ep.1
「そろそろソフィーも17か。いい結婚相手を見つけんとなぁ」
ソフィーの父は新聞を読みながら突然口を開いた。きっと誰かの結婚記事が載っていたのだろう。
ソフィーは下を向いた。手に持った朝食のパンをちぎって食べる。何処となく気恥ずかしい。
「わしは内気なソフィーが心配でなあ。おい、エリック、お前誰かいい男を知らんのか?」
父は口ひげを触りながらエリックに尋ねた。
エリックは顔を上げた。いつも通りの無表情だ。
ソフィーの兄エリックは陸軍に所属していて男性の知り合いは多い。
「ソフィーは結婚したいのかい?」
ソフィーは恋愛小説が大好きだった。それに既に結婚している友達もいる。ソフィーも続きたかった。
「私もヴィクトリアみたいに幸せな結婚がしたいわ」
友達のヴィクトリアには最近男の子が産まれた。
「娘の相手は私が考えてあります」
母があくびを手で隠しながら居間に入って来た。
ソフィーは顔を引きつらせた。エリックは僅かに眉を寄せている。
「みなさんお早いこと」
「聞いてないぞ」
「言ってないもの」
「どうせお前の連れてくる見合相手は金持ちの年寄りとかだろう」
父が馬鹿にする。
母はフンと鼻をならす。
「言うだけで何もしないあなたに言われたくないわ」
父と母の口論が始まる。
母はソフィーと価値観が違う。お金が大事な人だ。何故ソフィーの父と結婚したのか不思議な程だ。
父の予想もあながち外れていないのかもしれない。ソフィーは母の用意した見合い相手に、かなり嫌な予感がした。