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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第3章 血と陰謀
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第32話 大型トラックが突っ込んだような跡

 時刻は丁度エトセラムとアルチョムのが黄の元へ訪ねた頃。

 ガラージは街をぶらつく中で噂を聞きつけ、ある場所へと向かい、そこには人だかりができていた。


「なんだあれ……」


 少し言葉を失う。

 彼は人混みが嫌いでは無いが、あそこまで密集している中へ入る気にはならなかった。


 だが、人の壁を挟んでなお、その様子は遠目に見えた。


「なんだあれは……」


 同じような独り言を2度こぼした。

 驚いた時ついやってしまう彼の癖だ。

 それで結局その目の前にあったものとは倒壊しかけた建物だった。

 執拗に巨大な質量がぶつけられた跡を残すそれは木造でそう古くない。なら、ちょっとした衝撃でここまで崩れるはずもなく、二階建てのそれが前半分だけ丸々何かえぐり取られたが如く……やはり異様だった。


「ここってウィルソニア商会の倉庫だよなぁ……」

「なんだってこんな……」


 周りでそんな声が聞こえた。

 何か黒めの噂を共有する者も居たが、その手の話はよく分からなかったので聞き流す。


(トラックでもぶつかったのか?)


 もちろんこの世界にそんなハイテクな物はない。物の例えだ。


 そんなことを思いつつしばらく眺め、見ている以上の情報は得られないと悟り、その時ある声が耳に入った。


「はぇー……これは凄い有様ですねぇ」


 やや素っ頓狂な響きの女の声だ。

 ガラージはそちらへ振り向いた。


◆◆◆◆


 自分でもその理由は分からなかったが、なぜか見るべきだと思った。


 それで、視線を送った先にいたのは特に変哲のない1人の女。

 栗色の髪を肩の少し下まで伸ばしたロング。

 顔立ちは整ってる方で、線が細く、背はやや低め。

 彼女は俺と同様人混みに入る気はないのか、人の密集から離れ遠巻きに倒壊しかけの建物を眺めていた。

 というか、俺の真後ろに居た。


だから急に振り向いた俺に気付いたのか、自然目が合って、そんな折の事だった。


 ロープや工具を肩に担いだ解体業者らしき数人の男たちが女の後ろから人を避けて進みくる。

 筋骨隆々で背の高い男達。

 恐らくあの建物を解体するためやって来たのだろう。

 解体業者なんて地味な仕事をプレイヤーがやりたがる訳が無いのでほぼ確実にNPCだ。


 で、男達は俺と目が合った彼女の存在に気づかなかった。

 彼女と屈強な男達とで身長に差があったからだ。

 結果どうなるか。


「わっ!」


 女が男の1人に突き飛ばされ、前のめりに倒れた体を俺が咄嗟に手を伸ばし支えた。

 ほっそりとした肩を支える。

 線の細さに見合った軽さだった。


「おっと、すまんね」


 男達はそれだけ言い残して一瞥だけすると人混み掻き分け現場へ向かう。

 そして、支えた俺と支えられた彼女だけがその場に残された。

 ……なんだ。なんというか、こういう状況でどう話しかければいいか困る。

 ひとまず心配すべきか?


「えー……大丈夫ですか?」


「あー、はい、大丈夫です。すみませんね。」


 彼女はそう言って寄りかかった姿勢から離れ、ニコリと擬音がつきそうなほど綺麗な笑顔を浮かべた。


 これが彼女とのファーストコンタクトだった。


◆◆◆◆


 それから諸々の経緯があって俺と彼女は一緒に食事を取ることになった。

 その経緯は自分でもよく分からなかったが、彼女のペースに乗せられた為だと思う。

 店は彼女の選出だ。なんでも、以前に1回ナルコスラに来たことがあり、そういう食事が取れる店は一通り回ったらしい。


「一通り?」


「一通りですよー。多分、街の人より飲食店について詳しいかも?」


 それは随分と……お暇な事で。


 で、選ばれた店の名は「ゴールデンベア」。

 「金色の熊」という店名なのに金色の塗料が無かったせいか、黄色に塗られた熊の看板が目印だ。

 中は大衆食堂の風情で老若男女を問わず多様な客層が来ていた。いかにも荒事を専門とする傷跡の目立つ男もいれば親子連れもいる。

 俺と彼女は店の入り口に近い右手側の席に座った。2人で小さめのテーブルを挟んで座るタイプの席だ。


「この店は行きつけ……なのか?」


「いや、2回しか来た事ないですね。今回が3回目です。」


 そう言ってニッコリ笑う。


 彼女がゆるさと馬鹿丁寧さを混ぜた口調をする一方で、俺はフランクに話す様お願いされた。

 それは断る理由が無かったので了承。


(てか、この女。この街で1人で歩いて大丈夫なのか?)


