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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第2章 神秘なる存在
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第20話 クサカベ

 それからの俺の日々はエトセラムやアルチョムから訓練や講義を受けて過ごした。

 もちろん、現実の生活に影響しない程度だ。


 で、その中で前々から抱いていた疑問がいくつか解消された。


 まず、あの虚ろな目をしたエトセラムの従者達。最初に目撃した時は御者をしていたあいつらだ。

 ああいう連中はこの屋敷に何人も見かけた。


 そして、奴らの正体だが、それは最下位のデーモンを人間の死体に取り憑かせたものらしい。


 なんでも最下位のデーモンはもはや魔術師の下僕と言っても過言ではなく、こちらの世界に肉体を形成できないため、ああして人の死体に取り憑かせないと存在が保てないのだとか。

 彼らは通称『悪魔憑き』と呼ばれる。


 で、こちらへ手引きをしてやった代償としてエトセラムにこき使われてるってわけ。


 なんとも世知辛い話だ。


 次に、キリエの右目の上から生えたU字のツノについて。

 あれは魔改造の代償として『容貌』の『身体能力値』を落とした結果生えたものらしい。


 『容貌』は見た目の良し悪しやNPCとの友好度に反映されるため、これを代償にすると見た目が歪むのだとか。


 俺が見たぶんには大して影響はなさそうだが、NPCからの反応は劇的らしい。

 なお、最近影が薄いクサカベの右目周辺の火傷跡もそうした代償の一種。


 ……そうだ。

 クサカベが最近何をしていたかについて話そう。

 彼女は『魔狩人』という魔物専門のハンターを元々やっていたらしく、最近は勘を維持するため数日掛かりで森の中に潜っていた。


 で、つい(ゲーム内時間で)2週間前に彼女は戻った。

 そしてこれから俺は彼女と共にグラニール大森林の深層へ行くことになっている。


◆◆◆◆


 エトセラムに居間へ呼び出されたのは俺が狩りに行く丁度9日前のことになる。


 指定された時間より数分早く訪れると、そこにエトセラム来ていなかったが、代わりに

 クサカベが居た。


 彼女は黒髪を後ろで括るポニーテールに革のパンツと白シャツという大して代わり映えのしない格好で椅子に腰掛けていた。

 長大なテーブルが設置され20人分の椅子がその周囲へ配置された内の1つだ。

 俺から見て左側、テーブルの長辺に当たる位置に座っている。


(……)


 そういえば、彼女とまともに話したことがないことを思い出す。

 エトセラム、アルチョム、キリエの3人と違いクサカベは自分から話を振るってことをしない。


 その点でシンパシーを感じないでも無いのでこの一味の中ではやや好印象だ。

(ちょっと前に「臭い」と言われたことは置いておこう)


