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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第2章 神秘なる存在
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第24話 悪魔召喚

目の前で邪悪な儀式が行われている。


時刻はおそらく深夜。

日中は晴天だったので今なお雨雲は気配すらなく、月が煌々と反射した光を投げかけていた。

しかし、そんなものは地下深くまで届かない。


ここは石造りの間だ。


しかし、床や壁面、天井に至るまで石の継ぎ目は無く、スベスベとしたコンクリートに見える作り。

ここは明らかに中世ヨーロッパの建築では無かった。

そんな部屋の中、1人の女がいる。


肩まで伸ばしたプラチナブロンドが風もないのに揺れ、血の如く赤き塗料で描かれた模様を前に、何かをブツブツ唱えていた。


それを緊張の面持ちで見つめるのは1人の男。


◆◆◆◆


「黒魔術を......?」


ククリナイフを鞘に収めた後、しばらく続いた会話でその単語を聞いた。


『黒魔術』


意味自体は知っている。


そもそも魔術には主要六系統と呼ばれる6つの系統があり、


『呪詛』

『死霊』

『精霊』

『結界』

『生命』

『付呪』


これらがそうだ。

魔術の中でも特に有用な術は種類や使用目的等からこの系統が分かれている。

人は誕生月と人種のシナジーから得意系統がそれぞれ違うらしいが、別に俺は魔術師になるつもりも無いので、そのへんの詳しい話は知らない。


で、これらを踏まえ『黒魔術』とは何か?


それはデーモンを召喚し、交渉や隷属化、果てはあらゆる有効活用の手練手管をまとめた系統。


術自体は主要六系統の応用で、『魔術師の時代』においてはそれらを一通り習得した者だけが会得できる高等魔術だったとか。


デーモンの隷属化とか明らかにやばそうな代物をデーモンが容認していたのか疑問だが、そもそもデーモンって括り自体霊長類の様に大雑把なものらしく、隷属化の術自体下位の存在しか効かないため問題は無い。


そして『黒魔術』でデーモンに力を貸してもらう際、魔術師は『契約』と呼ばれるプロセスを踏む。


その名の通りデーモンと交渉し、いかなる条件で何を差し出しどんな恩恵を受けるか詳細に決めた上で魔術的な縛りを設けるのだ。


『これあげるからこれやって。もしやらなかったらこういう罰則があるよ。』


ってな感じで。


「これから黒魔術で上位デーモンの召喚するけど、見る?」


こんなちょっとお出かけに誘うノリでにエトセラムは俺を誘った。

これは購入した装備を一通り検めた直後の出来事だ。


そんなわけでエトセラムに連れられやって来たのは隠し部屋。

その場所だが、まずあの広大な書斎へと向かい、その隅へ行くと本棚のとある本を彼女は奥へ押し込んだ。


すると映画で見た事ある様な展開で数秒後本棚がスライドし、その下に地下へ続く石造りの階段が現れた。


(......)


本当、何というか......ベタだ。

そんな仕掛けに一々説明があるはずもなく、エトセラムは降りて行き、俺も続く。


壁に一定間隔で取り付けられた燭台は既に火が灯されていた。


そして下った先にあったのはコンクリートの様な床、壁、天井を持つ広間。


◆◆◆◆


彼女がまず行ったのは床に巨大な模様を描く事。


魔術円と呼ばれるそれは2つの同心円と、その中に緻密に書かれた言語で成り立つ。

複雑な魔術を手動で行使する際使われることが多く、今回彼女がやろうとしている上位デーモンの召喚に不可欠なのだろう。


で、それを今から彼女が描こうとしている。


(......もしかして待つことになる?)


それは......面倒くせぇ。

何度か本に描かれたたそれを見たことあるが、それは遠目に見れば中に何を書かれてるか分からない程細かく、ビッシリと謎の言語で敷き詰められていた。


これを普通はチョークや塗料で書くらしいが、これが面倒で魔術師になるのを挫折したプレイヤーもいるとか。


(まあ、ゆっくり待つか。)


そうやって腹を決めるが、その必要は無かった。


エトセラムは懐から金属で作られた試験管の様な筒を取り出す。


(?)


