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偽物の恋人  作者: あおき華


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ep.2

 昼過ぎ。ソフィーは庭で画板に向かっていた。黄色のスイセンの花をじっと観察しては、手を動かして絵を描く。


 屋敷からソフィーの侍女のマーガレットが走って来た。手紙を持っている。兄エリックからだった。


 急いでノースヒルズの基地まで来るようにと書いてある。


「マーガレット、こんなこと初めてよ。何かあったのかしら?」


 ソフィーはマーガレットとともに馬車に乗り、エリックのもとに向かった。


 待ち合わせを指示された正門に着く。衛兵が数人警備していた。少し離れて待つ。どうして呼び出されたのか分からない。


 ソフィーはそわそわと動き続けた。


「お嬢様!エリック様ですよ」


 中から現れたエリックは、敬礼する衛兵と少し話すとソフィーに向かって来る。


「ソフィー。急に呼び出して悪かったね」


 ソフィーは駆け寄る。


「お兄様、何があったのですか?」

「⋯⋯いや、何かあったわけじゃないんだが⋯⋯」


 ソフィーは安堵した。ソフィーはこの寡黙で優しい兄が好きだった。


 エリックはソフィーの腕を取る。くるりとソフィーを回らせて全身をチェックした。ソフィーの乱れていた髪を耳にかけて整える。


「ソフィー、もう一度確認するが本当に結婚したいんだね?]

「え?」

「良い相手を紹介出来そうなんだ」


 エリックはソフィーの頭を撫でた。


「母上に任せるのは少し心配だからね。金が有ればどんな相手でも選びかねない」


 ソフィーが心配していた事を、兄も同じように気にしてくれていたようだ。ソフィーは胸が温かくなった。


「ところでソフィー。もう少しいい服はなかったのかい?所どころ絵の具が付いているよ」

「急いでたのよ」

「マーガレット、とりあえず顔に付いたのを拭いてやってくれ。今から会う」


 マーガレットが慌ててハンカチを取り出す。


「でも、どなたと?軍にお勤めの方ですか?」

「そうだ。ジェイムズ殿下だ」

「え?どなた?」

「ジェイムズ殿下だ」


 ソフィーは困惑してマーガレットを見る。マーガレットも戸惑っているようだ。


「どうしてそうなるのです?」


 ジェイムズ殿下は国王の次男。陸軍の大将でもある。雲の上の存在だ。一方のソフィーは貴族でも下の方の男爵令嬢である。


 遠くからこちらに向かって複数、馬の蹄の音が近づいてくる。


「もうすぐジェイムズ殿下が視察に来られるはずだ。ソフィー、一緒にご挨拶しよう」

「お兄様!絶対やめて下さい。まさかもう王子様に話したりしていませんよね?」

「いや、ソフィー⋯⋯」


 尊敬する兄らしくない常識外れな発想に、ソフィーは驚きを隠せなかった。

 ソフィーは王子に釣り合う娘ではない。しかも今は任務中でかなり心証が悪い。王子の不興を買ってしまう。


 ソフィーはエリックの将来が心配になり、珍しく語気を強めた。


「やめてください。王子様は絶対嫌です!」

「しかし…」


「お兄様には感謝します。でも私はもっと気安い相手が良いのです」


 エリックに釘を刺す。


 蹄の音がどんどん近づいてくる。


「マーガレット、もう行きましょう」


 兄を残し、ソフィーは馬車へと逃げ去るように走って行った。

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