表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/62

第七話 神はいない

「いつもの毒味だよ……セルア、催眠系の薬が仕込まれてるぜ」


 毒味用の試薬に反応したのは、見た目は大根みたいな野菜。反応は弱いけど。

 それを見た優子はしばらく姿を消した後、戻ってきた。


「それ、みんな食べてるわよ」


 何?


「村長さんや他の家も見てきたけど、不審な容器も見当たらなかったわ」


 そう言いつつ、優子は鍋からその野菜を皿によそって黒瀬に渡す。黒瀬はすぐにそれを口に入れた。


「うん。美味い。ヒロア、元々この野菜に含まれてる成分じゃないか? ほら、安眠効果があるとか」


 黒瀬が自説を言う横で優子が次々とよそっていく。


「ヒロアよ、仮にも皇族を害そうとするにはあまりにも稚拙なやり方だ。クローセの言う通りであろう」


 そう言ってセルアも上品に食べ始めた。あちゃー。神経質になりすぎた。これは恥ずかしい。


「すまん。思い過ごしだった」


 俺は皆に頭を下げる。あ、俺は『謝ったら死ぬ病』には罹患してないからな。

 そんな俺を意外そうに俺を見る黒瀬。


「謝ることはないよ。刺客に狙われてるなら、それぐらい当然だ」


 いやいや面目ない。俺も口に入れてみる。美味い。野菜と雑穀と僅かな肉。ロシア料理のカーシャに似た感じ。


「ヒロア、さっきのって、いつもやってるんだな」

「あぁ、セルアが小さい頃からずっとやってることなんだって。今は俺が引き継いだ」

「私はある程度の毒には体を慣らしてある。が、未知の毒もあるから、備えは怠るわけにはいかない」


 そう言ったセルアの横顔に表情は見えない。命を狙われる中で暮らすなんて地獄じゃないか。俺は黒瀬と優子に伝える。


「俺のいた王国を出てからは、次から次へとあの手この手で襲われてきたんだ。どこに行っても帝国の刺客がいるわけよ」

「大変だな……。もしかしてヒロア、この村にも?」

「感知魔導に反応無いからいないと思う」


 だが食べ物に毒を入れるといった方法には無力だ。ターゲットに毒入り料理を運ぶのは何も知らない人間を使うのがセオリーだから。


「クローセ、ユウコ、お前達を採用したのも私がこの目で見て確かめたからだ。目を通して魂の在りようが見えるのでな」

「まぁ瑛子ちゃんみたいね」

「優子、それ黒瀬の妹という……」

「そうよ。蛇神さまね」

「ヒロア達がいたニホンにはたくさんの神がいたんだったな。ヤオヨロズノカミだったか」


 セルアは日本や地球にかなり興味を持ち、道中事あるごとに質問してきた。なので彼女はそれなりに詳しい。


「そうだ。国を生み出した神様もいれば悪霊になって祀られた神様もいる。人じゃなく妖怪も」

「興味深い」

「俺も詳しくはないけど、人に仇なす存在であっても神様として祀ってしまえば動機、というか悪さする気が起きなくなるってことなんだよな」


 この辺は友人の受け売りだ。


「こちらとは随分と違うので想像つかぬ」 

「帝国の宗教はどうなってるの?」

「宗教は無い。代々の皇帝が厳しく取り締まっておるのでな。大陸の半分以上を占める属国も同様だ」

「皇帝以外に権力持たせないためかぁ」

「そうだ。その昔にはドラゴンをも滅ぼそうとしたことがある」

「な、なんだって!」


 帝国よ、無茶しすぎだろ。ライオンや虎、ヒグマがいる檻の中へ人間が素手で殴り込みにいくようなもんじゃなかろうか。俺はそんな自殺行為、絶対やりたくない。


「皇宮で当時の記録を読まされた。いやはや凄まじいものであったぞ」


 だからだろうか。ドラゴンについての情報は大陸では制限されている。禁忌としないのは、そうすることによって興味を持つ者を出さないためだろう。


「過去にはドラゴンを崇める宗教が生まれかけたこともあったが、全て帝国がその芽を摘んでいる。大陸中に潜む“皇帝の目と手”はその時に数を大幅に増やしたのだ」

「なるほどね。スパイや刺客がやたら多いのはそのせいか」

「“殲滅の魔女”討伐も同じ趣旨だぞ」

「ん? 過去にやられたことへの恨みじゃないのか?」

「それもある。が、皇帝以外に恐れられる存在があってはならんからだ。宗教とは違うが、帝国に叛意を持つ者達がその象徴として担ぎ上げるやもしれん」

「……はた迷惑だよな帝国」

「永きに渡って大陸を支配してきたからな。千年帝国の名は伊達ではない」

「じゃあセルアを“殲滅の魔女”、イズミににぶつけたのも……」


 つい口にしてしまったが、胸糞悪い推測だぞ。


「ヒロアの想像した通りだ。相討ちだと『上々』、私がイズミに勝てば『上』、私がイズミに敗北しても『中』、どう転んでも帝国には成果となる」


 セルアはドラゴンになれる存在。本物じゃないとはいえ、ジェネリックドラゴンとして考えれば、皇帝の権威を脅かす可能性は充分ある。

 セルアがイズミに勝ったら、帝国はセルアがドラゴンじゃない時に殺せばいい。イズミに負けてセルアが死んでもOK。


 死ぬことを望まれるなんて……辛すぎるだろ。実際はイズミもセルアも無事なわけだ。ざまぁみろ、帝国め。


「ハァ。こっちに飛ばされる前に世界史を勉強してたんだけど、帝国も随分とえげつないな」


 黒瀬がうんざりしたような顔で言う。同感だ。俺も一時期フス戦争について調べたことがあったんだが、うげぇって感想しかない。


「村長の奥さんと娘さん、来るわよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