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第1話 お兄ちゃん、異世界へ

チャイムと同時に荷物を持ち教室を出る。

「あの、今日、大事なホームルームが…」

控えめそうなクラスメイトが声をかけるがそれどころではない。

「あ?」

睨みをきかすと「ひぃっ」と声を上げ、視界から消える。

その様子を見て他の生徒も目を逸らす。


(…ちっ。急いで帰らねぇといけねぇんだよ。)


靴箱に収まる程度に勢いよく上履きと靴を交換し歩みを止めない。

道中、お婆さんが経営している小さな花屋に立ち寄り大きな花束を買う。

カバンの中には可愛いリボンでラッピングされたクマのぬいぐるみが紙袋の中で笑っている。


この日のためにバイトしてきた目つきの鋭い男子高校生、北条海斗(ほうじょうかいと)は、浮き足立っていた。

なにせ今日は愛しの妹の誕生日なのだ。


「おい、海斗てめぇ、よくもこの前俺様の子分に手を出してくれたなぁ?」

ウキウキで帰っていたらガラの悪いやつに絡まれた。それも10人ほど。


「…今それどころじゃねぇんだよ。」

そうため息を吐き、足早に立ち去ろうとするが挟まれる。

「おいおい、つれねぇじゃねぇか。野郎ども!やっちまえ!」


一斉に飛び交ってくる相手を瞬時に交わし返り討ちにする。

「つ、強ぇ。」

「それどころじゃねぇって言ってるだろ…まだやんのか?」

睨むと捨て台詞を吐いて輩は立ち去っていく。


「くそ、プレゼントがボロボロになるじゃねーか。」

手元の花や紙袋を確認し、無事であったことに安堵する。

再度帰り道を急ぐ。


まもなく家だ。


横断歩道の線を飛び越えるように急いで渡っていた。

ドシャーーーンッ


大きな音が鳴り響いた。


あまりに一瞬の出来事であり何が起きたのか理解できなかった。

「なんなんだ?今日は次々と…だめだ。体…動かねぇ…」

様々な音が聞こえるが、集中して聞き取ることができず、そのまま意識が途絶えた。


ーーーーーーーーーー

「ふむ…幾人もの人間を病院送りにしたと。なになに、他にも…犯罪ではないがなぁ〜。」


次に聞こえてきたのは女性の声であった。


(誰だ?妹…じゃねぇ…聞いたことない声だな。)