一体何をするのか。

すると彼女はその口を閉じていたコルク栓を引き抜き、中身を床にぶち撒け......


だが、予想に反してそれは粘度を保ち彼女の足元に落ちた。そんな赤黒い液体。


(何だあれ。)


「さて......『yrmlo(展開)』」


意味不明な言語を唱える。

するとどうしたことか。

その赤黒い液体が薄く床に広がった。

そして這う様に徐々に円の形を取り始める。


円と円の隙間、そして内側の円の内部へ流れ込んだ液体の一部はそれを埋める様に文字へ変貌。


ほんの数秒がかりの出来事。

だが、ビジュアル的にはあまりに異様で......しかし、魔術円となったその塗料。


俺は暇を持て余さなくて済む事を悟った。


◆◆◆◆


「今回呼び出すのは既に契約を交わしたデーモン。だから供物や生贄は必要ない。

けど魔術円の補助が無いと安全に呼び出すのは難しいし、ここ怠ると向こうも怒るからね。

どちらにせよ黒魔術を行使するなら安全には気を使うべきだ。さもないと......」


エトセラムの解説を聞きながら床の魔術円に触れてみた。

乾きかけの油性絵の具みたいな感触だ。

そして僅かに指ですくい取った塗料も、まるで磁石で引かれる様に指から離れ元の位置に戻る。


「興味津々だね。」


「いや、てっきり塗料でちまちま描くもんだと思ったからさ。」


「あー......いや、面倒じゃん?」


ちげえねぇ。

つーか、このやり方が浸透したら魔術円描くのに挫折する輩も減るんじゃないか?


もしくはこれが一般的ではないか......


「じゃあ、始めよう。でもその前にちょっと確認。注意する事は覚えてるね?」


「デーモンを『悪魔』って呼んじゃいけないんだろ?」


「その通り。」


『悪魔』という名は聖光教会が広めた蔑称。

だからそう呼んだらデーモンにブチギレられた末、殺されても文句は言えない。


だから、知識に聡い者は普段から『デーモン』と呼び方を徹底している。

不意に口をついて『悪魔』と呼んでしまわぬ様に。


そして、儀式は始まった。魔術円を前にしたエトセラムは詠唱を始める。


「『yrm upto loyslo msdijs hrdrm msti yo mp dplp. upy^r......』」


地球上のどの言語とも違う響きと文脈を持つそれはかつてデーモンが人に授けたと言われる神秘言語。


繰り出された意味そのものが世界を揺るがし、その深遠なる理解を極めた者はただ一言呟くだけで野を焼き払い、数百人を呪い殺し、海をも凍らせたと言う。


だが、それは遠い昔の話。


これを理解する者が増えた魔術師の時代において既に神秘は地に堕ち、その力の大半を失った。


そこで考え出されたのが術式だ。

より複雑な文法を付与することで力を増幅させる。

今、エトセラムが唱える文言もそうして作られた術式。


「『s^ ohupi mp lsmoup......』」


大気中から寄せられエトセラムの体を通した魔力エーテルは魔術円に記された術式を励起させ時空を歪めた。


世界に顕現した異界と現世を跨ぐ門。

ただ、縁取りは曖昧で濃紺の円として視界に映る。


『msoplo ysmsr.』


その一言とともに風が吹き荒れた。


「ぐっ......」


倒れまいと踏ん張る。

真空が大気を吸う様にあちらへと流れ込む。

もし向こうへ落ちたら2度とは戻れない。


そして、虚ろな影がズルリと門から這い出て魔術円の上に着地した。

最初はぼやけて見えたそれが徐々に形を取り戻す。

解像度の粗い画像が高精細に変化していく様にも見えた。


そして現れたのは......


「やぁ、久しぶり。」


それを確認する前にエトセラムの言葉が聞こえた。

だが、続けて聞こえたのは不可解な音。


「ji......a,た し」


声ですら無い。

ホワイトノイズに音階を当てはめた様な、とても生物の出す物と思えない、音。


その発生源は不可解なシンボル、もしくは奇妙なオブジェにしか見えなかった。


姿は男の彫像。

だが、首が付け根から無く、肩から上に何も無い。

その白い肌は一見石膏を思わせる無機質さでありながら妙に生々しい。

矛盾を孕んでいる。

強いて言うなら骨......だろうか?

