気が震え、魔力が身体の中で渦巻く。

 まるで“世界そのもの”が心臓に入り込むような感覚。


 ――その時、彼の脳裏に声が響いた。


 『……レオン先生。』


 レンの声だった。

 かすかで、遠くて、それでも確かに。


 『俺、まだ……ここにいます。

  でも、もう一人の俺が、外に出ようとしてる……!』


 「クソッ、早すぎる……!」


 レオンは術式を強制展開した。

 世界の光が一斉に爆ぜる。

 空が裂け、雲が裏返り、地平線まで黄金色の波が走る。


 「全世界魔力リンク、起動――!」


 大地が叫び、空が鳴る。

 人々の身体から放たれる微細な魔力が、一本の光の糸となって空へ昇っていく。

 それらすべてが、レオンの胸へ――。


 「レン、聞こえるか!」


 『……はい。先生。』


 「絶対に戻ってこい。

  俺が世界を繋ぐ間に――お前は、自分を取り戻せ!」


 『……わかり、ました。』


 レオンの全身が光に包まれる。

 その輪郭が少しずつ透け始めた。


 真里亜が叫ぶ。

 「レオン!!」


 だが彼は、ただ笑っていた。


 「心配すんな。教師が生徒を信じなくて、どうすんだよ。」


 ――世界が、音を失った。


 すべての魔力が、静止する。

 その瞬間、レオンの姿が、光の中に溶けていった。

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