「まあよい、人を殴るのは良くないことじゃ、このまま冥土に送るかの。」

次第に視界がクリアになっていき、目の前には足を組んだまま椅子に体勢を崩して座り、巻物を読んでいる少女がいた。


「誰だてめぇ。」

「お、目が覚めたか。北条海斗、貴様は冥土送りじゃ。まあだからって苦しいことは何もないから安心せい。」

理解ができない海斗は立ち上がると少女にくるっと背を向け立ち去ろうとする。

「貴様、どこに向かうんじゃ?冥土は貴様からみて左側じゃが?」

不思議そうに首を傾げる少女に淡々と答える。

「家に帰る。」

「貴様の帰る家などどこにもないが?」

「何言ってやがる。これから妹のケーキ作って誕生日会すんだよ。」

少女はため息をつく。

「貴様、覚えてないのか。己の手を見てみろ。」

言われるがまま自身の手を見つめると普段より透けているように見える。

「あ?なんだこれ?」

「貴様は死んだんじゃよ、信号無視したトラックにはねられて、な。」

海斗は理解できなかった。


少女は肘掛けに肘をつき、指を鳴らす。

音と同時に足元には妹含めた家族が病院で泣いている景色が映される。

ベッドの上には安らかに眠る海斗本人がいた。

「は?なんだこれ…」

家族はもちろん寝ている自身にも触れられない。手から伝わるのは床の冷たい感触のみ。

「地面をスクリーンとして映しておるのだ、その空間にすら行けぬわ。」

少女はつまらないものを見るかのように扇子を広げ扇ぐ。


「おにぃちゃん…死なないでよ…なんで…」

泣き続ける妹を慰めるために意識を集中するが、体には戻れないようだ。

少女が再度指を鳴らすと足元の景色は消えた。

「まあ、そういうことじゃ、若いのに残念じゃったな。冥土は…」

少女が言い切る前にゴンッと鈍い音を立てる。

海斗は土下座し頭を床に強く打ちつけた。

「頼む…今日だけは生き返らせてくれ。あいつの…妹の誕生日なんだ。誕生日を祝うだけでも…お願いだ。」

少女は再びため息をつく。

「貴様は悪くないしそのような事情じゃ可哀想じゃ…とは思ってやっても例外は作れんのじゃ。残念じゃったな。」

「頼む!この通りだ!祝えたらそのあとは死んだっていい!」

「無理だと言っておるじゃろ…」

少女が言い切る前に海斗は少女の顔面を殴りかけた。

「…ずがたかい、跪け」

少女の一言により海斗の体全体に重力が強くかかり全身で床にへばりつく。

「先ほども言ったが、例外なんてものは無理なんじゃ。…だが面白い。」

少女は扇子を畳み立ち上がる。


「貴様にチャンスをやろう。わっちは少々難題を抱えておってな、それを解決してくれるなら貴様を期間なく現世に返してやろう。」

「あぁ?なんだそれは?」

重力に歯向かおうとしている海斗に近づき、海斗の顎に扇子を当ててこちらに顔を向ける。

「異世界転生ってやつじゃ、貴様も聞いたことあるじゃろ?」

「異世界…だと?そこで何すんだよ。」

「話が早くて助かるわ。そこで貴様に『天使狩り』をして欲しくてな。天使が無害な人を殺しまくっておってなぁ。わっちの仕事が激増しておるんじゃ。そこでじゃ!」

パチンと指を鳴らすと海斗の重力は無くなる。

地獄(ここ)で鍛えて異世界に行け。天使を狩り尽くしたら現世に返してやろう。」

「んなことでいいのか?今すぐ送れよ。」

海斗の反応に少女は「カッカッカッ」と笑う。

「威勢がいいのぉ、見込み通りであるわ。しかし、異世界では魔法だの魔具だのが存在する世界、今わっちに勝てない貴様では到底太刀打ちできん。して、わっちも異世界送りしたとバレればタダでは済まない。…そこでじゃ。」


少女は指を鳴らすと地面から執事姿の青年が跪いて現れる。

「お呼びでしょうか。」

「アレン、貴様がこやつを鍛えてやれ。」

アレンと呼ばれた男は眉を(ひそ)める。

「お言葉ですが、閻魔様、私は女は愚か、男にも興味ありませんが。」

少女はニヤッと笑う。

「貴様、おもちゃが欲しいと言ってたであろう?」

「…いいのですか?」

「好きにするがよい。」

男は歯を剥き出しにして笑う。

片手で口角を下げようとしながら話し続ける。

「おおっとニヤけてしまいますね。失礼いたしました。いいでしょう、この者を鍛えましょう。」

少女は海斗に言う。

「そういうことじゃ、このアレンに鍛えられ魔法というものを多少なりとも理解せよ。さすればすぐさま異世界に送ってやろう。ここは死ぬことのない世界、食事も睡眠も必要ない。貴様がリタイアするならばそのまま冥土に送ってやろう。」