 で、部屋に踏み込んだ俺に彼女は一瞥をくれると軽く会釈だけして前に向き直った。


 あまり近くに座る程仲が良くも無いので向かい側だが、正面では無い少しずれた位置に俺は座る。


 それからはお互い無言。


 暖炉の火がパチパチと燃えていた。

 光景としては西洋の豪邸の食堂を思い浮かべて欲しい。暖炉があり、その前に先ほども言った長テーブルと椅子。

 長テーブルの上には燭台、天井にはガラス製のシャンデリア。

 真っ白な壁には一定間隔で絵画が飾られている。

 こんな感じ。


 そしてちょっと居辛さを感じ始めた辺りで悪びれもせず入り口からエトセラムが入って来た。


「遅えよ」


「いやーごめんごめん。雑務が長引いてね」


 そう言って出入り口から1番遠い席。

 つまり上座へ座った。暖炉の前の席だ。


「それじゃあ……」


 エトセラムが話し始めた時、なんとなくクサカベの様子を伺った。

 相変わらずの無表情でエトセラムの話に聞き入っている。俺も彼女と同じ方を見た。


「早速だがガラージ。今からゲーム内時間で9日後、つまり現実換算で3日後にクサカベと魔物狩りに行ってもらう」


◆◆◆◆


 有無を言わさずとはこの事だ。

 確か先日、ゲームに入れない日の聞き取りをされたが、それがこのためだとは思いもしなかった。


 なお、クサカベには事前に話を通していたらしく、俺の意思など無視していろいろ決められた。


 まあ、どうせ暇だから別にいいが。


 聞くところによるとこれも訓練の一種らしい。実地研修とも言えるかもしれない。

 なんでもアルチョムが最初に提案したのだとか。


 で、事前の打ち合わせという事で、その場でクサカベと色々話し合うことになった。


「よろしく」


「ああ」


 まずはこんな簡単な挨拶を交わす。

 アルチョムならまだ表情からいろいろ読み取れるが、それが無いので、ちょっと何考えてるか分かりにくい。


 そして打ち合わせは狩りの準備についてだ。殆どクサカベが一方的に話した。


「これからゲーム内でアルコール類、肉類、香辛料は食べないで」


 まずはこれだ。

 自然界に無い匂いを纏っていると、間違いなく魔物に発見され逃げられるか、奇襲を仕掛けられるらしい。

 そのほか匂いの付く香水も厳禁だ。


 で、次は一連の装備について。

 まずガチャガチャ音の鳴るものは持ち歩かないこと。持ち歩くのなら何かで固定するなど工夫を凝らす。


 そして、必要な装備はクサカベの手によって一通り用意されていた。


 濃緑色をベースに迷彩柄の服を上下。

 これには植物油と土、草の汁、砕いた炭を混ぜた液体をよく塗り込んである。

 さらに体の輪郭を隠すためのフード付きハーフマント。これも同様の加工済み。

 加えてブーツ。これは光沢を消し、動物の毛を貼り付けてある。そして足跡を残さないためか靴底には凹凸がない。

 服装はこんな感じだ。


 本来ならこれらに加え革製の防具を着込むらしいが、俺は動きの機敏さを維持するためにこれを拒否。

 クサカベもそれを了承。


 次に武器だ。


「何か得意な飛び道具は?」


 最初にそう聞かれた。

 そこで俺が取り出したのは鉛筆サイズの先端の尖った金属の棒。

 棒手裏剣だ。


 一通りメジャーな武器の扱いをアルチョムから叩き込まれた結果、俺は飛び道具の才に欠けることが分かった。

 精々動かない的に当てられるのが関の山だったが、投げナイフを始めとした投擲武器は別で実用に足る程度に使えた。


 そこでアルチョムからこれがオススメされたのだ。

 古くは日本の武芸としてメジャーだったらしいが、現代での知名度は押して知るべしで、どマイナー。


 だが、これの利点はいくつかある。

 例えば構造が単純な点。

 先端を尖らせた鉄の棒なので適当な鍛冶屋に頼めば気軽に作ってくれる。安価なので補充も簡単。


 他にもこの武器が投げナイフと比べ避けづらい事が挙げられる。

 これは投げ方に妙があり、手の内で中指に添うように棒手裏剣を保持し、尖った先を立てて投げる手法。

 すると、刺さる直前に丁度先端が敵に向いているので、敵からは点のように映り視覚で捉えにくい。


で、話を戻すが棒手裏剣を取り出した俺に対し、クサカベは


「棒手裏剣……か」


表情が読めないので『多分』と付ける必要があるが、微妙な反応。


「不満か?」


「いや、対人戦なら良い。でも魔物相手だと、かなりの小型にしか通じないから使い道があまり……」


