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028.作戦準備、完了

前話はミルフィ視点でしたが、このエピソードよりクシードを軸とした視点に戻ります。

 “皆んなに迷惑をかけているのでは?”と自己否定の闇に陥っていたミルフィだったが、クシード達の支えもあって立ち直ることができ、ハウクロニカの襲撃から逃げ遅れたラツキックの住人の救助活動を再開する。

 

 クシード達は、神出鬼没に出現するハウクロニカに警戒しつつ、エリア内の建屋を一つずつ捜索を進めていた――。



 


 

「誰かいますかーッ!」

「救助に来ましたよーッ!」


 クシードとパーレットの声が廃墟のようになった家に響く。食事中だったのか、テーブルの上には食べかけがそのまま放置されていた。


 おそらく避難したのだろうとクシードは思う。


 救出調査については、憲兵からトリアージタグを建屋に貼るようにと指示があったので、玄関に貼った。

 この世界のトリアージはクシードのいた世界と微妙に違いがあり、4色に加えて白色がある。

 意味は、“誰もいない”だ。


 隣の家も調べるが、同じようにもぬけの殻。


 

 良かった。

 避難している人が多い。

 いや、途中で襲われる捕食された可能性もあるのか……。


 

 クシードの心境が複雑になる中、一軒一軒調べていくと鍵のかかった住宅を見つけた。

 ドアをノックをしても反応が無い。


「中に人がいるわよッ!」

 

 窓越しに中を確認していると、パーレットがうずくまっている人を見つけた。

 一瞬、緊張が走る。

 この場合、鍵を破壊して中へ入っても良いと、憲兵から許可を貰っているため、クシードはルミナエルスを構え、窓のクレセント部を破壊し建屋内へ入った。


 

「じいさん、大丈夫ですか?」

「怪我してるよぉ〜」

「ミルフィッ! 手当てよッ!」


 救出した老人の保護はミルフィが担当し、周囲を囲うように配置につくと、早急に港にある拠点へと戻る。


 


「やっぱり出てきたわねッ!」


 拠点まで残り半分のところで、待ち構えていたように、6体の蜘蛛型のハウクロニカと遭遇した。


 既に何十体と始末している。

 対処方法は問題ない。

 近づかれる前に早急に始末。

 

 クシードは散弾銃ハーヴィスロートを構え、敵が攻撃体勢になる前に撃ち抜いた。

 パーレットもソードウィップに閃光の如く振るい、瞬く間に両断。


「また出てきよったで」


 続いて4体の増援。

 休むもなく、クシードとパーレットにより始末される。




 老人を拠点へ連れていくまでに、幾度となく戦闘は続いた――。




 

「おじいさん。ここまで来たらもう安心よ」

 

「ありがとうね。お嬢ちゃん達」


 あとの対応は憲兵に任せ、少し休憩をとったあと、救出活動は再開だ――。

 


「これを何回も繰り返すとなると、結構しんどいな」

「す〜んごい、敵が多いよねぇ〜」

「でもあたし達がやらないと」


 疲労は蓄積していく一方である――。

 


 ◆◆◆




「くっ……」


 3度目の救出再開時のことだった。

 クシードは、対峙したサソリ型のハウクロニカを撃ち損じ、鋭利な尻尾によるカウンターを喰らった。


「早よ消えやッ!」


 2発目にしてようやく始末。

 ここに来て、初めての一撃だ。

 

「ク、クシード……?」

「大丈夫やで、ミルフィ。ただ、弾薬ベルトがイカれてもうたけどな」


 革製のベルトが切断されたが、幸いミニスカートに損傷は無い。


「まずいなぁ……。弾薬がまともに携行できひんとなると、少しキツいで」


 さて、どうしたものか。

 ハウクロニカは、一度に相手をする量が多い。

 ジャケットの内ポケットに収まるの弾薬は10発が限界。フラップの小さい外ポケットでは、行動中に落とす可能性がある。


 そう思うと服装選びは戦闘を考えなければならない。

 名残り惜しいが、スカートの着用はなるべく控えようと感じた。

 


「うーん……」


 

 クシードが腕を組んで考え込むと、他に唯一、収納部があることに気付いた――。





「……ブラに弾薬を入れるなんて、あたし、そんな使い方できるの初めて知ったわ」


 たぶん、ブラジャー自身も“ウソやん”とびっくりしてると思う。


「ストラップ調整したよぉ〜。どぉ? いい感じぃ〜?」

「んー……、上下に揺れるとズレるな。まだ調整がいるわな」


 ――避難して誰もいない住宅を借りて、女子更衣室のような雰囲気で支度を整える。


 下着の調整を終えたクシードは、ジャケットを羽織り姿見鏡で自身の姿を確認した。


「パーレットよりチョイ大きいくらいやんなッ!」

「どう見ても一緒よ。むしろニセモノじゃ、勝負にならないわ!」


「ホンモノならぁ、ウチが、いちばぁ〜ん!」

「ま、ま、負けへん……」


 アマレティとミルフィは自慢の胸を強調する。

 やはり、天然の巨乳には敵わない。

 人並みサイズが精一杯だ。


「てか、なんの張り合いなのよ……」


 呆れるパーレットを他所(よそ)に、より女性らしいラインとなったクシードは、救出活動を再開する――。




 