 ふと、疑問にかられる。

 あまり、荒事を得意としている様には見えない。

 着ている物もただのワンピース風の服で街娘っぽい感じ。キリエとかエトセラムみたく服に何か仕込んでるようにも見えない。


「……素手で戦うとか?」


「ん?」


 そりゃないかと思いつつ呟いた一言に彼女が反応する。


「いや、なんかこの街って結構治安悪いだろ?だから武器も持たずに1人ってのは無用心じゃないかと思ってさ」


 料理が来るまでの暇つぶしにそんな話を切り出した。


「あー……その事。実はですね。この街その手のトラブルに普通の人を巻き込まないのが鉄則になってるんですよ」


「っていうと?」


「んー……なんてえばいいのかな……そう。何かくろーい取引とか、刃傷沙汰が出る時は常に見張りを立てるってゆーのが、この街のルールみたいです。なので、危ないところに踏み込もーとすると警告されるんですよね」


「ああ、なるほど。だから自分から無理やり踏み込まない限り巻き込まれることは無いと」


「ですです」


 彼女は独特の肯定をする。


「だから、お仕事の前にこうやってお暇を潰せるとゆーわけですよ」


 彼女がそう言った時、丁度注文した料理が届けられた。

 恰幅の良い中年の女がトレーに乗せた料理を置いて行く。


 俺は牛肉を煮込んだスープとパンに申し訳程度の食物繊維としてサラダを。

 彼女はチェリーパイを一切れ頼んでいた。


 そして、2人で会話の手を止め食事に移る。


 最初に楕円形のパンを手にとって齧った。


(うん……中々)


 これが果たして時代考証や世界設定的に適切な料理なのかは知らないが、食事やそれに伴う味覚の再現というのは昨今のゲームでは結構重要らしい。

 だから、うまけりゃ良いのだ。


 チラと目の前の彼女も見るが、こちらが羨ましくなるほど美味そうに小さくナイフで切り分けたパイを口に運んでいた。


(俺も頼もうかな?)


 金銭的には問題ない。

 だが、食べ過ぎて動作が鈍るのは避けたいのでやめた。


 そして、半ばまで食べた辺りで、ふと、会話を忘れていたことに気が付いた。

 幸い、目の前の彼女はそれを気にする達でも無さそうだが、気になり始めたらやはりどうにかしたいと思ってしまう。


 だから、話題を探し、さっきの彼女の発言の内容に行き着いた。


(そういや仕事がどうとか言ってたな)


 仕事。

 プレイヤーが従事する仕事はほぼ荒事関係だとエトセラムから受けた講義の中で聞いた。

 他のゲームなら気軽に職工とか、商売とかやる手もあるのだろうが、この『G.O.R.E』というゲームに限れば、その手のものもリアル仕様で、よほどセンスのある奴や、向いてるやつ以外は馬鹿でもできる斬り合い、殴り合いを選ぶ。


 だから、彼女の言う仕事というのがどんなものか少し気になった。

 あの倒壊しかけた建物の話題と迷ったが、少し前に出たばかりのこの話題が良いと思った。


「なぁ」


「ん?」


 食事の手を止め尋ねる。


「さっき、仕事がどうとか言ってたから、気になってさ。どんな事やってる?」


「あー……」


 彼女は少し言い淀んだ。


「いや、言いにくいんなら良いや」


 そこまでして聞きてー訳じゃないし。


「いや、そういう訳じゃないです。友人のお手伝いに来ました」


「お手伝い?」


「はい、実はその友人がやってる商会が困ってるらしくてですね。だから、それを助けるための……そう、お手伝いです」


「へぇー……」


 ちょっと、釈然としない答えだった。


「じゃあ、あれ?実はそういう仕事を任されるくらいの、結構重役とかだったりするの?」


 町中の飲食店を食い倒れ出来るくらいの金は持ってるみたいだし。


「そうです!実は私結構お偉いさんなんですよ」


「へぇ」


「……なんか、反応薄いですね」


「いや、このゲームで人は見かけによらない事を散々分からされたからさ。なんか……慣れた」


 エトセラムとかキリエを初め、あの辺とズブズブに関わってると余計にそう感じる。

 つーか、見た目を自由にいじれるゲームだから当たり前と言えば当たり前だ。


「そうですか……残念です」


「いや、なんかごめん」


 この下りの会話を終えた後、話しながらチビチビと食べ続け、完食し、店を出た後で彼女とは別れた。


 そして、彼女の名前を聞き忘れたことに気付いたのはその少し後の事だった。


◆◆◆◆


「名前……聞き忘れたな」


 そう呟きつつ天井を見上げる。

 場所はエトセラムにあてがわれた拠点の俺の部屋だ。

 俺はあの、ちょっと不思議ちゃんっぽい気質のある彼女と別れた後も、色々商店を覗いたが、あまり必要以上に散財する気も起きなかったので、適当に冷やかしただけだ。


 ガラの悪い店主はたまに舌打ちしていたが気にしない。


 で、日が傾き始めた辺りで拠点へ戻った。

 既に馬車から荷物は運び終え、最低限の家具だけでなく華美で無いながらも、絨毯が1階のラウンジに敷かれていたり、適度に調度品が置かれていた。

 そんな1階を登り、2階の隅にあるのが俺の部屋。


 物を多く持つ方でもないので内装はひたすらにシンプルだ。


「まぁ、次会った時に聞きゃ良いか」


 彼女のことを思い出し、そうつぶやく。

 また会う機会があるのかは怪しいが。

 そんな事をうだうだ考えていると部屋の扉がノックされる。

 だが、あまり受け答えしたい気分でもないので無視。居留守を決め込む。

 緊急の用ならそう言うだろう。


 そうして、しばらく天井を眺めているとカチャっと鍵の開く音。


「あぁ?」


 驚き飛び起きた。

 扉の鍵が解錠されたからだ。

 そして中へ踏み込んできたのは


「お、いるじゃん」


 例のごとくアルチョムだ。


「鍵……掛けたんだけど?」


「ん?ああ、このぐらいピッキングで簡単に開くぜ。お前もできる」


「いや、そう言う問題じゃ……何?」


 色々諦めた。


「いや、お前に簡単に金稼げる方法を教えてやろうと思ってな」


「……は?」


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