そう少女が言い終えるとアレンとよばれた男は立ち上がった。


海斗も立ちあがろうとすると背中から体が浮き上がる。

「うわぁっ!」

その後右の方向へ飛ばされ、壁にぶつかり再度床に這いつくばることになる。


「それでは海斗様、これより私、アレンによる調教(きょういく)を始めさせていただきます。」

「てめぇ、いきなり何すんだ!」

「まず、海斗様の実力と適性を見るために、精一杯私を痛めつけてください。私はこの線の中にいます、何の魔力もないただの印です。」

そう言うとアレンの足元を囲うように紫に光る円状の模様が浮かぶ。

「そして、3分以内にこの紋章から私が出なければ、貴方様を殺します。」

「は?何言って…」

「スタートです。」

そうアレンは言い終わると腕を後ろに組み目を瞑る。


「てめぇ…なめてんじゃねーよ!」

海斗は殴りかかる。これでも百戦百勝の無敵の不良と言われていたため自信があった。

地面を蹴り、アレンに殴りにかかる。が、

「ふふふ、遅いですねぇ〜」

アレンに交わされ海斗はそのまま体勢を崩す。

「んだと!オラッ!」

再度構えて殴るも、同様に交わされる。

「ふふふ、この程度でございますか。これなら3分もいりませんね。」

「死ねぇー!」

海斗は乱撃を繰り出すも、アレンは最小限の動きで交わす。

「死ぬのは、貴方様ですよ。」

次の瞬間、アレンは目を開き、海斗の腹に1発拳を入れる。

「ゴフッ」

「吹き飛びなさい。」

海斗の体の内部に激しい痛みが走るのと同時に体が後ろ向きに吹っ飛ぶ。

「ガハッ…はぁはぁ」

息がうまく吸えない。

アレンが近づく。

「あら、即死は防ぎましたか。でも貴方様の内臓は破裂しておりますので…そろそろですかね。」

そのまま海斗は生き絶えた。


目を覚ますとアレンが横で紅茶を飲んでいる。

「お目覚めですか、海斗様。」

「てめぇ…グッ!!」

身体全体に筋肉痛に似た痛みがみられ、素早く動けない。

「手始めに、海斗様は魔力がないので、まずは魔力感知、魔力吸収から始めましょうか。」

アレンはカップをテーブルに置く。そのままテーブルは床に吸い込まれる。

「魔力?…勝手なことを…」

「海斗様は魔法のある世界に行くのです。肉弾戦では今のように完敗するだけです。それに、これができなければ貴方様が行ったところで何にもなりませんよ。」

アレンはニヤッと微笑む。

「それに、簡単ですよ、コツさえ掴めばね。」


海斗は胡座を組み、集中した。

「そうです、魔力を体全体で感じるのです。初めての場合は少し電気の走る感覚があるかもしれませんが。」

「んなこと言われてもわかるか…」

うぬぬ…と海斗は唸るが魔力が分からない。

「ふむ、困りましたね。感知できないと自然と取り込むことも今後不可能かと。」

アレンの言葉を無視して海斗は続ける。


「〜っだぁぁぁ!わかんねぇ!」

海斗は痺れを切らし床に寝転がる。

「半日経ちましたが、無理ですね。魔力の適性がないようですね。」

海斗は寝転んだままアレンに尋ねる。

「適性がない人間が魔法操れるようになるのはどのくらいの確率なんだ?」

「ふむ、魔具があるため体にほとんど魔力がない人間もいますが、魔力が全くない人間はいないのでどのくらいでしょうかね。まあ希望を込めて1%とでも言いましょうか。」

そのまま海斗は尋ねる。

「魔力ない人間が魔力を得られる確率はどれくらいなんだ?」

ズズズと紅茶を飲み干し、アレンは答える。

「今までもごく僅かに挑戦される方はおられました。が、結果は海斗様と一緒ですね。それと、魔力低量者が魔力増幅を計ったケースでは、0.6%ですね。大抵は死にます。」

「死ぬ…のか…」

「海斗様は今、閻魔様の作り出す空間におられるので大丈夫ですよ!」

アレンはニコッと微笑むも海斗は顔を見ようともしない。


「天使は強大ですよ、そして一体一体が多量な魔力を持ち、技も強力。私から言わせていただきますと、海斗様はこのまま冥土に向かわれた方が良いかと思います。」

アレンが海斗に渡す。

「そちら海斗様のネックレスでお間違い無いですか?閻魔様から届けるように言われておりまして。」

受け取ったのは妹から貰ったクマのネックレス。他にもたくさん宝物はあるが唯一あの日身につけていたもの。

ネックレスを握る。

「あー。諦めようか思ったけど無理だ、だって俺。」

海斗は立ち上がる。

「妹に会いてぇんだわ。」

再度集中する。

「はぁぁぁぁ。」

アレンは期待しない目で見守る。

