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第三話 祖父と孫

 見渡す限りの森、遠くには冠雪した山が見え、右手にはずっと向こうまで地平線が続いている。


「帝国どんだけ広いんだよ……」


 目の前の壮大な景色に感動半分、呆れ半分で嘆いてる俺。ここ、帝国領へは転移魔導で跳んできて、徒歩で最初の目的地を目指しているとこだ。


「以前、国土院の要請で南の国境線から北の国境線まで飛んだことがある」


 隣を歩くセルアが教えてくれた。


「帝国の地図を作るためだと請われてな」

「飛んで? ああ、ドラゴンになってか」

「丸一日かかったぞ」


 ドラゴンモードのセルアはセスナ機ぐらいの速さで飛んでたから……仮に時速三百キロとして……七千二百キロか。確か北海道から沖縄までが約三千キロ。倍以上あるじゃねぇか!

 転移魔導を使わなかったらとんだ長旅になるところだ。


 俺たちはセルアの祖父にあたるダラド伯爵邸へ向かってる。高確率で風呂に入れるし、ベッドで寝られる。お待ちかねの極楽タイムで気分転換だ。


「その伯爵は信頼出来るのか」


 後ろを歩く黒瀬が聞いてくる。


「クローセよ、心配はいらぬ。私ら母娘を最も愛しているのがお祖父(じい)様だ。それに元々は国防省で諜報部を統括していた。屋敷にいるのはその筋の者で固めている」


「じゃ、俺たちの素性も知ってたりする?」

「当然把握はしてるだろう。特にヒロア、お前のことはな」


 普段は索敵魔導を弱めにしてるからなぁ。敵意のない人間は察知出来ないか。


「案ずることはない。元々お祖父(じい)様は“殲滅の魔女”討伐にはずっと反対のお立場だ」

「そうなんだ」

「私が討伐軍に組み込まれた時も心配なさって手紙をくださったほどでな。『決して無理はするな』と書いてあった」

「お祖父(じい)さん、セルアを溺愛してるねぇ」

「無理しなかったおかげでこうして私は生きている」


 セルアの言う通りだ。彼女はイズミと相討ち覚悟の自爆もできたのに、それをしなかった。だからいまここにいる。


「私を疎ましく思ってるのは皇族にいくらでもいる。奴らは隙あらば私を消そうと躍起になっててな。それもあってお祖父(じい)様はいつも私のことを気にかけてくれていたのだ」

「あーやだやだ。女の園は大奥みたいに策謀だらけ」

「オオオクとは何だ?」

「セルアのいた皇宮みたいなもんさ。日本も昔は専制国家だったし」

何処(いずこ)の国も同じか」

「そうそう。あ、でもお姫様を最前線に送り込むってのはないけどな」


 皇女に自爆装置つけて突撃させるとか、千年帝国ぶっ飛びすぎだろ。黒瀬もうんうんって頷いてるぞ。


「迎えが来たみたいよ」


 前を歩く優子が指差す方、遠くに馬車が見える。引いてるのは馬じゃなくて、バボと呼ばれる大型草食獣だ。カバとサイを足したような見た目で、どこででも見かける。


 やがてそれは俺たちの前で止まった。馬車は十人は乗れそうな大きさで、さすが伯爵家と思わせる。中から騎士風の男女四名が降りると、セルアの前で整列し、一糸乱れずに一礼した。


「セルア様のご無事の帰国をダラド伯爵家は歓迎します」  


 彼らに全く隙はない。


「出迎えに感謝を。この者達は私の客人、つまりダラドの客人である。よろしく頼む」

「はっ」


 思わずセルアの皇女モードに俺は見惚れてしまった。高貴な感じ、いいね。


 それから俺たちは馬車に揺られ伯爵邸に到着する。

 伯爵邸は広大な敷地の奥にベルサイユ宮殿っぽい建物、それにはあちこちに要塞アレンジが施されている。国境の防衛拠点らしい無骨さを醸し出していて、貴族の邸宅というより軍事基地だ。


 中へ通され、伯爵の待つ部屋へ案内された。内装は豪華絢爛の真逆、堅牢な作りに昔見たマジノ要塞みたいだなーって思った。


 ちょっとした体育館ぐらいの広さがある部屋へ通される。天井も高い。戦時には作戦本部として使うのかも。


 伯爵は既に待っていた。五十代ぐらいか。偉丈夫って言葉がぴったりな大男。特徴的な紅混じりの白髪。髭もすごいが、それ以上にこの世のあらゆるものを見てきたような鋭い目が特徴だ。

 陸軍統合参謀長(適当)って肩書きが似合うタイプのナイス初老ガイ。


「セルア!」

「お祖父(じい)様!」


 二人はがっしりと抱き合った。ちょっとびっくりしたが、そうだよな、二人は気軽に会える間柄じゃない。


「さ、君たちも座りなさい」


 促され、俺たちは豪華なソファーに座った途端、伯爵に頭を下げられた。


「詳細は聞いている。君がセルアを救ってくれたんだな。感謝を」


 使用人達も一斉に頭を下げた。


「は、はい」


 伯爵、フレンドリー過ぎるよ。すると伯爵の雰囲気が急変し、セルアに詰め寄った。


「さてセルアよ、これからどうするつもりだ」


 怒涛の威圧感が俺たちにも押し寄せる。まるで圧迫面接。それに一歩も引かずセルアは即答した。


「お祖父(じい)様、私は霊峰へ行きます」

「そうか」


 そう言ったきり伯爵は目を瞑り黙り込んだ。気まずい。しばらくして息苦しいほどの圧力が霧散していく。


「それしかないな。セルア、向こうに行っても偶には連絡を入れなさい」


 満面の笑顔で頷く伯爵。セルアの言うことを認めてくれたようだ。


「お祖父(じい)様、ありがとうございます」


 セルアも深々と頭を下げる。俺は伯爵の迫力で寿命が三時間は縮んだ……ふう。


「それじゃあ旅の疲れを癒してもらおうか。湯浴みの用意をしてある。ゆっくりとな」


 伯爵にウインクされた。さっきのコワモテとギャップありすぎ!

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