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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第2章 神秘なる存在
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第26話 狂人

「じゃ、真面目な話に戻ろっか。」


「......ああ。」


すぐにエトセラムは飄々とした風に戻った。

いつも通りに。


(こいつを舐めていたかも知れない。)


冷や汗、口の渇き。

得体知れぬものを前にした典型的症状。

混乱冷めやらぬって感じ。


「かつてG.O.R.Eと契約した私だが、実はかの存在の重要なパーツがいくつか奪われてしまってね。

今手元にあるのは君に見せた1/12の肉片と心臓のみ。

脳と脊髄は持っていかれてしまった。」


話を聞く傍自分の思考に耽る。


現実味が無い。いや、街を1つ消し去ったことはまだ良い。まだ、良い。

だがそれを笑いつつ語ったこいつはなんだ?


何を考えている?

混乱の原因はむしろそちらだ。


「大丈夫?」


心配するように様子を伺うエトセラム。

だが、こいつがそのように見せる感情はどこまで信用して良い?


「......大丈夫だ。それで持っていかれたってのは、誰に?」


一息つき欠片ばかり冷静を取り戻す。

無理にでも状況を受け入れれば戸惑いは見せずに済む。


「聖光教会とその協力組織にだね。

だから今後、彼らから取り戻し、G.O.R.Eの願望機としての機能を復元する。

そのために......」


「いや、やっぱりちょっと待て。」


次々話を進めるエトセラムを止めた。


(もう良い。誤魔化すのはやめだ。)


一々全部聞く事にする。

それに、よく考えたら一番大事なことが聞けてない。


「お前はG.O.R.Eの力を使って今度は何がしたい?」


これだ。


「ああ、言ってなかったっけ。」


わざとらしく忘れてたと言わんばかりに。

こいつの事だからわざとだろ、わざと。


「そうだね。まずそれを話そうか。」


「また街を消し去るのか?」


そもそもそれだって何のためにやった?

まるで見当が付かない。

だって無益で無意味だ。

見せしめにやるなら良いやり方はいくらでもある。

俺でも思い付くぐらいだ。


「いや、今度は前と同じことはしないよ。

つまらないからね。」


「つまらない?」


なんか嫌な予感。


「街どころじゃなく、この世界そのものを消すつもりさ。

ドンビアを消し去ったのは予行練習だし。」


口から変な息が漏れた。

天を仰いで目を瞑る。

呆れたとか、そういうのじゃなくて......

こう、何だ?なんて言うの?......そうだ。


意味が分からない。


「お前......運営に何か恨みでもあるわけ?」


そもそもこんな仕様を残す運営も運営だ。

何だ?

『世界を滅ぼすスイッチが目の前にあったら押すか?』みたいな思考実験でもしてるのか?


わざわざ金かけてゲーム作ってまで?


もう......なんだ。

全員バカだ。頭がおかしい。


「......理由ってそんなに重要かな?」


「いや、重要だろ。」


呆れ気味に返した。

こんな馬鹿をしでかすなら馬鹿なりの理由があってしかるべきだ。


「ふふっ。」


「何笑ってんだ?」


もはや苛立ちは隠さない。


「いや、君もう少し自分に正直になった方が良いよ?」


今度は何?


「だって君、さっきからずっと笑ってる。」


そう言って突如白い手を伸ばし、指で俺の唇をなぞった。

それは口角でピタリと止まる。

そしてただ嬉しそうに、表情と息を上気させ彼女は満面の笑みを浮かべた。

コケティッシュな(艶かしい)仕草で。


そして指を滑らせグイッと俺の顎を掴んで引く。その力は見た目に反し強かった。


「君、やっぱり私に似てる。

で、私がこんなことしでかす理由だけど......滅ぼしたいから。

これ以外無いよ。」


耳元に口を近付け彼女は囁いた。


◆◆◆◆


疲れた。

これは精神が受け入れ切るキャパを超えた故。


だから豪邸内の私室のベッドで横になる。


現実のベッドで寝るより寝心地の良いこっちで寝た方が疲れが取れる気がした。

プラシーボ効果ってやつだ。


そして、さっきまで見せ、聞かされた事象の数々を思い出す。

中でもエトセラムがこの世界を滅ぼしたい理由が釈然としなかった。


『滅ぼしたいから。』


と言っていたが......


「なーんか、なぁ。」


「何がだ?」


「うおっ!」


突如、横から聞こえた声にビビる。

同時にダガーを抜き相手を見て、その手を止めた。


「お前か......」


目の前に居たのは傷跡だらけの顔を持つ(スカーフェイスの)男。

アルチョム。


「鍵、開いてたぞ。」


「ノックしろよ。」


「いや、どうせならちょっと脅かそうと思ってな。」


そんな茶目っ気は発揮しなくて良い。

いい歳こいて。......いい歳だよな?


「で、何を悩んでるんだ?」


「......」


これは......俺より遥かに付き合いの長いアルチョムの方が知ってるか。

エトセラムという女について。

そう思い事情を話す。


「......ほう。」


相槌を打ちアルチョムは室内の俺用にあてがわれた椅子を運び、ベッド横に座った。


俺も身を起こしベッドに腰掛ける。


「......で、結局あいつが世界を滅ぼしたい理由がしっくり来なくてな。」


「なるほど......まあ、嘘はついてねえな。

だが.....」


「ぼかしてる。違うか?」


ズバリ俺の印象を述べた。


「確かにそうだが重要なのはそこじゃねぇ。」


そう言ってアルチョムは少し前かがみに姿勢を直す。


「お前は、どう思った?

