第10話「要請」
「決定事項だ…」
その言葉がずっと脳内で再生されていた。
「ぐっ…」
涙が溢れてくる。
その時、ふと思い出す。
「確か…」
ヘルメットが入ったバッグの中を漁る。
「あった。」
取り出したのはノアの連絡先が書かれた紙切れ。
「ノアに頼ってみて、ダメだったら本当に諦めよう。」
スマホに書かれた番号を入力する。
すると、数回のコールの後、声が聞こえてきた。
『ノアだ。どうした。』
「ノ、ノア、久しぶり。話があるんだ。」
『その感じ、あの件だな?』
「あぁ、永野の件だ。」話が早くて助かる。
『なんだ、彼が乗れるチームを探せってか?』
「な、なんで分かんだよ。お前エスパーか?」
『この電話がかかってきた時点で察したよ。』
「そ、そうか。で、駿の乗れそうなチームはあるか?俺、そういうところ疎くて…」
『あぁ、あるぞ。このチームだ。』
「ん?どういうこと?」
『だから、このチームだ。』
「ちょ、ちょっと待って。つまり、駿はARTに移籍できるってことか?」
『そういうことだ。ネットニュース見てないのか?』
「も、もしかして、F2のドライバーが代役としてF1に行くってやつか?」
『そ、それが俺等のチームの人間ってわけだ。』
「まじか。とんだ奇跡だな。」
『すでに俺から話は付けてる。そのうち、チームからアナウンスがあると思うぞ。』
「本当にありがとうっ…ありがとうっ…」
『良いってもんよ。』
1週間後、ART Grand Prixから正式に永野駿が加入することが発表された。