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015.暗がりに潜む

 レッサーテングの巣窟へと歩みを進めたクシード、ミルフィ、パーレット、そしてアマレティ。

 

 町長から渡された地図によると、チェマから北西へ1ルにも満たない所にある、森林部と記載されている。

 切り立った岩壁にできた亀裂内の洞穴に、住居を構えているそうだ――。


「アマレティを置いていくなんてヒドい仲間やんなぁ」

「みんなのぉ〜、暗視ゴーグルぅ準備してたらぁ〜、置いていかれちゃったのぉ〜」


 真っ暗な洞窟内へ入るための必需品。

 それは松明ではなく、生活魔石(ヴィスタ)を用いた暗視ゴーグル。

 

 異世界は意外とハイテクだ。


「先発隊は暗視ゴーグルの代わりに“感知”の業務魔石(グリスタ)とかで代用したのかしらね……。だとすればよっぽどの熟練者かど素人よ」


 半ば呆れ気味にパーレットがぼやくのも、グリスタが装備できる数は平均して3〜4つと限られているからだ。


 このグリスタも標準グリスタ、補助グリスタ、支援グリスタと大きく3種類に分けられ、最も重要なのが、標準グリスタである。

 

 身体能力の強化や、“適合する属性”の魔法が使用可能になるグリスタで、戦闘時においてはもっとも消耗が激しい。


 グリスタの種類は豊富。

 選択する組み合わせ次第で戦況は変わるため、貴重な1枠を代替の効く視覚確保に使ったとなれば、パーレットの言う通り、先発隊は熟練者か素人のどちらかとも言える――。



 


「……ルートはこっちの方向でええよな?」

「んー……、そうね」


 地図やコンパスを参考に時折り小休止を挟んで、現在地を確認しながら、見通しの悪い森林地帯を進む。

 

 植物や木の表面についた新しい傷を探し、草木をかけ分けていると、突如、目印となる切り立った岩壁がクシード達の前に姿を現した。


 

 壁面には先発隊の冒険者達が戦った跡だろう、目新しい亀裂や黒ずんだ染みがあり、地面には折れた剣や弓がいくつか散乱している。

 

 これらは、ほとんど手入れがされていない状態。町長が話していた内容から、おそらくレッサーテングのものに違いない。


「相当な数を相手にしたんやろうな」

「戦闘の跡があっちへ続いているわ。おそらく入口は向こう側ね」


 パーレットが指差す方向には、魔法攻撃によるものなのか、不自然に凍っている何かの炭が散らばっている。

 それに、どうやったのかは不明だが、大きな爪で引っ掻いたのか地面が抉れていた。


「アマレティ、“警戒”に反応はあった?」

「ん〜、分かんなぁ〜い。洞窟内〜、複雑かもぉ〜」


 パーレットはアマレティに、“警戒”の補助グリスタの展開状況を聞く。


 “警戒”の補助グリスタは、周囲に魔力検知のレーダーのような役割を果たすようだ。

 

 範囲は使用者によって左右され、アマレティの場合は、約15ソウ(概ね50m程)先まで検知できるとクシードは聞いている。

 しかし、“複雑”と言う言葉から、入り組んだ構造だと検知能力が落ちるのかもしれない。


 

 

「――でも進まなきゃね。みんな準備はいい?」

「いいよぉ〜」

「……」


 洞窟内へ進む準備を始めたパーレットとアマレティに対し、ミルフィは息を荒くし緊張している様子だった。


「大丈夫や。必ず守るで!」


 回転式拳銃(リボルバー)“ルミナエルス”を構えたクシードに背中を軽く叩かれ、ミルフィは小さく頷いた――。




 各々武器を構え、暗視ゴーグルを装着し慎重に前へと進む。

 右へ左へ、そして下へと続く複雑な通路だが、両手を伸ばしても壁や天井に手が届かず、意外と広い。


 戦闘の痕跡も見られず、入口とは別の世界があった。



 

「……」


 ドーム状に開けた空間に出たところで、先頭を行くパーレットは立ち止まり、左手を上げて止まれの合図を出す。


「“警戒”に反応はないのよね?」

「うん〜、全くなぁ〜い」


「おかしいわね……」

「そぉ〜おぉ〜?」

「その魔法って、隠れたヤツにも有効なん?」


「多分〜」


 クシードの質問にアマレティは、隠れたモノノケにも有効と答える。


 これは本当に、もぬけの殻なのかもしれない。


 入り口付近で、あれだけ激しい戦闘があった後だ。

 根拠としても成り立つ。

 だが、アマレティを置いていった冒険者達の行方はどう説明すれば良いのだろうか……。


 クシードの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

 この記号を彼は目で追っていると、ある一点で追うのをやめた。

 緑色の濃淡だけで表されている暗視ゴーグルの世界で、不自然に目立つ二つの輝き――。

 

