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魔法戦争  作者: ははんぽ
10/25

10.黒塔の覚醒 ―封印、開門す

朝が来なかった。


 東の空は黒く、陽は昇らない。

 魔法学校の上空には、巨大な影――黒塔が、ゆっくりと輪郭を取り戻していた。


 「……十年ぶり、か。」

 校舎の屋上で、レオン・スチュワードは煙草をくわえながら空を見上げた。

 黒い煙を吐くように、塔の周囲の空間が歪んでいる。


 その歪みの中心から、音がした。

 鼓動のような、呼吸のような、何かが“目覚めている音”。


 「理事長、観測結果は?」

 背後に現れたのは、日本魔法学校理事長、ひいらぎ真里亜。

 彼女の表情は硬い。

 「魔力波形は完全に一致。あの塔……“アーク・コード”の中枢部が反応してる。」

 「……やっぱり、レンの覚醒が引き金か。」


 真里亜は無言で頷いた。

 「封印の鍵が再び力を使った。封印層が一枚、剥がれたの。」


 レオンは煙草を指で潰し、空へと放った。

 「十年前と同じ流れだな。……だが、今回は“俺”が暴発する前に、止める。」



 一方その頃、医療棟。


 白い天井を見上げて、篠宮レンは息を吸った。

 全身が重い。まるで鉛の中に沈んでいるような感覚。


 「……生きてる、のか。」

 ぼやけた視界の先で、ユナが座っていた。

 包帯だらけの腕を抱えながらも、笑っている。

 「死ぬほど心配したんだから。先生が、あなたを抱えて帰ってきた時……」


 レンは言葉を失った。

 記憶が断片的に蘇る。

 金色の光。時間の停止。あの声。


 ――“選べ”。


 「俺……何を、したんだ?」


 ユナが首を横に振る。

 「分からない。ただ、あなたの魔力が暴走した瞬間、黒塔が動き出した。」


 黒塔――。

 レンの中で、何かが疼いた。



 「レン。」


 低い声が医療室に響く。

 レオンが扉の前に立っていた。

 「歩けるか?」


 「……はい。」


 二人は無言で廊下を進む。

 窓の外には、黒塔が夜空を裂くようにそびえている。

 その頂上から、黒い光が天へと伸びていた。


 「先生……あれは、何なんですか。」


 レオンは足を止め、少し間を置いて言った。

 「“世界の起源”だ。

  魔法という概念そのものを生み出した根源――《アーク・コード》。

  十年前、俺たちはそれを封じた。」


 レンの目が大きく開く。

 「十年前って……先生が“滅握者”をやめた理由……?」

 「ああ。あの時、世界は崩壊しかけた。

  俺が“コード”の心臓を引き抜いた……その結果が、お前だ。」


 言葉が、空気を凍らせた。


 「お前の中にある“紋”は、アーク・コードの中枢に直結してる。

  お前が目覚めれば、塔も目覚める。」


 「じゃあ……俺が、あれを呼び起こしたってことですか?」

 レンの声は震えていた。

 レオンはゆっくりと頷く。


 「だが、責めるな。

  目覚めたのは必然だ。“誰か”が外から干渉してる。」


 「Λ(ラムダ)……シグマ……。」


 「そうだ。やつらは封印を完全に開くつもりだ。」

 レオンの声が低くなる。

 「そのためには、“鍵”――つまりお前を使うしかない。」



 その時、警報が鳴り響いた。


 《警告:黒塔周辺で次元振動を観測。封印層、第六層が崩壊。》


 真里亜の声が校内スピーカーに響く。

 「全生徒は避難を開始! レオン、黒塔の観測を中止して!」


 レオンはレンの肩を掴んだ。

 「行くぞ。今度は逃げられねぇ。」


 「……はい!」



 黒塔の前。


 空が裂け、雷鳴が轟く。

 塔の根元に刻まれた巨大な魔法陣が淡く輝いている。

 周囲の空間が波打ち、空気が重く沈む。


 「封印層が開いていく……!」

 真里亜が術式を展開するが、光は押し返される。

 「ダメ……内部からの干渉が強すぎる!」


 レンは塔を見上げた。

 塔の表面には、彼の胸の紋章と同じ“金の紋”が浮かんでいる。

 まるで、彼を呼んでいるように――。


 「先生、俺……行きます。」

 「バカ言え! 中に入れば二度と戻れねぇ!」

 「でも、俺しか反応できないんでしょう?」


 レオンは歯を食いしばる。

 目の前の少年の瞳は、もう恐れではなく、決意に満ちていた。


 「……くそ。勝手に死ぬなよ。」

 「先生こそ。」


 レンは塔に手を触れた。

 瞬間、光が爆ぜ、身体が浮かぶ。


 ――黒塔の門が、開く。



 視界が白く反転した。

 そこは、空でも地でもない、“何もない”空間。

 ただ、遠くに浮かぶ巨大な結晶の心臓が、ゆっくりと脈打っていた。


 > 『……ようやく、戻ったか。』


 声が響く。

 レンはその方向を見た。

 そこにいたのは、“自分と同じ顔をした存在”。


 「お前は……誰だ。」

 > 『私は“アーク・コード”。

  お前の中に宿る、原初の魔法意志だ。』


 その瞳は、人間のものではなかった。

 金色に光る、底なしの虚無。


 > 『世界は限界を迎えている。

  魔法の理は崩れ、生命は飽和した。

  ゆえに――私は再構築を始める。』


 レンの心臓が早鐘を打つ。

 「再構築……それって、まさか!」

 > 『すべての生命を“ひとつ”に還す。』


 次の瞬間、黒塔が震えた。

 外の世界では、空が裂け、都市が光に包まれていく。


 真里亜の叫びが無線に響く。

 「封印層、完全に崩壊!! 塔の中枢が開門したわ!」


 レオンは空を見上げ、低く呟いた。

 「……間に合え、レン。」



 白い空間の中で、レンは拳を握った。

 「世界を壊させない。

  たとえ俺自身が“鍵”でも……俺は人間だ!」


 金色の光が再び彼の体から迸る。

 アーク・コードの目が、わずかに揺れた。


 > 『人間の意志――。それが、“再構築”に抗うとでも?』

 「抗ってみせる!」


 レンの掌に魔法陣が浮かぶ。

 それは、十年前レオンが使った禁術――反転術式構築。

 彼は知らず、それを完全に再現していた。


 「第零式――《封神逆界ふうしんぎゃっかい》!!」


 轟音とともに、光と闇が衝突する。

 アーク・コードの身体がひび割れ、黒塔全体が激しく揺れた。


 > 『まだ終わらぬ……人の子よ……。』


 最後の声が消えると同時に、塔は崩壊を始めた。

 レンの視界が白に包まれ、すべてが溶けていく。



 そして――静寂。


 朝日が、昇っていた。

 空にあった黒塔は消え、ただ青空が広がっている。


 瓦礫の上で、レオンが目を細めた。

 「……やりやがったな、レン。」


 風が吹き抜ける。

 遠く、金色の光の粒が空に漂い、やがて陽光に溶けて消えた。

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