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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第2章 神秘なる存在
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第23話 後始末

魔物狩り、それ自体は心踊るような刺激があった。


だが、面倒なのは仕留めた獲物を持ち帰らなきゃいけない事だ。


もちろん、リアル志向のこの世界でアイテムを遠距離へ転送するとか、無限に収納できて持ち歩き可能なバックとか、そんなファンシーな物はない。


巨大なワーグの死骸は解体した上で持ち帰るのだ。


◆◆◆◆


クサカベがやったのはまず狼煙を上げる事だ。

近くから葉のついた枝を集め、手早く火打石で火を付けると、途端に白い煙が大量に空へと昇る。


煙たい。


「なぜこんな真似を?」


「手が足らないから。」


シンプルな回答。

よほど深く潜るのでもなけりゃ魔物の死骸は貴重なので全て持ち帰るとの事。


だから、こうして解体の手伝いと帰りの荷運びに人を呼ぶ。

だが、今回呼ぶのは人ではなく

『悪魔憑き』。

彼らのうち何体かは森での活動や動物の解体方法、狩りの仕方を仕込んであり、狩人としてそこそこ優秀らしい。

その上鼻が効くよう弄ってあるため少し匂いのきつい草を燻せば迷うことも無い。


次に魔物が血の匂いに釣られ寄ってこないよう簡単な魔除けの結界を張る。

これはクサカベが担当した。


魔狩人は防腐の術や魔除けなど簡単な術は手解きを受けている。


それらを終えた段階で死体を捌き始めた。

手伝いで呼んだ『悪魔憑き』が到着する前に。

魔術で鮮度は保てるが、とっとと作業を終えて帰るに越したことはない。

その点は俺も賛成。


で、解体はクサカベの指導を受けながら俺もやった。


まず、数人がかりで血抜きをした後、革を引き剥がした。

これがなかなか骨が折れる。


革がめちゃくちゃ硬いのだ。

そもそも俺の全体重を乗せた突きでもなければ貫けなかった点からうかがえる。

だから、下手に切れ味の良い刃物を使うのではなく、叩っ切って切れ込みを入れた。


ここで役だったのがクサカベから手渡されたククリナイフだ。

全長40cm。

刃側に湾曲し、先端の剣幅を膨らませ重くした短剣。

これは叩き斬るのに特化している。


「おおっ!」


腹の辺りの硬かった革がガツガツと切れた。

ガツガツなんて切るときに使う擬音でもないが、この音でしかこの作業は表現できない。


(これは......武器としても使いやすそうだな。)


