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魔法戦争  作者: ははんぽ
11/25

11.世界会議 ―魔導師の覚悟


 黒塔の崩壊から七日後。

 世界は、静かにざわめいていた。


 ニュースも、政府も、そして魔法局でさえ、

 黒塔の“存在”そのものを記録から抹消していた。

 しかし、世界の魔力循環は確実に変化している。


 魔力濃度の乱れ、自然の歪み、異常な魔物の発生率。

 それらは、黒塔の“封印解除”が完全ではないことを示していた。



 日本魔法学校の地下深く――そこは外界と遮断された“封印回廊”。

 その奥に、ひとつの光る魔法陣が浮かんでいる。

 そこに立つ男がひとり。


 スチュワード・レオン。

 白いコートを翻し、静かに術式を展開する。


 「……アーク・コードの反応、完全に消えていない。」

 彼は自分の掌を見つめる。

 微かに金の紋が浮かび、震えていた。


 「レンの魔力が、まだ繋がってる。

  やっぱりあいつ、“鍵”として完全に閉じられてねぇ……。」


 その背後で、ドアが開く。

 現れたのは真里亜理事長。

 「レオン、準備は整ったわ。各国の代表が“評議空間”に集まってる。」


 レオンは肩を竦めた。

 「はぁ……やっぱり逃げられねぇか。」


 「あなたが世界唯一の“魔導師”なのよ。

  誰も、あなた抜きで結論なんて出せない。」


 「そんな肩書き、面倒なだけなんだがな。」



 評議空間――

 地上500メートルの魔法局本部に存在する、世界五大国を繋ぐ会議結界。

 ここでは、五国の“魔法理事長”と“超越者代表”が顔を合わせる。


 空間の中央には、五つの玉座が浮かび、

 日本・アメリカ・ロシア・中国・インドの国章が光を放っていた。


 「――日本代表、スチュワード・レオン。入場を許可。」


 結界の声が響く。

 光の扉が開き、レオンが歩み出る。


 その瞬間、ざわめきが起きた。

 「……本物だ」「魔導師が、評議に姿を現すとは……」

 「十年前以来だぞ……」


 彼は静かに中央へ歩み、立ち止まる。

 「久しぶりだな。世界の連中が、まだ俺を“味方”だと思ってるとは意外だ。」


 アメリカ代表の滅握者、ジョナス・ケインが冷笑する。

 「味方かどうかは知らんが――黒塔を暴走させた張本人が、よくも顔を出せたな。」


 ロシア代表、アレクサンドル・ヴォルコフが重々しい声で続ける。

 「我々の観測によれば、黒塔は日本の魔力座標から出現した。

  つまり、貴国が再封印に失敗したのだ。」


 中国代表の女超越者、**楊玲華ヤン・リンファ**が冷ややかに笑った。

 「それに……封印の“鍵”である少年、篠宮レン。

  あの子、どこにいるの? まさか、もう壊れたのではなくて?」


 レオンは沈黙した。

 周囲の空気が、張りつめる。


 「質問を変えよう。」

 ジョナスが椅子に肘をつき、鋭く言い放つ。

 「アーク・コードは完全に沈黙したのか?」


 レオンはゆっくりと答えた。

 「――いや。まだ、生きてる。」


 その言葉に、全員の表情が変わる。


 「内部から干渉が続いてる。封印層の残響が残ってるんだ。

  今の状態は“閉じた棺の中で、死体がまだ息をしている”ようなもんだ。」


 真里亜が補足する。

 「現在、レンくんは意識不明のまま。

  彼の魔力波動は安定してるけど、時々“外部の魔力”に反応しているの。」


 アレクサンドルが唸る。

 「つまり、封印は不完全……。再覚醒の可能性があると?」


 「その通りだ。」レオンの声が低く響く。

 「だが――今回は、前とは違う。」


 「違う?」ジョナスが眉をひそめる。


 レオンはゆっくりと右手を上げる。

 空間に、複雑な術式が浮かんだ。

 光の紋が交差し、観測装置が一斉に反応を示す。


 「これが、黒塔の中で観測された“反転波形”の断片だ。」


 映し出された映像――

 そこには、レンの姿があった。

 しかし、その背後に、もうひとりの“レン”が立っている。


 「……二重存在?」玲華が目を細める。


 「そうだ。アーク・コードは“人の意志”をコピーして、自己保存を試みていた。

  つまり、塔の核はレンと同化しつつ、“もうひとつの人格”として眠ってる。」


 沈黙。

 そして、ジョナスが冷たく笑う。

 「ならば簡単だ。少年を処分すれば、塔も完全に沈黙する。」


 その瞬間、空間の温度が下がった。

 レオンが、目を細めて笑っている。


 「――今、何て言った?」


 ジョナスの首筋に、風が走った。

 音もなく、彼の椅子の背後の壁がえぐり取られている。

 レオンの指先から、わずかに光が漏れた。


 「二度と“生徒を殺せ”なんて言葉を口にするな。

  次はお前の舌を封印する。」


 玲華が小さく息を呑む。

 「……さすが、“魔導師”ね。」


 アレクサンドルが手を上げ、沈黙を促す。

 「落ち着け。

  だがレオン、お前の言葉には一理ある。

  もし封印を再び保つ手段があるなら、我々は協力する。」


 レオンはうなずいた。

 「手段はひとつだけだ。

  ――人類すべての魔力を、再調律する。」


 「なっ……!?」「それは狂気だ!」


 「聞け!」

 レオンの声が空間を揺らす。

 「世界の魔力総量は、限界を超えている。

  黒塔の封印が開いたのも、人類が“力を求めすぎた”からだ。

  もし全員の魔力波を再構築できれば、アーク・コードとの干渉は断てる!」


 玲華が低く言う。

 「だが、それを実行できる者はいない。」


 レオンは静かに笑った。

 「――できるのは、俺だけだ。」



 会議室が静まり返る。

 真里亜だけが、わずかに唇を噛みしめていた。

 「レオン、それをやれば、あなたの身体は――」


 「分かってる。」

 レオンは静かに言う。

 「俺の魔力は世界と繋がってる。再調律を行えば、俺自身の核が崩壊する。

  だが、レンを救うにはそれしかねぇ。」


 「……本気なの?」玲華が問う。


 「十年前、俺は世界を救えなかった。

  今度は、ちゃんと救うさ。

  あいつら――“生徒たち”の未来をな。」



 評議が終わり、扉が閉じた。

 レオンは静かに夜空を見上げる。

 月の代わりに、空には薄く黒い線が走っていた。

 封印の裂け目。


 「……時間がねぇな。」


 ポケットの中で、レンのペンダントが微かに光る。

 それは、まだどこかで彼が“生きている”証だった。

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