マヌグレーヴ家の伝説
私たちはポームズの学生時代の同期、レジナルド・マヌグレーヴに招かれてサセックスのハールストンに来ていた。彼はイギリス屈指の名門の生まれで、おそらく州内最古の邸宅といってよいほどの家柄だった。屋敷は迷宮のような古い建物で、だだっ広い庭園があり、女中も十人近くいた。新館と旧館があり、旧館の方は今ではほとんど使われず、ただの物置になっているらしい。その朝ポームズはマヌグレーヴに、あのバスカヴィル家の伝説の話を聞かせていた。
「いやあ面白かった。そうだ、君の話で思い出したけど我が家にもおかしな言い伝えがありますよ」
「ほう!どんな?」
りゔぁいあさんのめに みいられしもの
おおいなるめぐみと じひをあたえられん
私はなんだか神話の世界の中に入り込んだような気がしたが、ふとポームズを見ると緊張で顔を硬らせていた。
「君の家には、リヴァイアサンに関係するものがあるんですか?」
「ある訳ないでしょう」
「ふむ••••••これから今日一日、敷地内を探索させてもらっていいですか?」
「いいですよ、僕が案内しますね」
それから丸一日、私たちはこの広大な敷地内を探索してまわった。外の庭園に、新館と旧館、図書室や撞球室、地下室や穴倉に至るまで探索してまわった。ところがポームズは、手応えのあるものは何も見つからなかったようだ。夜になって私たちは話し合った。
「マヌグレーヴ君は明日まで空いてるんだったね?」
「そうですよ。だけどポームズ君は一体何を考えてるんですか?」
「ふむ、君の家の言い伝えだけど、もしかしたらと思ってね。はじめ僕はこの家に何か秘密があるんじゃないかと思ったんだけど、何も無かった。となると••••••」
「となると?」
「僕はサーペンタイン湖に、何か宝物が沈んでいるのじゃないかと思う」
「まさか!」私は言った。
「サーペンタイン湖に?宝物が?」
「うん。サーペンタイン湖はあの湖の形が蛇に似ているからそう名付けられた。リヴァイアサンは旧約聖書に竜だとも蛇だとも記されている。そこで君のご先祖様がサーペンタイン湖をリヴァイアサンに見立て、その眼の位置に大いなる恵みと慈悲、つまり宝物を沈めたのではないかと思うんだ」
「ポームズ、本気で言ってるのかい?」
「僕なら探しに行くね。マヌグレーヴ君は?」
「行きましょう!」
「じゃ明日の朝から一日かけて捜索しよう」
私たちはサーペンタイン湖にやって来た。
「先っぽがしぼんでいる方が尾で、大きい方が頭だろうからこっちだね」
全員水夫のよく着る厚い粗布の短い上着に襟巻きという格好で、撈錨を装備してまるで海員のように小舟に乗り込んだ。
「だいぶ昔のことのようだから湖底に埋もれちゃってるかもしれないが••••••とにかく眼にあたる位置を徹底的に捜索しよう」
私たちの捜索は始まった。小舟で長時間行ったり来たりしているのだが一向に手応えが無い。私は待ち伏せが空振りになった時のことを思い出した。嫌な予感がしたが昼をだいぶ過ぎた時のことである。
「おや、何だ?」
撈錨に何か引っ掛かったので引き揚げると、何かが入った重い袋だった。開けてみると
「これはチャールズ一世の貨幣だ。そしてこれは———王冠だ!」
「王冠だって?」
「そういえば僕の祖先のサー・ラルフ・マヌグレーヴというのは有名な王党で、チャールズ二世の流浪時代にはその片腕とよばれた人です」
「あっ、そうですか!王党の一味はチャールズ一世の死後もなお、イギリスの地に頑張っていたが最後に旗をまいて亡命するとき、おそらく最も貴重な所有物をすぐって、他日戦乱がおさまってからとり戻すつもりですべて隠匿しておいたらしいですね。この王冠こそかつてはイギリス国王の頭を飾ったものに相違ありません」
「しかしあれはクロムウェルに壊されたと聞いたが?」
「僕もそう聞いていたがこうなると、それはダミーだったのかもしれない」
「それにしてもチャールズ二世は帰国後に、どうしてこの王冠を取り戻さなかったんでしょう?」
「おそらくラルフ・マヌグレーヴ卿が秘密を握ったまま途なかばにして亡くなったのでしょうね。そして何かのてちがいから手引きになる言い伝えだけが、その説明もあたえられずに、代々伝えられたのではないでしょうかね」
「しかしあの戦乱は一六五〇年頃で、サーペンタイン湖ができたのは一七〇〇年以降だったはずだ。これについてはどう説明するんだい?」
「さあ、その点になると二百年も前のことだし僕にも永久に分からないと思う。これは完全に憶測だが、最初はラルフ卿は今とは違う言い伝えであの家に隠匿していた。それを後の子孫が見つけたが、言い伝えを今のに変えてサーペンタイン湖に沈めたんじゃないかな」
「何で見つけたのにわざわざそんなことするんだい?」
「宝物というものは人生を狂わせる力があるからね。それをめぐって窃盗や殺人など、人を牢獄や絞首台に送る役目をつとめるからね。これを見つけたご先祖様は生活が安定していて今の自分には必要ないと思ったが、もし先で子孫がそれを必要になった時のためにチャンスを残したい。それで家から遠ざけて湖に沈めたのかも」
「完全に憶測だね」
「まったくね。まあ何にせよ、おめでとうマヌグレーヴ君!君はそれ自身の価値も大したものだが、歴史上の参考珍品として、より以上にとうとい品を手に入れたんですよ」
「あなたが見つけてくれたのにいいんですか?」
「僕にとっては今日の出来事が宝物なんですよ」