今、俺が愛用するダガーは切れ味は良いが、どちらかといえば刺突に向く。

鎧の隙間を突き通すのが主な使い方だ。


しかし、このククリナイフなら鎧を斬り裂ける。

うまく行けば防御に回った敵の武器すらへし折れるかもしれない。


そんなわけで俺はこれの武装への採用を検討した。

クサカベからも刃物は何本か持ってた方が良いって聞いたし。


で、クサカベの方も俺と一緒に革を剥いでいたが、あいつは大振りのナイフで易々と革を切り裂く。

俺が苦労して叩き切っている間にザクザク。

『筋力』が高いのだろう。

少なくとも俺よりは。


で、革に切れ込みを入れたら次は革と肉の間にナイフを通して引き剥がす。

その次に骨を切り取り(ノコギリが必要だ)、この辺りでようやく応援が到着した。


ちなみに俺たちと連れ立っていた『悪魔憑き』2体は周囲の警戒に専念している。


そして、応援が到着してからは作業がよりスムーズに進んだ。


しかし、これらが疲れる作業だったのは言うまでもない。

所詮ゲームなので肉体の疲労は感じないが、変な箇所を切り裂かないよう集中は不可欠で気疲れした。


全容はそんなとこ。


◆◆◆◆


「正直ワーグ狩るより解体してる方が疲れたな。」


「ハハッ、そうかそうか。そりゃあ大変だったね。」


俺の話を聞いて楽しそうにするエトセラム。

何がそんなに......とは思うが、どの道奴の思考は読めないので腹の内は探らない。


俺は座っているソファの背もたれに倒れ込んだ。

きしむ事なく支えられて、その姿勢でエトセラムを見据える。


「で、別に今回呼び出したのは狩りのあらまし聞くためだけってわけじゃないんだろ?」


「そうだ。つい昨日、君の装備一式が届いてね。」


パンパンッと、エトセラムは2回手を叩く。


それに呼応する形でガチャっと開いた扉の先に例の如く召使いの『悪魔憑き』が2体。


各々小脇に1箱ずつ木箱を抱えていた。

部屋に入り、それらを順にテーブルへ置くとそそくさ退室する。


相変わらずこき使われていた。


「さて、開けてみてくれ。多分気に入ってもらえると思うよ。」


すでに狩猟を行った日から2週間が経っている。

その間、俺はろくにこのゲームに潜っていなかった。


中間試験があったからだ。


ゲームにのめり込んでると忘れそうになるが、俺とて現実では一介の高校生。

VR形式の通信教育ではあるが、実際に仮想空間上に再現された教室へ授業や試験を受けに行く事も可能。

とはいえ、授業はアーカイブを好きな時間に見て課題さえこなせばいい。

このおかげで時間には融通が効かせられる。

しかし中間や期末を始めとした試験だけは決まった時間に決まった時間内でこなす必要があったため試験勉強と実際試験を受けるのに2週間を費やした。


流石に現実を犠牲にしてまで『G.O.R.E』にのめり込む気はないのでこれは真面目にこなした。


だが、ちょっとした隙間時間を縫ってゲームに潜った際、狩り殺したワーグで鎧を作らないかとエトセラムに提案されたのだ。


で、それを頼んだのが現実時間で1週間前、

ゲーム内で言えばたった3週間前の出来事。


「届くの早くね?」


木箱の蓋に手をかけながら俺は聞いた。

無論、今回はこちらから素材を提供した上でオーダーメイドなので、作り置きを買うのと違う。

さらに、この豪邸の都市へのアクセスは最悪だ。

まあ、グラニール大森林周辺に街を作るような馬鹿はまずいないだろう。

当たり前っちゃ当たり前。


「色々伝手を使ったからね。お陰で早く仕上がったよ。で、これが今回の領収書。」


エトセラムが手元から取り出した紙を受け取る。

そこには今回の装備品諸々を調達するのにかかった費用が記されていた。


あまり恩を作りすぎるのも癪なので、今回は立て替えで払って貰い、後でエトセラムに俺から支払う手順となっている。


そんな金をどこから......と思う奴もいるかも知れないが(過去の自分がそうだ)、俺は給料と称されエトセラムから少なくない額を......いや、言葉を濁すのはよそう。


かなりの額をもらっていた。


それはヴィルマの市長暗殺の一件の分け前から液薬の代金を差し引いた額だ。

それがちょっとビビるぐらいの金額。


そもそも要人暗殺なんて仕事、分け前が少ないはずない。よく考えれば分かったこと。


そんなわけで、今の俺は小金持ち。


この領収書に記された額は支払えるほどの。

これとて決して安くはない。


そして領収書の内容を覚えて箱の脇に置くと、遂に木箱の蓋を開けた。


(おおっ!)


これを見て心踊らない奴はそういない。

意図的に光沢や艶を消した灰色がかった黒い革鎧がパーツごとに分け収められていた。


そのうち一部を取る。

それは籠手だ。


指の根元から先は覆わず指先の感触や動きを鈍らせない作り。

手の甲から肘にかけてまでしっかり覆われ、異様に軽いながらもこれはワーグの革製。

だから薄く頑丈な仕上がり。

耐刃性は申し分なく、一点を狙った刺突でさえ生半可な物は食い止めるだろう。


続けて取り出したのは胸甲。

音を立てないよう、金属パーツは意図的に少なくしている。そして厚さは必要最低限。


この鎧全体に言える事だが、最低限の防御力を確保しつつ動きを阻害しない事がコンセプトとなっている。


さらに余分な厚さがないので上着や衣服で隠しやすく、長めのマントを羽織れば防具を身に着けていないようにすら見える。


「どうだい?」


「ああ、これ以上無いくらい良い......」


次のパーツを手に取り俺はエトセラムからの問いに答えた。

次は鉢金だ。

これは頭に付ける防具で鉢巻の丁度額に当たる箇所に鉄板を取り付けた代物。

『額当て』と言った方が分かりやすいかもしれない。


「頭の防具は本当にそれで良かった?」


「ああ、ヘルメット型を普段からかぶるのは嫌だし、それなら持ち運びやすくしていざって時すぐ着けられるのが良い。」


「なるほどね。いやはや、そんな防具を頼むの本当君ぐらいだ。」


それもそうだ。

そもそも俺みたいな軽量級の戦士は殆どいないと聞く。

だから、鎧は運用に問題ない限り厚く重装にするのが鉄則だ。

俺はその真逆を行っている。


「じゃあそろそろ、そちらの木箱も開けたらどうかな。」


(?)


心なしかエトセラムが待ちわびているように見えた。


そして言われるがままにってのは癪だが、俺は取り出した鎧を片付けるとその隣の箱を開ける。

今回、俺がエトセラムに調達を頼んだのは鎧だけではない。


そこに入っていたのは2振りの武器と......


(ん?)


