ep.14
「大事な話があるの」
ソフィーは二階の奥にある子供部屋にジェイムズを連れて行った。
子供部屋のドアには可愛らしくクマやウサギの装飾がほどこされている。
ジェイムズは何かを察したのか、今まで見たことのない様な苦い顔をしている。
部屋に入るのをためらっているようだ。
「ソフィー。場合によっては君を許せないかもしれない」
暗い目つきでソフィーを見る。
ソフィーは頷いてドアを開けた。
ロージーは部屋の左手にあるベッドにいる。ソフィーは近づいた。
すやすや眠っている。
ジェイムズは何も言わずロージーを注視している。
ランプの灯りでロージーは目を覚ましてしまった。
鮮やかな青い目を開き、キョロキョロと目を動かした。ソフィーに気づくと安心してまたゆっくり目を瞑る。
ジェイムズが息を呑んだ。
「私の子だ」
呆然としている。
ソフィーはおかしくなった。なぜ最初から自分の子供という発想にならないのか。
どれくらい経っただろうか。
ジェイムズはずっとロージーを見ている。
ぽつりとソフィーに尋ねた。
「名前は?」
「ロージーよ」
「ロージー⋯⋯」
ジェイムズはロージーの頬に手を伸ばす。
触れる手前でためらい、腕を下ろした。
「しばらくここに居てもいいかい?」
ジェイムズの目が涙で光って見えた。
「ええ」
ソフィーはジェイムズの気持ちを汲み、ひとり寝室に戻った。
翌朝、ソフィーが身支度をしていた所にヴィクトリアがやってきた。メイド達を連れている。
ヴィクトリアは困り顔だ。
「ソフィー。王子があなたの荷物をまとめるように言うのよ。結婚するって本当なの?」
ソフィーは慌てて応接間に向かった。
ソフィーが部屋に入ると、ジェイムズとエリック、ダニエルがいた。
エリックは当然のようにロージーを抱っこしている。ジェイムズはダニエルに今までの感謝を述べていた。
まるでもう話がついたような雰囲気だ。
ソフィーはジェイムズを部屋の外に連れ出した。
「どういうことなの?何も聞いてないわ」
「私達にはロージーがいるんだ。結婚するのは当然だろう?」
「でも私は男爵家の娘よ」
「そこに拘るのはもうやめるんだ。ロージーを幸せにしたくないのか?」
そう言われては、ソフィーは何も言うことが出来なかった。
ブライベリーを去る日。
ソフィーとヴィクトリアは抱きしめ合い別れを悲しむ。オリバーも少し寂しそうだ。
ロージーはエリックと乳母に連れられて、先に馬車で出発した。ソフィーとジェイムズも後を追う。
まずはソフィーの両親の待つハワード男爵邸へ向かうこととなった。
「ロージーと一緒にいたかったわ」
馬車の中でソフィーがつぶやく。
「今は私の事だけを考えてくれ」
ジェイムズはソフィーを膝に乗せた。
「こうしたかったから馬車を分けたんだ」
満足げに抱きしめる。
「あなたロージーのために結婚するんじゃなかったの?」
「無理やり結婚を決められて嫌いになったかい?」
ソフィーは首を横に振る。
「愛してるわ」
ソフィーは囁いた。
「ソフィー、キスしてくれ」
ジェイムズが懇願する。
ソフィーはありったけの思いを込めて、ジェイムズにキスをした。