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偽物の恋人  作者: あお卵
13/15

ep.13

 夜中、ソフィはロージーの顔を見に子供部屋に向かった。


 今日、一日会えなかった。せめて寝顔が見たい。エリック達に見られると困るので、自由に屋敷や庭園で遊ばせてやれなかった。

 ソフィーは胸が痛んだ。


 階段前に、ジェイムズ王子がいた。

 ソフィーはスカートを持ち、お辞儀をした。

 引き返そうとすると、王子に呼び止められた。


「私を忘れてしまったのかい?」


 ソフィーはどう振る舞うべきか戸惑う。


「ソフィー。何か言ってくれ」


 王子はまるで怒っているようだ。


「殿下」

「そんな風に呼ぶな」

「何とお呼びすればいいか分かりません」


 王子がソフィーの腰を掴んで引き寄せた。


「私がどれだけ心配したか分かるか。君が死んだかもしれないと思ってた」

「離して下さい」


 王子はびくともしない。


「思ったよりずっと元気そうで、複雑な気分だよ」


 鋭い目でソフィーを見る。


「君はここで一体何をしていたんだい?」


 階段の陰にピーターが立っている。こちらを覗いていた。

 王子がソフィーの視線の先を見る。


「今度はあの男にしたのか?」


 ソフィーは王子をひっぱたきたくなった。


 不意に王子がソフィーにキスをしようとした。

 ソフィーは顔を背ける。唇は頬に当たった。


 王子はぐっと眉をひそめた。


「消えろ!」

 ピーターに向けて怒鳴る。


 ピーターは走り去って行った。



「ジェイムズ王子だったなんて思いもしなかったわ」

「伝えるつもりだった」


 ソフィーは手をぎゅっと握りしめる。


「もう騙されない」


 ソフィーは近くの部屋に連れ込まれた。


「やめて」


「私を信じて欲しかった。君が大切だと態度で示していたはずだ」


「無理よ」


「ソフィー。本当の事を伝えようとしたんだ。でも怖くて言えなかった」


「何故ライアンのふりをしたの?」


「君に逃げられたくなかった。⋯⋯王子は絶対に嫌なんだろう?」


 ソフィーは狼狽えた。

 思いを巡らす。


 あの日、王子を紹介しようとしたエリックにそんなことを言った気もする。


 王子の表情が強張っている。


「舞踏会でダンスして、君への気持ちを終わらせをようと思っていた」


「あの時初めて会ったのに」


「違うよ。初めてはデビュタントの日だ。君は緊張していたね」


「覚えてないわ」


 ソフィーはデビュタントの日、気持ちが舞い上がって周りが見えていなかった。


「私にカーテシーしてくれたよ」


 王子は目を細める。


「予想外に君は私を受け入れてくれた。夢のようだった。でも君に近づく度につまらない嘘をついた事に苦しめられた」



 王子の態度には嘘がない。

 ソフィーはまるで、心の氷がゆっくり溶けていくように感じた。



「殿下」

「ソフィー。ジェイムズと呼んでくれ」


 ジェイムズがソフィーを強く抱きしめる。


「君に会いたくて気が狂いそうだった」


 耳に当たるジェイムズの胸から激しい鼓動が聞こえる。


「ソフィー、あの頃みたいにキスしてくれ。愛してるんだ」


 ソフィーは戸惑った。

 ジェイムズはまだロージーのことを知らない。

 秘密を抱えたまま、ソフィーはジェイムズにキスすることができなかった。

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