ep.12
兄の到着時間が近づいた。ソフィーはヴィクトリア達と館の前で待つ。
紋章が刻まれた馬車が入って来た。
エリックは何と言うだろうか。ソフィーは不安と期待が入り混じっていた。
馬車から現れた兄を見て、駆け寄りたくなったが、王子の手前ぐっと堪える。
「ソフィー」
「お兄様」
エリックは何も聞かずにソフィーを抱きしめた。
ソフィーも抱きしめ返す。
「ごめんなさい」
「いいんだ。無事でよかった」
エリックは優しくソフィーの頭をなでた。
近づいて来たジェイムズ王子にソフィーはお辞儀する。金髪の青年だった。
王子と目が合う。
その瞬間、ソフィーの心臓はドクンと大きく跳ねた。
「こんにちは」
王子が言う。
口は笑っていても、目は笑っていない。
ソフィーは驚きを隠せなかった。
ライアンだと言った男。ロージーの父親。
その正体は、目の前のジェイムズ王子だった。
食堂で晩餐会が開かれた。
ソフィーの両隣はヴィクトリアとピーターだ。ヴィクトリアは向かいの王子と話している。ソフィーはピーターの話を聴いていた。領地フォーダムの歴史についてだ。
斜めに座る王子がどうしても目に入る。口や顎には金色の無精髭が生えていた。どうやら地毛がブロンドのようだ。
ロージーの金髪が腑に落ちる。ソフィーは苦笑いした。最初から騙されていたようだ。
晩餐会で他人のように振る舞う王子を見て、ソフィーは悲しみが込み上げてくる。
何をしに来たのか。またソフィーで遊ぼうとでもいうのか。それとも覚えてさえいないのか。
自分だけが本気だったことに、ソフィーは改めて打ちのめされていた。