ep.11
あたりも暗くなり、ヴィクトリア夫婦とソフィーは食堂に集まった。一人一人に食事が運ばれてくる。
「ソフィー、そろそろ家族に此処に居ることを連絡したらどうだい?」
テーブルの向こう側にいるダニエルが切りだした。
「家族に?」
ソフィーはぎくりとする。
「ソフィー達にはここにいてほしいわ。そう決めたじゃない」
ヴィクトリアは声を上げた。
「そうだけど、凄く心配してるはずだよ」
屋敷を出る際、家族には北西部の保養地へ旅行に行くと手紙を書いた。以降はずっと連絡せず月日が流れている。
優しいエリックはソフィーを探しているかもしれない。
「でも…、ロージーはどうなるかしら。私ロージーは手放せないわ」
それが一番の気がかりだった。
未婚で子供を産んだことを知ったら、最悪の場合養子や孤児院に出されてしまうかもしれない。そして何事もなかった様にソフィーを誰かと結婚させるのだ。
「取り敢えず今はロージーのことを伏せて、無事なことだけでも伝えてみたらどうだい?」
もしロージーのことを知っても、エリックなら理解してくれるかもしれない。
ソフィーは悩んだ末、その晩エリックにだけ手紙を書いた。
翌週、エリックから返事が届いた。こちらに来たい事と、休暇を取るので都合を教えてほしい事だけ書かれていた。エリックらしいあっさりした手紙だ。
手紙に怒った様子は無かった。ソフィーは少し安堵した。
ソフィーはダニエルとヴィクトリアに了承を取り、返事の手紙を書く。
エリックの訪問は2週間後になった。
エリックの来る前日。ソフィーは広間まで降りて来た。ヴィクトリアと使用人達が慌ただしく動きまわっている。
「ヴィクトリア、何かあったの?」
「明日ジェイムズ王子も来ることになったわ。晩餐会のメニューを考え直さなきゃ。一番いい部屋も準備しないといけないわ」
言いながらもあちこちに指示を出す。
懐かしい名前だった。エリックがソフィーを王子に会わせようとしたあの頃を思い出す。恋をした事も無かった。
エリックは王子と休暇を共に過ごす仲になったのだろうか。王子の側近としてうまくやっているようだ。ソフィーは嬉しくなった。