第2話『ビナのお爺ちゃん』
俺だけじゃなく、ルピナスもパンクな格好だった。
ルピナスは上は黒い革ジャン、中はTシャツ。下は黒いミニスカートに、ボーダーな靴下に、厚底。
「結構、似合ってるね」
「ありがとう。空真も似合ってるわよ」
「うん、どうも」
てか、本当にこんな格好でいいんだろうか?
なんだろう、緊張する。
ビナの専属メイドさんである、ラブルさんに案内され、謁見の間に到着。
騎士達が、扉を開く。
俺は、緊張したが少し、堂々《どうどう》と歩く。
相手は魔王だ。
こういう時、ビクビク歩くと、弱い奴だと思われてしまうだろう。舐められてしまう。だからといって、失礼な態度は取るべきじゃないだろう。
赤いカーペットを踏みしめ、慎重に歩き進む。
キングチェアには、すさまじい男性が座っていた。
黒髪のツンツン頭。ウニか?
いや、そんな事をいったら、○されてしまうだろう。
顔は白く塗りたくり、スライムをかたどった、ブルーのペイントメイクされていた。
黒い革ジャンに、同じく黒い革張りのズボンをはいている。ワニ柄の靴も履いている。
この方が、ビナのお爺さんなんなのか。いろいろと、ツッコミどころが、あるんだが。
お爺さんの隣には、ビナが側にいる。
「こんにちは。魔王様」
俺は、恭しく挨拶する。
「ヒャハアアアアアアアアアアアア!!」
「!!」
「お前さんがあああああああああああああああ、八雲空真かああああああああああああああああ!! イケメンだな!! だが、ビナは渡さんぞ!!!」
な、何なんだ!! とちくるったか、じいさん??
「ゴホン。冗談は見た目だけにしてくれと言いたいのだろう。気持ちはわかる。ワシはビナの祖父。エレビ・ヴァイスである」
魔王であるエレビ爺さんは、咳払いし、優しげな表情になる。
急に、正気にならないで欲しい。すっごく、怖い。
「話は聞いておる。お主は、魔王になりたいのであろう? なら、ワシが魔王になるための手続きをしよう」
「なれるんですか?」
「手続きといっても、すぐに魔王になれるわけじゃない。ワシはお主を魔王候補として立候補する。そうすれば、お主は試験を受ける事ができる。試験に合格すれば、魔王になれる。無事に魔王になれるかは、お主、次第じゃ」
「そうですか。立候補法、ありがとうございます。その、試験に合格すればいいですか?」
「そうじゃ」
エレビ魔王は頷く。うん、見た目はアレだが。
話すと、普通に優しい、お爺ちゃんだな。
「ルピナスよ!」
「はい!」
「お主は、ワシのメイドにならぬか? お主、超カワユスでドストライクなんじゃよ。どうじゃどうじゃ? 月200万ヴァムでどうじゃ? 安いかの? 月300万ヴァムでどうじゃ?」
エレビ魔王は鼻の下をのばしながら、そんな事をほざいた。
この爺さん、エロじじいか??
「お爺ちゃん、後で折檻ね~」
ビナは笑顔でエレビ魔王の足を踏む。
「ビナよ、この年で折檻受けたら、ちんじゃうよ」
エレビ魔王は笑顔だし嬉しそうだった。うん、ちょっとキモいぞ。
「試験とは、どんな内容な何ですか?」
「そうじゃな。例年通りなら、試験官と戦い。勝てば魔王になれるのぉ」
「試験官に勝てばいいんですね」
「そうじゃ。試験官になる者は、だいたい魔王がなる。本気で戦いなさい。じゃないと、一瞬、○されてしまうぞ?」
「マジっすか?」
「そうじゃ。最初から本気でいきなさい。わかったかの?」
「はい」
そして、俺はエレビ魔王に、アドバイスを聞き、謁見は終了した。
夕食のディナーで、エレビ魔王と食事を取る事になった。
「ルピナスちゃん。そのドレス綺麗だね。美しいよ」
「ありがとうございます」
エレビ魔王はルピナスさんにデレデレだった。
エレナ魔王は、上品な黒いスーツに身につけており。さっきまでの、パンクな格好とは、違っていた。ルピナスは、青いドレスを身につけており。
非常に綺麗である。
「なあ、ビナ。どう思う」
「正直、キモいと思う」
ビナは、そう言うと、ナイフでダーク牛のステーキを切って、食べる。
「聞こえておるぞ。ビナ」
「聞こえるように言ってるんです」
「そんな~」
エレビ魔王はしょんぼりする。
エレビ魔王がボケて、ビナがツッコミをいれる。
いい関係だと思う。だが、ルピナスに対して、デレデレなのは、困る。
兄貴である八雲空音が見たら、怒って、《ホーリードラゴンレイン(聖なる竜の雨Ⅲ)》をぶっ放すんじゃないだろうか?
「お爺ちゃん。ルピナスさんは、ボクの主である、八雲空音様を愛してるから、ルピナスさんをメイドとして雇っても無駄だからね? 眼中にないから。ルピナスさんは空音様にゾッコン。世界一、愛してるんだから」
「ガビーーーン!!」
「ごめんなさい。エレビ魔王様。ルピナスちゃんの言うとおり、空音の事が、世界一、大好きな方なの。なので、お誘いはお断りさせていただきます」
「ガビーーーーン!!!」
もう、それくらいにしてあげて。エレビ魔王様のHPがゼロになってしまう。
「くぅぅうう!! なんと羨まし奴なんだ! ビナだけじゃなく、ルピナスちゃんまで!」
俺をギロリと睨む。
「あの、俺は空音じゃないですからね? 俺は弟の空真ですからね」
俺じゃないからな? モテてるのは。
「フン、わかっとる……」
エレビ魔王は不機嫌そうにダーク牛のステーキを食べる。
エレビ魔王を怒らせるのは、よくないな。機嫌を悪くさせても得にならない。
「エレビ魔王様。好きなロックバンドはありますか?」
「あるじゃよ!!」
お、くいついた。
「実はですね――」
俺は、日本で有名なロックバンドについて語り、大いに盛り上がった。
まあ、空音兄貴の記憶から、掘り出した内容だが。
ビナも話に加わり、嬉しそうに話す。ビナの場合、ヴィジュアル系バンドが好きみたいだ。
残念だが、ビジュアル系バンドについての情報を知らない。だが、『スマグリ』を使って、音楽を流したら、彼女は、すごく、喜んでくれた。