「気合いや気持ちだけでは超えられないものがあるんですよ。」

「いや、俺は超える。妹のためならできないことなんてねぇーんだよ!」

指先がわずかに静電気を感じる。

その後、どんどん光が指先に集まる。

「なんと…」

「はぁぁぁぁぁぁ!」

光が強くなり、海斗の手に吸い込まれた瞬間、海斗はその場に倒れ込み意識を失った。

「なるほど…これはいい玩具(おもちゃ)ですね」

アレンは口角を上げて笑った。


「はっ!」

海斗が目を覚ますと、アレンは棒で何かを書いているようだった。

「お目覚めでしょうか、海斗様。」

「俺は…」

「成功でございます。」

アレンが微笑みかける。

「しかし、海斗様、体に魔力を入れ、蓄えることに成功いたしましたが、まだ魔力が少ないのと、魔法の適性はありません。」

その言葉に海斗は肩を落とす。

「入れれたのに、無駄かよ。」

「そんなことはございません。」

その瞬間、海斗を囲むように紋章が浮かぶ。

「ここからが正念場でございます。」

次の瞬間、紋章が強く光り、海斗を包み込む。

「な、なんだこれ!」

「これは魔法陣でございます、貴方様に何万倍もの苦痛や不自由さを感じさせるものでございます。まあよく拷問にも使われますね。」

アレンが何かを海斗に向けて投げる。手で軽く弾くと当たったところを中心に体全体に電気が走るように痛みが感じられる。

「いっっ!」

「特に魔法陣を刻まれた今のお体には耐えられても3回でしょうが、何度目覚めても私を倒すまでは消えません。」

アレンはうっとりとした顔で海斗に向けて手を広げる。

「さぁ!何度も挑んで何度も死ぬがいい!悶え苦しむ惨めな姿を私めにお見せくだされ!」

痛む体でなんとか立ち上がる。

「…魔法はどうやって使うんだよ。」

ほぅとアレンは見つめる。

「魔法陣や詠唱が一般的ですがそのような時間はありませんし勿体無いです、体で覚えてください。イメージで使うのですよ。繰り返していれば魔力も自然と高まります。」

そうアレンは言うと陰から黒い触手が出てくる。

「まずはこのように何か想像して出現させてみましょう、その間も私はこの触手で貴方様をいたぶりましょう!」

触手はまっすぐ海斗に向かって伸び、激しく海斗の体に鞭打つ。

痛みが体全体を走るも海斗はニヤッと笑う。

「理屈を覚えなくていいんだな。俺は頭悪いからよ。なんでもいいんだな?」

目を閉じてイメージする。

「つえぇやつ、つえぇやつ、このうぜえアホズラを1発で食いちぎれるやつ!出てこい!魔獣!」

ぽんっと煙と共に出てきたのは、小さなポメラニアンだった。

「わん!」

「…魔獣じゃねーじゃねーか。」

そのまま海斗は魔力切れと体全体へのダメージにより倒れた。

「へへへへっ」

犬はぺろぺろと海斗の顔を舐める。

アレンは触手を仕舞い、紅茶のアテとなるクッキーを焼くことにした。


何回目かの失神後、美味しそうな匂いがする。

目が覚めると閻魔とアレンはお茶していた。

「何してんだ?」

「貴様も食べるか?」

「私特製のクッキーでございます。紅茶にはやはりクッキーですから。」

「ぬしの作るクッキーは絶品じゃ!空腹のない世界ではあるが何度でも食べたくなるの!」

「それはそれはお褒めいただき光栄でございます。」


ジーッと眺めていると顔を舐められる。ポメラニアンであった。

「そのわんころ、貴様に随分と懐いておるな。」

「こいつ…いぬか?」

「…わっちにもそいつが犬であることは知っておるぞ?」

閻魔は呆れ顔でクッキーを1枚犬に食べさせる。

「昔家で飼ってたポメラニアンの"いぬ"なんだよ。名前付けるの面倒だったからいぬって名前にしたんだよ。」

「なるほど、海斗様を象徴する素敵なお名前ですね。」

アレンの言葉は無視をする。

「ほう、ならばわっちがいい名前をつけよう。そうだな、ポメラニアンだからポメはどうか!」

ポメラニアンは首を傾げる。

閻魔はムスッと頬を膨らます。

アレンがポメラニアンに向かってクッキーを差し出す。

ポメラニアンは涎を垂らし尻尾を振る。

「あなたは『ポメ』様です、よろしいですね?」

「わん!」

閻魔は満面の笑みになる。


「おらぁぁー!」

「あははははっ!この程度でございますか!」

その後も何度も海斗はアレンに立ち向かう。

「ぐぁぁぁああああ!」バタン。

その度に海斗は痛みや苦しみと共に死ぬ。

ペロペロペロ…

倒れた海斗の顔をポメラニアンは唾液が滴るほど舐めまくる。


