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ガラージ  作者: 空き巣薔薇 亮司
第2章 神秘なる存在
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第17話 ボッコボコ

 なんか癖の強い奴が多い。

 そう思わずにはいられないほど濃いメンツだった。

 それをエトセラムに話したところ


「君も大概だと思うよ」


 「何いってるの?」って表情を滲ませて奴はそう言った。

 果たしてそうだろうか。

 たかだか人を殺して回っただけ……


 いや、大概か。

 俺は自覚している以上に側から見れば変わった人間なのかも知れない。


 それで、キリエとハハシアとの遭遇が現実時間換算で1日目と2日目の話。


 そして3日目の話だが、この日は暇だったのでなんとなくゲームに潜ったところ、その1日中をかけてアルチョムにボコボコにされた。


◆◆◆◆


 聞く限りでは鳥の声、木々のざわめき、時折明らかに動物ではない猛々しく得体の知れない声が聞こえた。


 この森は常に湿気を放ち、真昼間の今でさえ空気の冷え込みを感じる。

 寒いとは思わないが、油断すれば体の挙動が鈍るため、常に体が冷えないよう気を配る必要があった。


 そんな中、俺はジッと息を潜め枝分かれした樹木の上に居座る。


 ここで敵を待っているのだ。

 ここに誘い込まれるはずの敵を。


 そして不意に耳で捉えた音。

 わざとらしく草叢を踏み鳴らす音を聞いた。


(来た)


 俺は実の所1時間ばかりこうして隠れている。


 全てはあの男を殺すため。

 後は単に散々痛い目に合わされた鬱憤を晴らしたいという安直な思惑があった。


(殺す)


 そもそもあの男はいつか殺すと決めたのだ。

 その機会が今すぐに訪れたのならこんなに嬉しいことはない。


 だから、ちょうど俺の真下へ到達した男へ躍り掛かったのはすぐのこと。


 直下へと振り下ろされたダガー。

 逆手で持たれたそれは落下中という不安定な姿勢でありながら正確に首の付け根へ軌道を取っていた。


 接敵。

 数瞬後まさに突き刺さろうという瞬間。

 目の前に踵が……


「ごっ」


 顎への唐突な衝撃を感じ、そこで俺の意識は暗転。


◆◆◆◆


「……おーい、起きろ」


「……」


 アルチョムの声で目を覚ました俺は、わざと不機嫌な仏頂面を浮かべる。


「そう怒んな。今のはちょっと良かったぞ」


「なんで分かったんだよ」


「なんでってそりゃあ、お前の勘の良さを思えば、あんな風に足跡残したのはわざとらしかったからな」


「いや、そうじゃなくて……」


 実は奴を誘導するため残した足跡は、俺が居座る木からさらに2つ向こうの木まで続く様見せかけていた。

 これは野生動物が逃走の際使うバックトラックと呼ばれる手法だ。自分の足跡を踏み戻り逃げた先を誤魔化す。


 そして少し戻った先で近くの木に飛び移り、上へ登ったのだ。


 無論、もう一度踏む都合上、足跡はより深く残るが、そんなことは注視せねば分からないはず。

 仮に気づいたとしても頭上からの奇襲を予知したような先の回し蹴りは自然に思えた。


 これを伝えると奴は少し考える表情で、


「んー……殺気……かな。」


と答えた。


「殺気?」


「そう。お前は殺気出し過ぎだから、もっと周囲の環境に溶け込むことを覚えた方がいい」


「はぁ?」


「釈然としないって顔してるな。……ちょっと試すぞ。」


「何を……っ!」


 瞬間、背筋を冷たい物が通る感覚に襲われた。

 それはよく吟味すればほんの一滴の水が背中に落ちた様なささやかなものだったが、この感覚がアルチョムから発せられたことは明白に理解できた。


(なんだ今のっ!)


「どう感じた?」


「どうって……なんかゾクっとした?」


「そうだ。どうも、お前は他者からの殺気やら敵意を感じ取る才能があるらしい。だがな、自分から発する殺気を操るのはお粗末だ。例えば、森に入ってからやけに鳥や虫の声をうるさく感じなかったか?特に、木の上に潜んでから」


「それは……」


 心当たりが無いでも無かった。


「やり方としちゃあ『心に波1つ無い水面を意識して、自然の安定を崩さないよう気を付ける』って言りゃあ分かる奴は分かるんだが……」


「なんだそりゃ」


「だよなぁ。ま、その辺は徐々に慣れるしか無いと思うぜ」


◆◆◆◆


 これがアルチョムにボコボコにされ……

 もとい、奴から訓練を受けた1日の最後の一幕だ。


 正直、ここに至るまでにやらされた事の数々の方が酷かった。


 最初に


「お前には自分の体がどこまでの事態に耐えられるか、感覚的に把握してもらう」


と言われ動けなくなる寸前まで出血させられたり、どの程度の痛みでどの程度動作が鈍るのか試すためひたすら斬られたり、後はどの程度の暑さ、寒さに耐えられるかとか、そういった多岐にわたる項目を全て把握できるまで、散々身体を壊された。


 その拷問まがいの行為は俺からすれば狂気じみて感じられたが、そもそも痛みという危険信号がこの世界に無いことを踏まえたら、妥当性はあるのだろうか?


