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018.疑問

「なぁ、オレ思ったんやけど――」


 

 チェマから次の町へ向かう途中のこと。

 急ぎ足で進む中、クシードは口を開いた。


「何? ヤバそうな異変でもあったの?」

「いや、違うけど……」

 

「じゃあ、何よ?」

「あのさ、魔神って結局なんねんろうなぁって……」


「えっ……? 学校で習ったでしょ?」


 それは相当ヤバいことなのか、先頭を歩くパーレットは急に立ち止まり、驚いた顔でクシードを見た。


 

「ほ、ホラッ、オレ……、その……、あれやん。記憶喪失って前言うたやん? そうゆうのも忘れてしまって……」

「記憶喪失って、そんなものなのかしらね」


 ――絶対違うと、クシードは確信している。


「えぇ〜! クシードぉ、記憶無いのぉ〜? 何だかかわいそぉ〜」


 疑問と憐れみの眼差しを向けられているが、住んでいた世界が違うから学校で習うはずが無い。


「ん〜、でもぉ、ウチもぉ、ちょっと怪しいかもぉ〜」

「忘れちゃうものなのかしら……。ミルフィは?」


 アマレティも魔神についてさほど詳しくなく、パーレットは少々驚いた様子でミルフィに聞く。

 ミルフィは“小学校で習ったよ”と、尻尾を振りながら自信たっぷりにスケッチブックを掲げた。


 以前、クシードがミルフィとの会話練習で、この世界でも教育制度は小、中、大学校の3つに分けられると聞いている。

 小学校7年、中学校3年は義務教育。

 大学校の3年は専門教育となるそうだ。


「――だってぇ〜、ウチぃ、小学校中退だも〜ん」

「まぁ、家庭の事情とかで、義務教育が受けられない人も多いものね」


 教育制度があるとは言え、発展途上国のように満足に学校へ通えない人もいる。

 この世界の生活水準から考えるに、アマレティのような人も珍しくはないのだろう。


「しょうがないわね。中学校を卒業したこのあたしが、教えてあげるわッ!」

「さっすがぁ〜」

「なら、パーレット先生、頼んます」


 “少し急いでいるからって終始無言はツマンナイ”

 と言うこともあり、おしゃべりをしながら目的地を目指すことにした。


 

「まず魔神はね、結構前……、えーっと、あたしが生まれる前で、そーとー昔ッ! んで、えーっと……アレよッ! アレ!」


 うる覚えな内容なのに自信満々に話すパーレット。

 これは、ある意味才能だな。


「そうッ! 今から400年ほど前よッ!」


 名前が出てこなくて四苦八苦しているような状態を見かねたのか、ミルフィはスケッチブックで助け舟を出した。


 この先生、大丈夫なのか……。


「今から400年以上前は、普通に魔神がいたのよッ!」

「なんや? 戦争状態やったんか?」


「違うわよ。クシード、あんた本当に記憶がないのね」


 パーレットが言うには、400年以上前はこの世界の人と魔神は共存しており、生活魔石(ヴィスタ)業務魔石(グリスタ)といった魔法技術を伝えていたと言う。

 

 そして魔神は、“魔法が使える人”の略で魔人だったが、魔法技術により国が発展し、いつしか神として崇められ“魔神”となったそうだ。

 

 ではなぜ、良好関係を築いていたのに、現在は厄災となっているのか――


「国王が暗殺されちゃったのよ」


 最初にいた街ルシュガルや、目的地でもあるオウレを有するこの国の名前はヒーズル。

 時のヒーズル国王が、魔神により殺害されてしまい、すぐに国交が断絶となり、関係が一気に悪化したそうだ。


「……? そもそも魔神って、どうやってヒーズル国に来たん?」


 クシードが疑問に思うのも、宿屋で見た世界地図を見れば海を有する大陸の一角に、ヒーズル国がある。

 魔神は人。

 実は陸や海からの高度な技術を持った外国人か、それとも違う人種なのだろうか。


「どうやってって、魔神召喚よ」

「まじんしょうかん?」


 また新しい異世界用語だ。


「あっ、それぇ〜、覚えてるぅ〜」

「知らないのはクシードだけみたいね」


 やれやれしょうがないと、パーレットは説明を続けた。


「魔神はね、たしかロクエティアだっけ? そんな感じの時空を超えた世界的な……、あたし達とは違う世界に住むところから、魔神召喚の儀式をやって招いて、魔法技術を教えてくれていたのよ」