「伏せろぉぉぉーーッ!!」


 鬼気迫るクシードの突然の叫びに3人は驚いた。

 同時に、ルミナエルスも雄叫びをあげる。


「……反応ぉ、あった()()()ぇ〜」


 クシードの放った銃弾は、高台から弓を構えていたレッサーテングを撃ち落とし、落下の衝撃で首が反対方向に曲がり、動かない。


 

 同胞の恨みを晴らすためか、銃声が響いたことで侵入者を排除するためかは分からないが、剣、槍、弓をもった長い鼻の子供が、奇声を発しながら一斉に姿を見せた。


 

 6……8……11……

 一体、何体いるのだ――。


 

「ボサっとしないで行くわよッ!」

「戦わなきゃ〜」

「弓持っとるヤツはオレが()るッ!」


 戦闘体制になると、真っ先に動いたのはパーレット。

 

 彼女は開けた空間と判断し、小剣からソードウィップに持ち替える。走りながら剣身を鞭型へ変形させて振るうと、剣を持っていた1体のレッサーテングの首を刎ねた。



 

【――我らの進攻を阻むぅ障害よぉ、散開しぃ道を明け渡せぇ】


 パーレットが武器を切り替えると同時に、アマレティは魔法を詠唱。彼女がターゲットとしているのは槍を持ったレッサーテング2体だ。


雷系魔法(エリメ)前方三点放射弾(タークドュロート)ッ!!】


 間延びした言葉と共に、稲妻を帯びた3つの球体が放たれた。

 

 この雷魔法に反応してレッサーテング達は回避行動を図るも、追尾性能があるのかレッサーテングの動きに合わせて曲がり命中。

 無様な踊りを披露しながら黒焦げになり絶命した。


 

 各々、戦闘に集中している最中、意識の外から攻撃で機会を窺っている輩もいる。

 次々と仲間が斃れる様子を静観し、侵入者を狙う弓兵。


 狙撃手は仲間が死んでも、冷静でいなければならない。

 優秀なのか、そもそも、そのような感情を持ち合わせていないのかは分からないが、姿を表す気配はない。


 

 地の利を活用し、静かに不意を突く。



 

 だが、狙う側になれば、どこに潜めば良いかおおよそ予想がついた――。


「まさか狙われていた、なんて思わへんかったやろ?」


 クシードが突きつけたルミナエルスの銃口の先には2体の弓矢を構えたレッサーテング。

 逆に不意を突かれ、慌てて弓矢の向け先を変えるも銃には勝てなかった。


 頭部に風穴を開けられ、即死した2つの死体をスナッチで処理し、弾薬装填(リロード)しながらクシードは周囲を注意深く見渡たす――。

 


 勇猛果敢に剣を振るいレッサーテングを両断していくパーレット。

 球体とはまた別の、ビーム状の雷魔法を放ち、迫る敵を次々と感電死させているアマレティ。

 

 初めて経験する戦場に怯え、入口付近の岩陰で動けなくなっているミルフィを差し置いて、戦況は有利だ。




 

 敵は残り3体。

 勝利は目前……。


 ――と、クシードは思うが、妙に落ち着かない気分である。


 戦闘で活躍できなかったなど、そんな幼稚な理由では無い。

 もっとこう……、深刻な内容だ。


 待ち伏せやカモフラージュをするモノノケが、ただの正面突破で終わるのだろうか。

 この程度であれば、先発の冒険者達で始末できるとクシードは思う。



 

「――さぁ、かかって来なさいッ! 丁寧に殺してあげるわッ!」


 ソードウィップを肩に担ぎ、残ったレッサーテング達をパーレットは挑発するが、レッサーテング達は冷静にその場に留まっていた。


「アマレティ、“警戒”のグリスタを発動してくれ!」

「なんでぇ〜? ……よく分かんないけどぉ、りょうかぁ〜い」


 

 何かしら理由があるはず。

 

 そう思案しながら、クシードは周囲を見渡した。



「……あっ! 待って待ってぇ〜、アッチからなんか、来てるぅ〜!」


 留まるレッサーテング達を斬り殺そうと武器を構えたパーレットは、入口とは反対方向を指差すアマレティの反応を聞いて行動を辞めた。


 すぐに撤退できるよう、クシード達が入口付近の岩陰に隠れているミルフィの元へ集結すると、2体のレッサーテングが高台から飛び降りて来た。


 この群れのリーダーなのか、二回(ふたまわ)りも三回(みまわ)りも大きい。


「何、コイツら? 初めて見るタイプね――」

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