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次から次へと! 少年魔導士の受難は続く  作者: はるゆめ


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第十一話 いい加減にしてくれぇ

「ヒロアー! おかえりー」

「おかーりー」

「おー帰ったぞー」


 ガロウの宿に戻ると、中庭で遊んでたベレタとルサの熱烈な歓迎を受けた。


「ヒロア、だっこー」


 ルサがせがむので抱きあげる。かなり重いんだぞ。ベレタ、そんな目で訴えてきても、君は却下だ……あーわかったわかった。おんぶするから! 満面の笑みで俺の背中に収まるベレタ。前にルサ、背中にベレタ。こんな感じの合体ロボなかったっけ?

 そんな俺をなんとも言えない目つきで眺めるセルア、近所のおばさん目線で微笑んでいる優子、おい黒瀬、『保母さん?』とか言うな、平成じゃ保育士さんて言うんだ。


「ねぇねぇ、今日はなにして遊ぶー?」

「あしょぶー?」


 ベレタは十歳。日本の同世代にあたる小学四年生に比べると少し幼い気がするが、学校教育を受けてないと、こんな感じかと納得する。ガロウの宿も特殊なものだから、家の手伝いもできないだろうし。


「そうだなぁ。あっち向いてホイやるか」

「おっ、懐かしいな」


 黒瀬が笑う。君はちょうどリアルタイム世代だろう? しかしここで問題が発生した。ここにはジャンケンに相当するものが存在しないのだ。


「じゃんけんって何?」

「なにー?」


 うーむ。アジア、ヨーロッパ、北米から南米まで世界中にあったので、ここでも同種のものが当然あると思ってた俺。やっぱここは異世界だと痛感する。


「よーし。ジャンケンてのはな……」


 ジャンケンをベレタとルサに教えたところ、予想外のことが起きた。


「ジャンケンポーン!」

「ルサのかちー! キャハハハハ」

「アハハハハ」

「ねぇねぇ! ユウコもやろー!」

「やろーやろー! ジャンケーンポン!」

「キャーッ! ユウコのかちー!」

「キャーハハハハ!」

「クローセもー! ジャーンケーン ポン!」

「キャー! ベレタ負けたー! キャハハ」


 あぶない薬でラリったみたいに姉妹は熱狂、俺はドン引き。セルアにも『ヒロア、お前は幼女使いか?』と呆れられる始末。


「俺だってジャンケンがここまでウケるとは思ってもみなかったよ」


 そうボヤいた俺の顔に影がさす。空から小鳥が音もなく降ってきてセルアの肩に止まり、首を伸ばしてセルアの耳元で何かを囁く。伝言鳥だ。対象とした本人にしか聞こえない仕様、これ料金高いやつ。


 セルアは表情ひとつ変えず、立ち上がる。


「ヒロア、私は出かける。迎えの者が来るから心配無用だ」

「え、なに」


 こんなことは初めてのことなので、俺は慌てる。


「大丈夫だ。夕食(ゆうげ)までには戻るから。ついてくるなよ」


 そう言い残してセルアは宿を出て行った。


「セラはお出かけ!」

「お出かけー! ひひひ」

「ヒロアさん、男の人が四人、彼女を守るように囲んでいるわ」


 優子が教えてくれる。何者だ? セルアはどこに? 俺は後をつけたい気持ちを何とか抑える。


「ヒロア、心配?」


 ベレタが心配そうに聞いてきた。いかん。子どもに気を遣わせてどうする!


「大丈夫だよ。よし! 本命のあっち向いてホイやろうか!」

「やるやるー」

「クローセとユウも参加な」

「えー。俺はあれ苦手なんだよ……。子どもの相手も……」


 黒瀬はかなり嫌そうな顔をした。はは〜ん、あっち向いてホイで叩かれる担当だったな。ジャンケン弱そうだもんな。


「いいわよ。ふふ。この子達、可愛いし」


 優子は快諾してくれた。母性あるよな。


 あっち向いてホイも幼い姉妹に大ウケで、彼女達が笑い疲れて寝入るまで遊び続けた。ぐにゃりと猫みたいになったベレタとルサをガロウに預け、俺たちは部屋へと戻り、寛ぐことにする。


