表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物の恋人  作者: あおき華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

ep.9

 季節は秋になった。


 アトリエにはたくさんの張りキャンバスがある。中には描きかけの肖像画が立てかけてあった。

 以前ライアンをモデルに描いていたものだ。


 あの頃はライアンを疑いもしなかった。


 扉がノックされる。


「ソフィー。ヴィクトリアよ。開けてちょうだい」


 ソフィーは体を起こした。重い足取りで進み、鍵を開ける。

 ヴィクトリアが入ってきた。


「ソフィー。マーガレットが心配してるわ。様子がおかしいって知らせてくれたのよ」

「⋯⋯ヴィクトリア」

「エミリアの結婚式にも来なかったし、どうしてしまったの?」


『エミリアの結婚式』は今一番聞きたくない言葉だった。


 ソフィーは溢れる涙を堪えられなくなった。


「ソフィー、一体何があったの?」


 ヴィクトリアがソフィーをのぞき込み手を握る。


「ヴィクトリア、私、ライアン・カッセルと付き合っていたの。彼にエミリアがいるなんて知らなかったのよ」


 ヴィクトリアは目を見開いた。


「同時に交際していたということ?エミリアは知っているの?」

「エミリアには言わないで!お願い!彼女まで傷つけたくないの」


 ヴィクトリアは涙するソフィーの背中を長い間擦り続けた。


「そう、⋯⋯そうだったのね。ソフィー。つらい思いをしたのね。でも大丈夫。これからもっと素敵な出会いがあるわ。ライアンのことは忘れましょう」


 ヴィクトリアはソフィーを抱きしめた。


 ソフィーは青い顔で打ち明けた。


「でもヴィクトリア、私妊娠してるみたいなの」


「何ですって!?」


 ヴィクトリアはソフィーのまだ目立たないお腹を見る。


「確かなの?」

 ソフィーは頷く。

「ご両親とお兄さんはご存知なの?」


 首を横に振る。


「言えないわ。ヴィクトリア、私赤ちゃんと2人で生きる」

「でも、どうやって?」


 ソフィーは答えられない。


 ヴィクトリアは顎に手を当てしばらく思案する。


「ねぇ。私達もうすぐ領地に帰るつもりだったの。ソフィーも一緒に行きましょうよ」

 ソフィーは狼狽える。

「ヴィクトリアに迷惑をかけられないわ」


「これからどんどんお腹が大きくなって隠せなくなるわ。我が家で安心して子供を産めばいいのよ。どうするかはその後ゆっくり考えたらいいわ。なんならずっと居てくれても構わない。うちは広いから」

「だめよ」


「ソフィー、あなたを助けたいの。あなたが好きなのよ」


 ソフィーはヴィクトリアに負担をかけたくなかった。だが一人で生きるすべも知らない。


 ソフィーはヴィクトリアの手を取り、頭を下げる。

「ヴィクトリア、ごめんなさい。ありがとう」




 出立の日になった。


 両親と兄には手紙で旅行に行くと伝えた。荷造りは終わり、ソフィーはアトリエに向かう。

 簡単に片付けて休んでいると、ヴィクトリアが迎えに来た。


「準備は出来たかしら」


 抱擁し合う。


「ええ、もう行けるわ」


 ふと、ヴィクトリアがライアンの絵に視線を向ける。


「ソフィー、これは誰の絵なの?」

「ライアンよ。あまり似てないかしら?」


 ソフィーは絵を見えない所にしまおうと持ち上げた。


 ヴィクトリアは眉をひそめる。


「待って。似てないというか⋯⋯それはライアンとはまるで別人だわ。髪の色は同じだけど、ライアンはもっとこう、ふくよかだし、瞳もブラウンよ」


 ソフィーの知るライアンとはまるで違う。


 血の気が引いて座り込む。


「分からないわ、どういうこと?」


「ソフィー⋯⋯あなたの会っていた人はライアンではないわ」


 ソフィーはお腹に手を当てた。


「うそよ」


 拒絶するうちに訪ねてくることも無くなった。どこの誰かも分からない。

 ソフィーは吐き気がしてきた。ヴィクトリアも青ざめている。


 ヴィクトリアの夫、ダニエルも迎えに来た。ソフィー達は沈んだ顔で馬車に乗る。


 ソフィーは馬車に揺られる。不安に押しつぶされそうだ。

 風景を眺め、何とか心を落ち着かせながら、ソフィーは遠く離れたダニエルとヴィクトリアの領地、ブライベリーへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