G.O.R.Eという、凄まじい力を前にして、その使い道を聞いて何を考えた?

重要なのはそこだ。」


「どうって......」


そういえば俺自身がどう捉えたかは意識が向いていなかった。

俺自身が何を感じ、何を思い、何を考えたか。

目の前の出来事が常識外れだった為に。


だから、今、こうして自室で冷静になって、アルチョムに促され初めて意識が向いた。


(俺はどう思った?)


それは


(すごいと思った。)


安直で、漠然とした感情。

何か凄いことが起きそうで、それがこの先どうなるのか見てみたいという漠然とした好奇心。

要は興味を持った。


(たぶん......)


チマチマ人を殺すより一気呵成に滅ぼす方が面白そうに聞こえた。


(で、あいつはそれを世界を滅ぼすのに使うと言った。)


そんな普通ならできそうも無い事を、やると言ってのけ、その手段に手を伸ばしている。

その手の先に実現可能なプランが実体を持って居座る。


少なくともあいつの話を信じる限りだが。


(で、俺は......いや、)


あいつは俺にこう言った。


『自分に正直になった方が良い』

『君は私に似ている。』


と、


(あいつは俺に何を見出した?)


似ている?

俺とあいつが?


ならば、あいつが狂人としたら俺も狂人という事になる。


(たかだかゲーム内で人を殺して回ったぐらいで?)


だが俺は、あいつが世界を滅ぼす様を見てみたいと思った。

それに関わりたいと、立ち会いたいと熱烈な願望を抱いた。


今ならそう自覚できる。


稚拙な破壊願望だ。

だが、子供じみた夢ほど純粋な物は無い。


社会で擦れた大人が希望を抱き、子供の頃の夢を本気で叶えようと思ったらこんな気分じゃなかろうか?


だから、あいつのどこか無邪気な様が理解できた気がする。

奴はどこまでもどこまでも純粋なのだ。


「答えは出たか?」


アルチョムの声で気付いた。

長く考えすぎていた事に。


「なんとなくな。

今まで隙あらばエトセラムやお前を斬り殺そうと思っていたが、それより面白そうだから協力して良いと思えるぐらいには。」


「ずいぶんはっきり言うんだな。」


苦笑してアルチョムは言った。


「どうせ気付いてたんだろ?」


俺がそう言うと奴は肩をすくめる。


「まあな。

で、お前がその気持ちを変えない限り、エトセラムについて行ったら良い。」


「そうさせてもらう。」


そう言って気持ちの整理がついた俺は思考操作で操作窓コンソールウィンドウを呼び出した。


ゲームからログアウトするためだ。


だがここで唐突にアルチョムが言葉を挟む。


「そういえば。」


俺は操作する手を止めた。


「何?」


「お前、年いくつ?」


急で脈絡が無さ過ぎる質問。

だが疲れていたこともあり、よく考えず答えた。


20歳(はたち)だけど。」


それはゲーム内のガラージ、つまり俺が操作するキャラクターの年齢だ。

身体能力への補正にも関わるのでその話かと思ったが......


「いや、リアルの話。」


違うらしい。


「はぁ?いや......秘密に決まってんだろ。」


これは流石に伏せた。

18禁のゲームで、俺の実年齢が16歳であると踏まえたらアルチョムの中身が年上の可能性は高い。

そのせいで舐められる......ってことはなさそうだが、教える義理は無い。


「あ、そう。なら良いや。」


(?)


あっさり退いたアルチョムを訝しみつつ、俺はゲームからログアウトした(落ちた)


◆◆◆◆


時刻はガラージがログアウトしてからゲーム内時間で3時間後の事。


「珍しいね。君から私を呼び出すなんて。」


エトセラムは自分を呼び出した相手にそう話しかけた。


ここはだだっ広い食堂。

長テーブルとそれを取り囲む椅子があり、以前エトセラムがガラージとクサカベを呼び出し魔物狩りを指示したあの場所だ。


しかし打って変わり、今度はエトセラムが呼び出された側。


そして呼び出した相手とは......


「そっちこそ珍しいじゃねえか。時間通り来るなんて。」


アルチョムだ。

入り口から見て左側の席にドカッと腰掛け背もたれに身を預ける。


「たまたまだよ。今日はそういう気分だったのさ。」


飄々としにこやかな笑みで答えた彼女は、

アルチョムの向かいの席に座った。


入り口から見て右手側に位置する席だ。


「じゃあ率直に聞くけど、要件は何だい?」


彼女はその質問を投げる。

2人は長い付き合いなので、前置きを省いて話す癖が付いていた。

対してアルチョムは表情が分かりにくいが少し難しい顔。

言って良いのか迷うように。

だが、存外早く意を決すると口を開く。


「いや相談なんだが折を見てガラージをうちの組織から外さね?」


「つまり?」


一拍置いてエトセラムが聞き返す。


「リストラするってこと。」


その言葉を聞いてエトセラムの顔から笑みが消え、そして......


「わけを聞こうか。」


静かなる圧を宿した一言。


その後、2人の間で話し合いが行われた。

結果、両者妥協点を定め、納得した上でガラージは続投に決まる。


その具体的内容、アルチョムの真意は今語るべきでは無い。


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