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014.置いてけぼりのコーヌ族

「クシードッ! ミルフィッ! やっとチェマの町が見えたわよッ!」

「あぁ……、やっと着いた」


 陽は沈み、街には明かりが灯り始めていた。


 クシードとミルフィの旅の目的を聞き、魔神の被害に遭っている人たちを助ければ、高潔な我が一族の評判が上がると意気込み、半ば勝手についてきたエルフのように長命で長い耳を持つロンイー族の女魔剣士、パーレット・キャラル。


 ソードウィップと呼ばれる、鞭や剣にもなる特殊な剣を振るい、火属性の業務魔石(グリスタ)の使い手だ。

 

 写真屋を営む両親の影響で、この世界では高級品であるカメラを持っているが、そのカメラを悪用して、特別な性癖を持っている犯罪予備軍である。


 ルシュガルでは指名手配犯だが、今のところ、ただの変態であり根っからの悪人、という雰囲気は感じられるない……。

 


 辿り着いた小都市チェマは、交易で栄えているルシュガルの中継場所。物流が盛んな中都市の隣町ともあってか倉庫が多く、小さな町ながらも警備が厳重だ。


「パーレット、顔バレしとるかもしれへんから、早よ顔隠せ!」

「わかったわよ」


 あくまでもこの町は、泊まるだけの中継地点。

 余計な騒ぎを起こさぬ様、ミルフィのハンカチでパーレットの顔をグルグル巻きにし、宿の手配を急いだ。



 

◆◆◆


 

 翌朝――。


「ぼちぼち起こすか……」


 クシードは、宿泊していた部屋の隣部屋の鍵を持ち、ドアを開けて中に入る。

 部屋の中には、布団を顔まで被り、耳だけを出して寝ている人がいた。


「ミルフィッ! 朝やッ! 出発の時間やでッ!」

 

 クシードがミルフィの身体を揺さぶると、布団を被ったままモソモソと動く。


「早よ起きやッ!」

 


 実は、ミルフィは寝坊の常習犯である。

 

 昨日ルシュガルを出発した日は、興奮して眠れなかったため奇跡的に早起きができたが、2日連続は無理だったようだ。


 ミルフィを叩き起こし、クシード達が予定より1時間遅いチェックアウトの手続きをしていると、タヌキ系のケモ族の亭主が、不思議そうな目でクシードとミルフィを見てきた。


「そのバッジ……、()()()()達は冒険者なのか?」


 仕事の依頼でもあるのだろうか。

 先を急ぐ旅なため、要件だけ聞いておこう。


「実はレッサーテングの被害が目立つ様になってきてなぁ。一度、町長のところまで顔を出してくれねぇか?」

「へぇー、そーなんですねー。わかりました。行くよーにはします」


 クシードは亭主に軽く会釈を交わし、愛想だけ良くして宿を出た。


「さて、次の町まではもっと歩くんやったな?」

「何言ってんの? 町長のところまで行くわよ」


 クシードの意見とは対照的に、パーレットは宿屋の亭主に賛同的だった。

 

「レッサーなんとかなんて、誰かに任せりゃええやろ? 急ぐ旅なんやし、さっさと次の町へ行くで」

「困っている人がいたら助けなきゃ! 高潔なるロンイー族として見過ごせないわッ!」


 性犯罪予備軍のくせに面倒臭ぇな……。


 道草なんて食っている場合では無いと顔を(しか)めるクシードだが、ミルフィもなぜかパーレットに同調し、尻尾を垂直に立ててやる気になっていた。


「さぁ! 人助けに行くわよッ!」


 正義感の強い2人の女に押され、クシードもしぶしぶ町長の元へ向かう。



 

◆◆◆

 

 


「――物流を積んだ馬車がレッサーテングの襲撃に会うようになりまして……」


 辛気臭い顔で話す、目尻に深い皺のある色黒で金髪の中年男性。

 このおじさんがチェマの町長だ。


 町長が言うには、レッサーテングという人間の子供サイズで真っ赤な顔と長い鼻が特徴のモノノケによる被害が相次いでいるそうだ。

 このレッサーテングは武器を持った成人男性であれば簡単に撃退できるとのことだが、強い個体がいるのか、人的被害が目立っていると言う。

 