 結局、棒手裏剣にはツヤ消し加工を施して持っていくことになったが、クサカベからクロスボウを1丁借りることにした。


 後は愛用のダガーにもツヤ消しを施す。


「刃物はダガー1本だけ?」


「ああ。そうだが?」


「少ないと思う」


「少ない? ああ、予備の武器ってこと?」


「いや、違う」


 彼女の語りによると、これは対魔物戦に限った話じゃ無いらしい。


「何を当たり前の事って思うかも知れないけど、刃物は常に素早く引き抜ける状態が望ましい。」


俺は釈然としない顔をした。そんなことは誰でも知っている。


「んー……これはスカウトとかレンジャー隊では有名な話で、彼らは常にナイフを3本持ち歩き、それぞれ胸の前、右腰、後ろ腰の三箇所に括り付ける。

すると胸の前のナイフは前に進みながら敵を斬る際に、右腰のは引き抜きやすいからオールマイティに、腰ベルトのは羽交い締めにされた時にそれぞれサッと引き抜ける。

で、この素早く引き抜けるかどうかの一瞬が明暗を分ける。」


「……なるほど。だから刃物は複数持って状況に応じて使い分けるべきと?」


「そういうこと」


 唸らされた。

 俺はこの女の見識の深さをナメていた。

 一瞬一瞬の動作が明暗を分けるのは自ずと知っていたが、そのために事前準備としてあらゆる工夫を凝らす大切さを俺はここまで意識していなかったのだ。


 だが、ここで1つ違和感を覚える。


「そういや、アルチョムはそんなにたくさん武器を持ち歩いていなかった気が……」


 俺が見た限りではファルシオン一本を左腰に吊るしただけだ。


「ああ、あの人?あの人はああ見えて鎧とか服の裏地とかマントの中とか至る所に武器を隠し持っている」


 え?


 そんなこと微塵も気づかなかった。


◆◆◆◆


 結局クサカベからナイフ(もちろんツヤ消し済み)も2本借りた。

 腰の後ろに元から使ってるダガーを取り付け、右腰と胸の前にもそれぞれ一本ずつナイフを取り付け、後は棒手裏剣とクロスボウで俺の武装は全てだ。


 このような準備には3日分を費やした。

 狩り当日までにはまだ6日が残されている。


 その6日は借りた装備の慣らしや魔物の生息域を歩く上での注意事項の解説に費やされた。

 もちろん講師はクサカベ。


 その中で1つ面白かった話がある。


「魔狩人が魔物の生息域を歩く時、絶対にやらない事がある。

それはホブゴブリンの縄張りに踏み込むこと」


「ホブ……何?」


「ホブゴブリン。青銅色の肌を持つ手が長い小人の魔物。正確な区分で言えば妖精だけど……」


 ここで俺は1つ幼い頃の記憶を思い出す。

 昔やった携帯ゲーム機でのRPGの記憶だ。


「ホブゴブリンってあれか。RPGだと大体雑魚キャラのゴブリンのちょっと強い感じの奴」


 俺がこうして記憶を掘り起こしているうちにクサカベは手元の紙に羽ペンで何か描いていた。

 ちなみに今のこの場所はエトセラムの講義でも使った応接室だ。


「具体的にはこんな感じ」


 そう言ってクサカベは手元の紙を見せた。


(うわ……)


 地味にうめぇ。

 スケッチを取るような正確さでそこには絵が描かれていた。

 多分それがホブゴブリンの姿。


 手は長くチンパンジーのような体格で体毛は薄く頭がやや大きめ。

 鼻は尖り目は鋭くギラついている。


 だが、簡素な服を身に付けてる辺り知性はあるのだろうか?


 そして左手に長い棒状の物を持っていた。


「これは?」


「吹き矢。彼らのメインウェポン。矢に強力な致死性の毒を塗って使うから、刺さったら助からないと思ったほうが良い。後は黒曜石のナイフも持ち歩いていたかな。」


「なるほど?でもそんなに強いのか?」


「強いってよりは厄介。彼ら少なくとも人より上の筋力を持ってる上、木の上を跳びまわって群れで狩りをする。それに賢いから逃げる時は脱兎の如く逃げ去り、連携もうまい上、罠も張れるし使える手はなんでも使うから。」


 それは……


「相手したくねえな」


 頭上から一斉に毒矢を吹き付けられただけでもキツいかも。


「加えて殺した所で実入りも少ない。けど、きちんと敬意を払って接せば取り引きに応じて貴重な薬草や鉱石をくれたりするから、うまくいけば良き隣人となれる。」


 なるほど、そういうのもあるのか。


「魔物だからってただ殺せばいいってわけじゃないのはちょっと面白いな。」


 襲いかかられたら容赦なく殺すが。


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