「黒瀬、優子、わりぃ、俺もちょっと疲れたから寝るわ」

「ヒロアさん、お疲れ様」

「ヒロアさ、おっさんじゃなくて、ほんとは小学生ぐらいだろう?」

「失礼なこと言うな、黒瀬ぇ」


 久々に味わった子どものバイタリティ。アクセル全開のトップギアで走り続ける暴走車みたいなものだからな。ほんと保育士さんには頭が下がる。


「俺と優子は交代でこの辺りの情報を把握しておくよ」

「すまんな」


 魔導──ほんの一握りの人間が使える能力。前人生の記憶が戻った当初、イズミは魔導をこう説明した。


 俺たち人間がいる次元よりずっと上の次元にいる存在。それが持つ力を、代償を触媒としてこの次元に干渉させる形へ変化させたもの。安直だが高次元にいる存在を神とすれば、魔導の代償は供物といった関係か。


 そんなことを考えながら眠りについたせいか、気がつくと何もかもが白い空間にいた。本能でわかる。魔導によるものだと。


「ヒロアキ君、しばらくぶりね」 


 イズミがいた。


「……これ、チャットルームみたいなものだろ?」

「正解。ルウカがね、君に伝えておくべきだってうるさく言うから……」

「何を?」

「……怒らないで聞いてね? 君の首飾り……実はね、双方向通信機能があるの」

「双方向……? ん? え、お前、今まで覗き見してたのか!」


 あぶねぇ! 男だから入浴シーンなぞ見られたって平気だが……自家発電を我慢しといて正解だったぜ。


「ごめんなさい。君が心配だったから。ほら、育ての親としては、ね?」


 しおらしく謝る素振りをしているけど、わざとらしい。欠片もそんなこと思ってないだろう。


「白々しいストーカーめ。ま、気持ちは分からんでもないが」


 今の俺は一人で出かけたセルアのことが気になってしかたない。


「君もセルアちゃんの用事が気になるでしょ?」


 見透かすように微笑むイズミ。


「あーそうだよ! ちっ。だからこのタイミングか」

「君の手に負えない時は、いつでも私を頼ってね?」

「いつまでも子ども扱いするなっての。こっちで何とかするよ」


 イズミの見た目は昔よりずっと大人びている。背も俺より高いし、何なら体つきも……いやどうでもいい。


「うふふ。可愛いんだから」

「それをやめろって」


 こいつはこっちの世界じゃ確かに俺の育ての親だ。でもあっちじゃ、イズミは、小学校ではただのクラスメイトだったんだ。姿がどう変わろうとも、俺にとっては小憎らしい同級生女子、ナカモトイズミだ。


「首飾りを渡した時の言いつけは守ってね。あれを外して離れてはダメ。必ず身につけておくこと。いい?」

「……へいへい」

「返事は一回」

「はいよ。わかってるとは思うが寝てる時とか覗くなよ」

「ヒロアキ君、忘れないで。私はいつもあなたの幸せを願っていることを」

「……」


 幼い頃から何度も聞かされた言葉。何かあるとイズミは俺の目を見つめながら、こう言い聞かせてきた。


「それに関しては疑ってないよ」

「いい子ね。あ、早くセルアちゃんにキスでもしてあげなさい。女の子は待ってるのよ」

「余計なお世話だ! 日本だったら捕まるぞ、事案だ! 事案!」

「ふふふ。ここは日本じゃないでしょ」

「……ちっ。セルアに関してはお前の指図は受けないよ。霊峰にはちゃんと送り届けるけどさ。すぐには帰らないぞ」


 霊峰の古代遺跡には興味がある。探検したい。


「いいわよ。私のそばにいるより安全だから。帝国は次の準備をしている頃ね」

「秘密兵器というか虎の子のセルアが敗北しても諦めないのか……」


 帝国の全戦力を知っているわけじゃないが、ドラゴンに変化するセルア以上に強力な兵器ってあるのだろうか。


「帝国は決して諦めないわよ。アメリカやソ連と同じ」

「ソ連はな、今ロシアって言うんだぞ」

「あら、そうなの」


 こいつ俺にはっきり言わなかったが、確信したぞ。お前、こっちに戻ったのは昭和だろう。


「国の名前が変わったたけで、本質はそのまんまだけどな」


 ロシアから来た留学生が語るロシア国民の絶望を思い出してしまった。


「霊峰でゆっくりしてね。たまには帰ってらっしゃい」

「わかった。ま、この首飾りがあればこうやってチャットできるし」

「月に一回ね」

「……覚えてる。じゃあな」

「食べ物に気をつけるのよ」

「わかってるよ」

「私の愛しいヒロアキ君、おやすみ」

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