全身が骨の様な物質で出来ていた。


一際目立つのは肩甲骨から生えた長大な両翼。

魔術円で囲われた範囲を優に飛び出し、広間の壁に届くほどだ。


そして、床から1mほど浮き上がり半ば見下ろす様で部屋の中を睥睨する。

眼球など無いのに。

デーモンでありながらどこか天使の様な荘厳さを纏わす造形だった。


「ああ。聞こえないか。」


不意にエトセラムが俺を見て呟いた。


「何を?」


「いや、私は今《《彼》》と話してるんだけど......そっか魔術師以外には聞こえないんだっけ。忘れてた。」


《《彼》》というのはあの彫像を指しているのか?


そう思った瞬間だ。

強烈に何かの視線を感じ取る。


(見られている?)


慌てて周囲を見回した。

エトセラム以外こちらに目を向ける者はいない。

だが、彼女の視線では無い。


「どうやら《《彼》》は君に興味があるようだ。

自己紹介をしてくれ。」


俺は彫像の方を見た。


(まさかこの視線はアレから?)


多分そうだ。

なにやら俺に興味を持ってるらしいし。

で、エトセラムに従って自己紹介をするかどうかだが......


「ガラージ......だ。よろしく。」


噛まずに言えた俺を褒めたい。


で、それに返す形で彫像から謎の音が聞こえた。


「し...jig gi」


「ふんふん。『よろしく』って。」


通訳するエトセラム。

なぜそんなに泰然としていられる?

慣れてるのか?


「一応、私の方から《《彼》》を紹介しておこう。」


ここで言われた彼とは彫像こと。


「彼はかなりの上位のデーモン。

正式な名前は契約に基づいて伏せるけど、過去に関係を持ってきた魔術師達からは『扉を支配する者(ゲートドミネーター)』と異名が付けられている。」


デーモンは真の名前の他に異名と呼ばれるあだ名を持つ。

それはエトセラムが言った通り過去に関わった魔術師から付けられ、持ち合わせる力に由来しているのだとか。


「そして、今回は彼に力を貸して欲しくて召喚させてもらった。そんなわけでよろしく。」


気軽なノリでエトセラムは扉を支配する者(ゲートドミネーター)に頼むと、それに呼応して彫像の様にまるで動かなかったそれが突如生命を得たかの様に脈動を始めた。


それはちょうど胸の位置から身じろぎを始めたかと思うとピクピクとその巨大な翼を動かし、まるで自身の身体を包む様にそれを閉じた。


その状態で数秒の時が経過すると今度はバサっと勢い良く翼を開く。

彫像であったはずのそれからはなぜかフワリとした白い羽が舞い降りた。


そして現れたのは木の扉。

再び動きを止めたかの存在の前に出現した。

何一つ変哲は無いが、妙に古びて隅の方なんか腐りかけている。


さらに目を凝らすと、ダークブラウンの材質にビッシリと文字が刻まれていたことに気付く。


エトセラムの魔術円に書かれていた様な文字。


そして、エトセラムはそれら全ての不可解な現象など見慣れたと言わんばかりに扉の取っ手に手を掛けた。


「彼はその異名の通り全ての扉を支配する。

つまり、彼自身の前にいかなる場所のいかなる扉も出現させ、本来のその扉の先にワープできる。

今となっては条件が厳しいけどね。」


俺は呆然としつつその話を聞いた。


「じゃ、行こうか。」


そう言って彼女は扉を開けた。


その奥からは潮の匂いがする。


(海?)


たかだかゲームでここまで意味不明な現象に出くわしたのは予想外だった。


だが、その扉の先でさらに信じられない事をエトセラムから聞くことになる。


それは俺の心に......何というか火を灯した。

それこそアルチョムとエトセラムへの殺意を抑えてもいいと思える程に。




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