 儀式はともかく、なんだか、異世界転移版NPO法人みたいだとクシードは思う。

 

「だけど、良い人ばかりではなくて、中には悪人も混ざっていたのね」

 

「魔神の見た目とかどうなん? 顔色が紫とか特徴があれば、国王暗殺も防げたんちゃう?」

「顔色が紫とか、ただのキモいだけだけど、魔神の外見はどうゆうわけか、クシードと一緒。ヒューマ族しかいなかったみたいよ」


「外見が一緒……」


 つまり、異世界ロクエティアの住人は、地球と同じ、ヒューマ族に類似した人種しかいないのかもしれない。

 あの急な異世界転移は、魔神召喚の儀式によるものだったのだろうか。


「なぁ、魔神召喚って儀式ねんな? どうやってやるん?」

「知らないわよッ! あたしのおばあちゃんは、国王が生きてる時、召喚士もしてたけど、教えてくれないまま死んじゃったし。それに国王が殺されてから禁術よッ!」


 400年前。

 おばあちゃんが生きていた。

 パーレットの見た目は20代前半だが、どうしたものか。実際の年齢がめちゃくちゃ気になる……。


 魔神召喚や召喚士、禁術など、たくさんのフレーズ。この世界へやって来た理由も分かりそうで分からず、クシードの頭の中はモヤモヤと、整理が追いつかなくなっていた。


 

「……クシー……ド……?」

「だ、大丈夫やで、ミルフィ。難しい話が多いねん」


 心ここにあらずと、思慮にふけるクシードの顔をミルフィは心配そうに覗き込む。

 クシードは、複雑な思考に耽りながらも、微笑んだ。


 

「――ま、魔神に関してはこんなところかしらね」

「パーレットありがとぉ〜。」

「うん、ありがとう。勉強になったで」



 とは言え、一度に入ってきた情報量は多い。

 クシードは一つ一つ理解していこうしている。


 まず彼は、この異世界に転移されたのは魔神召喚の儀式によるものだと考えた。


 根拠と呼べるものはないが……。

 

 パーレットの説明では儀式と召喚士は1セット。

 

 召喚直後は、そばに召喚士がいるものだと思われるが、実際はそんなそぶりが全く無いミルフィの前。


 お世辞にも儀式の間とは言えない。

 

 それにクシードは別世界ロクエティアの住人では無く、ただの地球人である。

 

 しかし、召喚による何らかの形で招かれた可能性は高いと彼は思っている。

 招かれたとなれば、送還、つまり帰ることもできるのではないだろうか。


 その答えは魔神自身が知っているのかも知れない。


 魔神は人間。

 

 最終目的地であるオウレ付近を拠点に、厄災を振りまいているとは言え、会話ができる、と思う。


 

「外見が同じ……か」

 

「なに〜? どうしたのぉ〜?」

「ああ、何でもないで、アマレティ」


 

 魔神は、この世界で言えばヒューマ族と変わらない見た目。どこかでいきなり出くわす可能性も高い。

 そんな眠れる存在でもあるが、接触することで何かわかるのかも知れないだろう……。

 



 だが――



「なぁ、パーレット」

「今度はなに?」


「年齢ってナンボになるん?」

「あたしの年齢? んーと、今年で64ね」


「えぇ……、ババアやんか」

「誰がババアよッ! ブッ殺すわよッ!」

「クシードひどぉ〜い。ロンイー族はぁ、長生きするんだよぉ〜」


「そーよ。あんた達の3倍は生きるの! あんた達に合わせれば21歳ぐらい。水も弾くピチピチギャルよ!」

「……? 水も弾くナントカって、ちょっと意味が分からへんな」

「ほんとだねぇ〜、イミフ〜」


「なんでよッ! わかりなさいよーーッ!!」


 

 3人の軽快なやりとりに、ミルフィはスケッチブックで顔を隠して大笑いしていた。


 

 ――出会ってまだ日が浅いのに、気の合う仲間達。

 オウレに着いた頃にはどれくらい親密になっているだろう……。

 

 ミルフィ、パーレット、アマレティ。

 

 もし、その時が来たらどうしようか。



 彼女達と共にこの世界に留まるか。


 それとも……。


 いや、考えるのはやめておこう。

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