第8話「交渉」
オーストリア、レッドブル・リンク。
世間の噂だと、このレースが永野の最後のレースになるらしい。
ネットニュースを見ていてもしつこいくらいに駿のチーム追放に関するものが目に入るようになった。
「言いに行くしかない。」
そう思った松下はテントのモントーヤのいる部屋に向かった。
「モントーヤさん、永野がやめさせられるって本当ですか?」
「どうした、急に。」
「永野がF2やめさせられるんですか?教えてください。」
「……それで、今日はどうだ。」
「とぼけないでください!本当に永野が、駿がやめさせられるんですか?!」
松下が珍しく声を荒げる。
「……もうお前の耳にも入っていたのか。」
「噂は嫌でも入りますよ。」
「そうだ。実はお前とナガノとでポイントの差が10ポイント以内であるように、という条件が出されていたんだ。」
「…最近の駿は成績が良くない。だからですか。」
「あぁ、もうすでに30ポイント近く差ができてる。だから、今後任のドライバーを探しているんだ。」
「あれですか。ハリソン・ジャクソンですか。」
「そこまで聞いてたのか。」
自分が決めていたことを提案する。
「じゃあ、俺が次のレース優勝したら、駿の契約解除を撤回してくれますか。」
「お前には関係ないだろう。」
「俺は、あいつと一緒にF1に行きたいんすよ。あいつがいなくなったら俺はここに残る意味がなくなる。」
「この世界は自分以外は全員敵だ。結果を出せばいいんだ。」
「その考えは違うと思います。確かに、俺も他の人間は敵だと思え、と教えられました。でも、一緒に、チームメイトは自分を支えてくれる仲間だから大切にしろ、とも教わりました。」
モントーヤは少し悩んでいるようだった。
「……分かった。その提案受け入れよう。」
そして、俺の、駿を守るためのレースの幕が上がる。