「アレン…まだまだだぁ!」

「ふふふ、見えてますよ。」

「がぁぁああああ!くそぉ…」バタン。

ペロペロペロペロ…


「おらぁぁぁ!」

「海斗様動きが単純になっておりますよ。」

「またか…よ…」バタン。

ペロペロペロペロ…


「ああああぁぁぁぁ!」バタン。

ペロペロペロ…


「やっと…コツが掴めてきたぜ…」

ふらふらの足でアレンの元へと歩みを進める。

「ほう?一万三千六百二十八回目でわかりましたか。」

「こうっだ!」

「ふふ、ですから同じ手には…」

海斗のパンチの軌道には、ポメラニアンがいた。

「わん!」

「ーっ!なに?!」

海斗は足元にしゃがみ、足に力を込める。

「ふっとべぇぇー!」

海斗はその勢いのままアレンに回し蹴りを入れる。しかし、

「まだまだですねぇ!」

アレンの触手で弾かれる。

「がぁぁぁぁあああ!」バタン。

「やれやれ、わずかながら冷や汗をかいてしまいましたね。ん?」

アレンはハンカチで汗を拭う際に足元を見ると、枠から片足が出ており、枠の中にはポメラニアンがいた。

「わん!」

「これはこれはポメ様…」

しゃがむアレンにポメはお手をする。

「なるほど、一本取られました。」

ポメと握手する。


その後も何度も訓練をした。

そして、海斗の死が10万回に達しようとした時、アレンを倒した。

「お見事…です、海斗様」アレンは初めて床に倒れた。

犬はアレンの顔面を嬉しそうに舐める。

今まで海斗が感じていた痛みなどの苦痛はスッと無くなった。

その瞬間海斗に触手が背後から襲う。そのまま海斗は倒れ込む。

「はぁはぁ、マジかよ。こいつ反則だろ…」

そのまま海斗も倒れ込んだ。

ポメラニアンは2人の顔を交互に舐めた。


「全く、2人して何をしてるんじゃ。」

閻魔が2人に治癒魔法をかける。

「申し訳ございません、お手を煩わせてしまい…」

「わっちも暇じゃないんじゃぞ!」

そう言いながらもしっかりと完治させる。

「海斗、貴様強くなったようじゃな、いつでも異世界に行っていいぞ。」

治療のためか体の痛みは全くない。むしろ体が軽く感じる。

海斗は閻魔を殴りかかろうとした、が、すぐさま会った時同様、体が床に磁石のようにくっつく。

「あー!くそぉー!」

「かっかっ!わっちに勝つにはまだまだ修行が足りんな。」

閻魔は軽快に笑う。

「しかし、もともと動体視力はいいと思っておったが、会った時より動きが良いのぉ。アレンにしごかれるだけあったな、海斗よ。」

「ちっ。俺は早く妹のところに戻る、早く異世界とやらに送れよ。」

「憎まれ口も嫌ではないのぉ。」

閻魔が指を鳴らすと空間が歪めら、禍々しい暗闇が出現する。

「行くがよい、そして天使を駆逐するのじゃ。」

「……閻魔、アレン、ありがとよ。」

「海斗様、こちらこそ非常に楽しい余興でございました。また機会があれば。」

「あんな苦しいのは2度とごめんだけどな!」

そのまま海斗は暗闇に吸い込まれた。


暗闇を歩いていると途中から掃除機で吸われるように体が引っ張られる。

「おいおい、どこまでも手荒な閻魔だな!」

すると目の前が一気に明るくなる。

「…なんなんだ?ここは…」

光に目が慣れると、目の前には原っぱが広がっていた。

「マジかよ、これが…異世界。」

辺りは森が広がっているようだった。自然豊かな場所に落とされたようだ。

「どこに行けばわかんねぇが、全員ボコボコにしてさっさと終わらせて、即帰ってやるよ、妹のもとに!」

海斗は歩き始めた。


ーーーーーーーーーー

「閻魔様、なぜあのように回りくどいことを?」

アレンは閻魔のカップに紅茶を注ぐ。

「何じゃ?」

「閻魔様なら簡単に力を渡すことができましたのに。」

「あやつのためにならんではないか。…それよりぬしはいいのか?同胞が殺されるとなっても。」

アレンは表情を穏やかにしたまま答える。

「はい、私はもう『アレン』でございますから。」

「かっかっ!ぬしの腹の中が黒いことをわっちは知っておるからな?」

アレンはニヤッと笑う。


紅茶を入れ終わるとアレンは再度閻魔に問う。

「閻魔様…あの、伝えなくてもよかったのですか?」

「何じゃ、何度も何度も。お前らしくないの。」

閻魔はクッキーを摘む。

「あちらの世界では天使殺しは重罪であることを。」

「あっ。」

閻魔はクッキーを床に落とした。


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