先に目に付いたのは頼んだ覚えのない物。


直方体型のポーチ。

焦げ茶色のそれはベルトに取り付ける事を想定した質実剛健な作り。

手に取り、ボタンを外して中を見ると、そこには包帯や湾曲した針や糸、それに消毒液と言った応急手当て用の道具。


「そいつは餞別。」


エトセラムが口を開いた。

何か言いたげに俺は口を開きかけたが、素直に感謝するのもちょっと違う気がした。

だから、


「貰っておく。」


このぐらいならタダで貰うのもアリだろうって思考で答えた。作りは良いが鎧や武器ほど高価でもない。

そう思いつつ、金銭感覚の麻痺には気付かなかった。


そして、このポーチ以外は全て俺の注文した品だった。


まずは剣身15cmのナイフ。

鞘に収められていたそれを引き抜くと刃は黒いツヤ消しの塗料で塗られている。

これは夜間や暗所での戦闘でアドバンテージとなるが、日中に使ってると目立つらしい。

ツヤ消しの武器なんて暗殺者とか後ろ暗い連中しか使わないからだ。

よってこれ以外の武装は鈍く光る剣身のままとして使い分ける予定だ。

そしてこのナイフは左肩に装着し、普段はマントで隠しておく。


次に一振りの短剣。

ククリナイフだ。

俺はワーグを解体した際、検討したこれを副武装とする。

剣身が独特の形状を取るためやや幅広となった鞘から引き抜くと


(ん?)


何か気圧される様な圧を宿している。

さらに刃をよく見た。

するとビッシリ細かく小さな文字が刻まれていた。直線で構成されたその言語はルーン文字の様だ。


「なにこれ。」


その不可解さに思わずエトセラムへ尋ねた。

すると、にこやかな顔でエトセラムはこう話す。


「驚いた?実はそれ、『魔剣』にしちゃった。」


「『魔剣』って......あの?」


『魔剣』とは、魔術師によって作られた『魔道具』のうち、特に剣の形の品を指す。


『魔道具』は何か物理的な品に魔術を込め、魔術師以外にも超常的な現象を引き起こせる代物。


中でも『魔剣』は剣の形を取る以上何か斬り合いに向いた魔術が仕込まれてる事が多い。

例えば持ち手の身体能力を上げるとか、斬りつけた相手へ呪いを流し込むとか。


古い物であれば剣身に炎を纏うとか欠けても元どおりになり切れ味を保つとか、そうした分かりやすい品もあったらしいが、大気中のエーテルが薄くなった現代では起動そのものが難しく、実用的でないとの事。


これは以前エトセラムの講義で聞いた話だ。


「俺は普通の剣で良いって言ったんだけど......」


『魔剣』に限らず『魔道具』全般に言える事だが魔力エーテルを動力源とする品はどこか嫌な圧を纏う。

備わった効果が強大であるほどそれは顕著。


だから、まず例外なく斬りつける前に気取られる。


「その辺は抜かりないよ。ここら一帯は大気中のエーテルが濃いから僅かに圧を纏ってしまうが、街中ならまず気づかれることはない。なぜなら、そいつは大気中のエーテルを動力源としない。」


「って言うと?」


「斬りつけた相手の体内からエーテルを吸って呪いを及ぼすんだ。」


「......ああ。」


つまり、普段はただのククリナイフ。

そんで誰かを斬りつけた時だけ起動し

『魔剣』と化すわけだ。


「だから、体内に高濃度のエーテルを宿す連中。魔改造を施した輩とか、魔術師とか実体化したデーモンとか魔物とか......

それ以外の相手に効果は薄いけど、そもそも備わった呪い自体、そうした相手に特化している。」


微笑を浮かべてエトセラムは語る。

この語りぶりと話の流れから見て、このククリナイフを『魔剣』に仕立てたのはエトセラム自身だろう。


「で、お前は一体どんな効果を乗せたって言うんだ?」


エトセラムがニヤリと笑う。


「斬りつけた傷に対する一切の魔術的干渉、魔力エーテルを伴う干渉を跳ね除ける。」


要は斬りつけた箇所が魔力エーテルに対する絶縁体へ変貌するのだと言う。


「悪魔や魔物が先天的に備えた特性として傷の自動治癒が挙げられる。放っておけばどんな致命傷でも自動的に治り切るが、この

『魔剣』はそれを妨げるって寸法。

さらに魔改造を施した輩や魔術師も負傷に対して何かしらの策を講じている。

それらを一切無効化できるってわけ。」


(なるほど......)


俺は不気味に文字の刻まれた剣身を眺めながらそれを聞いた。

で、今のエトセラムの解説を聞き、思い付いたことが1つ。


「そして、この鞘も特別製でこの中に剣身を収めたら、まず存在を気取られることは......」


エトセラムは長々と話を続けていたが割り込み、思ったことを述べる。


「この魔剣使えばお前も殺せるってこと?」


その言葉と共に奴の顔を見た。

少しぐらい驚いてることを期待したが、まるでそんな気配はなく、ただ口元は微笑んだまま目だけは笑ってない。

そして神妙な口ぶりで一言。


「試してみるかい?」


依然美しい顔とそこに浮かべたアルカイックスマイルのままそう言った。


(......これは無理だな。)


直感がよぎる。


「冗談だ。」


そう言ってククリナイフを鞘に収めた。

すると、不自然なほど剣身が纏っていた圧は消える。


言い忘れていたが、俺のこの女へ対する興味はもれなく殺意も孕んでいる。

アルチョムもそうだが、こんな自分はそう簡単に死なないと思ってる相手のことを考えると、何というか燃える。


これは完全に俺の本能として根付いているようだ。

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