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006.シーブンファーブン

 人との会話が困難なネコ耳娘、ミルフィ・アートヴィーレの通訳として活動することになったクシード。


 クシードは男だが、見た目はどう見てもスレンダーな女性という特異な身体の持ち主であり、ミルフィはそんな彼の男性を象徴する部位を懇切丁寧に確認して気絶していた――。



 意識を取り戻したミルフィは、顔を赤くしながら両手を太腿に挟み、モジモジしている。

 

 ミルフィの年齢は21歳。

 同い年の男性のカラダの一部を触って恥ずかしがるなど、まるで思春期の女の子みたいだ。


 気を取り直し、クシード達はミルフィが提案する冒険者ギルド“シーブンファーブン”へと向かった。




 


 オレンジの塗り壁に、赤茶色の化粧柱が可愛らしい外観の建屋はアットホーム感が強く、玄関扉を開けると、そこには清潔感のある開けた空間が――。

 

 冒険者ギルドのイメージは武器を携えた猛者どもが集まる殺風景なところだとクシードは思っていたが、ライトカラーのオーク材が使用された床に、高窓から入る太陽の光が室内を明るく照らし、開放感に溢れていた。


 思ってたんと全然違う……。


 それは別として、時刻は昼ごろとあるためか、空いている。

 クシードは玄関付近にあるカウンターに、モカ色のウサギ耳の女を見つけた。

 


「こんにちは。依頼をしたいのですが受付はここですか?」

「はい! どのような内容でしょうか?」


 受付嬢が明るく元気に対応すると、クシードの後ろで半分隠れているミルフィに気付いた。


「依頼主はもしかしてミルフィさんですか?」

「なんや? ミルフィ、知り合いなん?」


 ミルフィはコクリと頷く。


「筆談の方言女子、ミルフィさんですからね!」

「カッコいい通り名持っとるやん!」


 クシードが茶化すと、ミルフィ赤面し、手にしていたスケッチブックで顔を隠した。


 

 

 和やかな雰囲気が流れる中、クシードは受付嬢に護衛を募集している旨を伝えた。


「んー……、オウレと言うか魔神のいる西側は危険地域ですからね」


 困り顔で受付嬢は言う。


 西側にはロザーカと呼ばれる西側の最大都市があり、その先にオウレがあるそうだ。


 最初に魔神が現れたのは、オウレからさらに先にある小さな集落な模様。

 比較的大きな都市であるオウレは、魔神達との戦いにおける最前線として現在機能していると受付嬢は教えてくれた。


「――カロッサ・ヴァキノからロザーカは、直線距離で大体250()ぐらい離れていますので、何日かかるか検討もつかないですよ……」


 そもそも“1ル”が何キロメートルなのかはわからない。

 わかるのは、首都カロッサ・ヴァキノから西側の大都市ロザーカまで、かなりの距離があると言うこと。


 クシード達が今いるルシュガルは首都カロッサ・ヴァキノまで近く、魔神が現れる前は機関車に乗ってロザーカまで行けたそうだ。

 今は線路が破壊されてしまい、西側へ行く方法は昔から使用されていた街道がメインになってしまっている。

 

 長い道のりになるため、それ相応の費用が必要になるがミルフィにそんな予算は無い。

 かと言って諦めてしまうと、通訳の仕事が無くなってしまう。


 

 

「……話、変わりますけど、冒険者の仕事って何をするんですか?」

「冒険者業は多岐に渡ります。()()()()退治がメインですが、お使いや草むしりなどの雑務なども引き受けているんですよ!」


「モノノケ?」

「……んーと、治安維持の憲兵さんの業務外のお仕事です。企業さんからの依頼で、輸送車や馬車の護衛、出張退治が多いですね」


 モノノケという知らない言葉に、クシードは思わず聞き返してしまったが、どうやらモンスターと同じような扱いに思える。

 

 憲兵の業務外や出張退治など、他に気になることがあるが、今は黙っておこう。


 

「その冒険者って、誰でも簡単になれるものなのですか?」

「はい! 身分証さえあれば大丈夫です! ミルフィさんも冒険者ですし、新規登録は向こうになります!」


 受付嬢は反対側にあるカウンターを指差した。

 

 意外なことにあのミルフィも冒険者だとは……。

 本当に誰でも簡単になれそうだが、世界が変わっても身分証が必要となるとハードルは一気に上がる。

 


「……そういや、身分証を紛失してたな」

「ええッ!? そうなんですかッ? ……えっと、役所へ行って再発行したほうがいいですよ!」

 

 受付嬢の助言を聞いたクシードがミルフィをチラリと見ると、相変わらず目は合わせることは無いが、求められていることを理解し、彼女はゆっくりと頷いていた。



 役所への行き方を受付嬢から教えてもらい、クシードとミルフィはルシュガルの行政庁舎へと向かった。

 

 

◆◆◆


 


 クシード達がやってきたルシュガルの行政庁舎は、街の中央部に位置し、地上12階建と他の建物より圧倒的に高い。

 ――が、高層ビルに見慣れたクシードからすればなんとでもない。

 

 入口付近の総合案内にて、身分証は1階の戸籍管理課で発行できると教えてもらい、早速、足を運んだ。


「身分証を再発行したいのですが……」

「再発行ですか? 無くした経緯を聞かしてください」


 対応にあたった、目元にシワの入った男性職員からの質問。


「経緯って言われても、全然わからへんのですわ」

「……発音……訛り……、もしかして西側からの疎開者でしょうか?」


「んー、……まぁ、そんな感じです」


 

 役所へ行く道中、“異世界人に身分証は発行できるのか?” という単純な疑問がクシードにはあったが、対話をしてきたミルフィの喋り方にヒントがあった。

 

 彼女の話し方は西側特有の言葉遣いで、幸いにもクシードの話し方と類似していた。

 

 それに、冒険者ギルドは、紙を使った管理方法が目立ち、PC類など電子機器は見当たらない。

 

 庁舎内を観察しても同じ、何世代も前のやり方だった。

 

 つまり、電子照合などは無いだろう。

 忘れたり、疎開の最中紛失したことにすれば案外すんなり行くかもしれない、とクシードは考えていた。

 


 クシードも疎開者と言う言葉に、“そうなん?”とミルフィは少し嬉しそうに目を大きく見開く。

 これとは対照的に職員は手慣れた手つきで、引き出しから1枚のカードを取り出した。


「これに名前を書いて、魔力を注いで下さい」


 “魔力を注ぐ”とはどういうことだろうか。


 名前はミルフィに代筆してもらうと、彼女はどうぞとクシードへカードを手渡した。

 

 創作物では、魔法はイメージが大事であることが多い。カードに何か魔力的なものが入れと念じれば良いのだろうか――。


 カードを親指と人差し指の付け根で挟み、何かを念じるようにクシードは見つめていた。

 


「……こんなもんで、いいですかね?」


 クシードはカードを職員に渡す。


「無属性とは、また珍しいですね」

 

 珍しい属性と言われてもよく分からないが、カードへの魔力注入は成功していたらしい。

 そもそも魔力が存在しているとは……。

 

 

 これと言って特に問題はなく、身分証は無事に取得できた。



「これで冒険者登録ができるんやな」


 行政庁舎を出たクシードは、安心した様子で呟いたが、ミルフィは首を傾げていた。



「あーいや、その……、冒険者登録するんも、ミルフィも冒険者やん? 通訳するんには、同行せんなんから、オレもしておいた方がええかなぁ〜、って思ってん」



 苦し紛れの説明をしながら、発行された身分証を持って、クシードは再びシーブンファーブンへと向かう。

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