 昨日も冒険者を雇い、レッサーテングの討伐へ1組のパーティが向かったが帰ってこないと嘆いていた。

 

「面倒臭くなって途中で投げ出したんちゃいます?」

「成功報酬なのでそれは無いと思いたいのですが……」


 報酬は8,000ジェルト。

 パーレットは小さな声で、“安っす”とぼやいていた。


「町長さん、申し訳ないですけど――」

「――引き受けたわッ!!」


「オイ、パーレット! 何勝手に答えとんねん!」

「よく聞いて、クシード。これはお金じゃ無いわ!」


「さっき報酬額、安っすって、言う――」

「あのね、誰かを助けるのに理由なんていらないのよ」


 パーレットは食い気味で言葉を遮り、澄ました顔で名言っぽいことを言う。


「町長さん、ここはあたし達に任せて下さいッ!」

「いやいやいやいや、チョイ待てや!」

 

「皆さん……、ありがとうございます。ありがとうございます……」

 

 町長は頭を深く下げて、何度も何度も感謝の言葉を述べた。


 ちくしょう……、断りにくい。

 

 

「――あぁそれと、昨日の冒険者の方の1人を同行させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あれ? 帰ってきて無いんじゃ……」


「1名だけ、置いてかれたそうなんです」


 置いてかれた……。


「えらい鈍臭いのがおるんやな」

「そんな奴に同行してもらっても困るわよね……」


「ジョブは黒魔道士なので、お役には立てると思います。帰ってこない先発隊の調査員として、現地に行って頂きたいとお伝えしたく、ここへお呼びしております。そろそろ来られるかと……」


 一体どんな奴なんだと、クシード達は依頼内容について確認をしながら待っていると、黒色のゆるウェーブショートヘアーから羊の巻き角を覗かせ、胸元は大胆に開き、深いスリットの入った黒色のワンピースを身に纏った女性がやってきた。


 頭に角があるのはコーヌ族と呼ばれる種族。

 男性は身長2mを超える大男が多く、女性は一般的な身長だが、なんと豊満なバストが特徴だ。


 もれなくこの女性も、コーヌ族の特徴の持ち主。

 ミルフィよりもさらに立派で、何よりも露出が多い服装から垣間見える()()()()が素晴らしく、なんとも美しい。

 とっても映えている。


「お待たせぇ〜」


 女性はゆっくりと間延びした言葉で挨拶を済ませると、どこか妖艶で眠たそうなタレ目を動かし、クシード達を見た。


「来客中ぅ〜?」

「いえいえ、ショコラーデさん。この方達も冒険者で、レッサーテング討伐の依頼をしていたところなんです」


「へぇ〜、そぉなんだぁ〜」

 

「ふーん、あなたが噂の置いてかれた女ね」


 新人をいびるタチの悪い先輩OLのように辛辣な態度を見せるパーレット。まさかのドラマみたいな展開に出くわすと、なんだか新人を応援したくなる――。



 一通りメンバーが揃ったところで、町長が改めて今回の依頼内容について説明を行った。


 整理をすれば、

 ・先発隊の安否確認

 ・レッサーテングの討伐

 が主な依頼内容となる。


 レッサーテングの討伐は、“状況に応じて”のため必ずしも履行しなくても良いとのこと。


 説明を終えた後は、各々簡単に自己紹介を済ませた。


 

「ほな、ショコラーデさん。一緒に頑張りましょう!」

「うん〜、よろしくねぇ〜クシードぉ〜。あ〜でもぉ〜、アマレティってぇ〜、気軽に呼んでねぇ〜」


「了解や! アマレティッ!」

「えへへぇ〜」


 元気よくハキハキとしているクシードに、にっこりと無邪気な笑顔で返事をするアマレティ。

 すんごいセクシーなお姉さんと一緒に行動ができるとなり、彼は一転して、やる気にみなぎっていた。


「あんたさぁ、何鼻の下伸ばしているのよ」

「……」


 2方向から軽蔑の眼差しを向けられているが、クシードはとくに気にしていない様子。

 

「では皆さん、お気をつけて。無事に帰ってこられることを願っております――」

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