「お疲れ様でした。本日の活動は、これで終わりにして下さい」


 最後に救出したのは、10代前半の兄弟。

 “お姉ちゃん達と一緒にいたい”と、ミルフィとアマレティのおっぱいにやたらと視線を送る彼らを、拠点の憲兵に引き渡して本日の活動は終わる。

 

 これは辺りが暗くなったためではなく、単純に疲労による二次災害を防ぐため。

 

 別の部隊と交代だ。


 

「……ふぅー、疲れたな」

「そうね……あぁそうだ。グリスタの魔力、補充しなきゃ」

「魔法屋さん、あったっけぇ〜?」

「む、向こぅ、あああったで……」


 拠点内で魔法屋を探し、消耗した業務魔石(グリスタ)内の魔力を補充した後、食堂で夕食を迎える。



 

「……」

「……」


 疲労が溜まり、おしゃべりをする余力も無い。


 4人はただひたすら、パンや豆類のスープなどを食べていると、3人の憲兵達がせかせかと食事をしながら興味深い会話をしていることに気付いた。


「――なぁ、作戦実行は、明日の朝6:00だってよ」

「やった。俺、その時間、非番だぜ」

「いいなぁ。俺は、これからその準備に急かされるんだぜ」


「まぁ起きて、フィーマヘングがぶっ倒れるとこ見ててやるよ」


 耳をすませて会話を盗み聞きしていると、先鋭隊による、巨人型のハイファミリア“フィーマヘング”の陽動作戦の準備が整ったらしい。


 船の中で指揮官は、先発隊が陽動して巡洋艦による砲撃で破壊すると話していた。

 沿岸部までおびき寄せ、今いる拠点の沖に停泊している場所から攻撃を開始するのだろう。

 

 

 憲兵達は、準備がある1人のために、食事を早々に終わらせると足早に去っていった。



「……聞いとったか?」

「なにを〜?」

「さっきの憲兵達の話でしょ!」


「野次馬根性で、ハイファミリアってどんなんか見てみたいな」

「たしか、朝6:00からだったよね? 勉強のためにも見ておこっか」

「じゃあ、明日早起きしなきゃ〜」


 この騒動の要因となっている魔神の幹部“ハイファミリア”。これからの長い旅路の中で、別の幹部と遭遇する可能性は十分にある。


「は……、早起き……」

「せなあかんで。ミルフィ」


 


 ◆◆◆



 

 夜明けの早朝。

 まだ肌寒さが残るというのに、憲兵に加え、どこで情報を得たのか冒険者や傭兵達も様子を見るため、多くの人が、港にある拠点から沖に停泊する巡洋艦を見にきていた。


 拠点からでも目視で確認できる雄大な灰色の鉄塊。

 2門の主砲と6門の副砲を搭載した姿は勇ましい。



「おっ! 憲兵の姿が見えたで」

「双眼鏡なんてどっから持ってきたのよ」


「その辺にあったから借りとるだけやで」

「それは置き引きと一緒よ! てかあたしにも見せなさいよ!」


 パーレットに双眼鏡を奪われ、そして奪い返し沿岸部の戦況を確認する。


「ウチらも見たいよねぇ〜」

「……ぅん……」



 


「あっ! ついに現れたわッ!」


 パーレットから双眼鏡を奪い返し、クシードもその状況を確認した。



「……あれがフィーマヘングか……」


 近接する4階建ての建屋と同等ぐらいの高さ。

 体長は12〜14メートルぐらいだろうか。

 確かに巨人だ。

 

 だが、巨大な人間かゴーレムを想像していたが、その姿は想像よりかけ離れている。


 全身を覆う黒鉄の装甲は、昨夜の闇を凝縮したなのように冷たく光り、頭部から伸びる一本のアンテナと、双眸(そうぼう)が赤く輝いていた。


 物理攻撃も魔法攻撃にも臆することなく、力強く大地を揺らし、石レンガの建物を容易に破壊しながら、周囲を舞う憲兵達に強靱な剛腕を振るっている。


 その手足の関節部にはシリンダー。

 ボディにはケーブルが見えた。

 

 あれじゃまるで――


「ロボットやんな……」

「何? ろぼっとって?」


 そういえばこの世界にロボットはいなかった。

 

「機械仕掛けの()()()()()……、その……、なんかやわ」

「よく分かんないけど、()()()()()機械……なのね。クシードって、変なものは知ってるんだね」


「ウチも見たぁ〜い」

「私、も……」


 しかし、あの巨人はこの異世界では見らないデザインだ。その機械的なフォルムは、どちらかと言えば2100年代で活躍している無人作業ロボットに似ている。


 何か因果関係でもあるのか、とクシードが思慮に耽っていると、激しい爆発音が響いた。

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