(いや、趣味が混ざってんだろ)


 俺は疑った。

 それから先はバトルだ。

 屋敷の前の芝生でひたすら斬り合った。


 奴に言わせれば、


「しょーじきお前の戦い方は我流が過ぎるから基礎を叩き込もうとも思ったけどな。

やめだ。お前はもっと尖り続けろ。そうすりゃ多分……面白いことになるぜ」


って事らしい。

 その「面白い」って単語が気になったが、そこに関してはやれば分かるとか。


 で、そのバトルの内容だが、もう殆ど一方的に斬り刻まれただけだ。

 例えば俺が一撃加えようとしたら後の先を取る形で出だしを潰されて、逆に一撃を加えられる。


 そうした流れの繰り返しだ。


 発展しすぎた科学は魔法にしか見えないと

 よく言うが、洗練されすぎた戦闘技術もまた同じなのだと俺は実感させられた。


 だが意外なことに、終わってみれば俺の体に傷は殆ど残っていなかった。

 精々数ミリ斬り込んだ跡がある程度。


 思えば最初にやらされた俺の体の耐久を把握させられる一連の行いも後遺症が残らないギリギリで止められていたような気がした。


 そういう意味じゃいかにもゲーマー的で合理性に満ち満ちた訓練だったと言えるのかもしれない。


 結局正面からの斬り合いは休みを挟みつつ30回以上(そこから先は数えていない)行ったが、その内どれ1つを取ってもアルチョムの圧勝だった。


 その後は趣向を変えて近くの森に潜り最低限跡を残さない歩き方だとかを教わった上で、お互い離れた位置からスタート。

 相手を見つけて無力化したら勝ちというかくれんぼバトルみたいな形式で、これを5回行った。


これらが主にやったこと。


 他にも栄養状態が身体の動作のキレや毒物への免疫機能に関わってくるとか、そういう細々とした話を聞いたりもした。


 ここまでが屋敷に着いてから現実世界換算で3日、ゲーム内で言えば9日間のうちにあった一連の出来事だ。


◆◆◆◆


「もしかして俺って弱い?」


 ふと口からそんな言葉がこぼれた。

 こぼした相手はあろうことかエトセラムだ。

 正直油断していた。


 で、それを聞かされた彼女はどこかわざとらしくも目を白黒させる。


「まさか、君からそんな言葉が出るなんて思ってもみなかったよ」


「……やっぱ今のなし」


「ああ、分かった。聞かなかったことにしよう」


 そう言って奴は顎に手を当てた。

 多分、そんなことを俺が言った理由にも検討が付いているのだろう。


 昨日、1日かけてアルチョムにしごかれた結果自信を無くしたと。


 認めたく無いが、その通りだ。


 なお、今俺はエトセラムに接客用らしき部屋へ招かれ場所を移したって状況だ。


 奴とは低いテーブルを挟んでお互いソファに座る形で向き合っている。


 なんでも色々講義してくれるのだとか。


「でも……」


「なんだよ?」


「いや、これだけは教えた方がいいなと思ったことがあってね。アルチョムと君がこの世界においてどのくらいの強さを持つのか」


「はぁ、なるほど?」


 俺もそれが気にならないわけじゃ無い。

 前のヴィルマの街の屋敷を襲撃した一件で、俺はバーム竜滅戦士団のお偉いさんらしき男を殺した。だから実は俺、結構強いんじゃ無いかって自信が湧き始めていた。

 ま、それもアルチョムにバキバキにへし折られた訳だが。

 だから、その話を聞いてちょっとでも自尊心を回復したいと思っている。


「まず、すごく大雑把に『上』、『中』、『下』って強さの区分があるとするだろ?」


 そう言って彼女はテーブルの隅に置かれた駒の乗ったチェス盤からクイーン、ビショップ、ポーンを取り、横並びにそれらを並べる。


 コマの強さから見て、『上』がクイーン、『中』がビショップ、『下』がポーンという意味だろう。


「で、一般的に腕利きとされるのはここ」


 そう言って彼女はビショップのコマを取って見せる。

 つまり『中』。


「……『上』(クイーン)じゃなくて?」


「そう、そこが勘違いされやすい。その理由だが、多くのプレイヤーの最終到達点が大抵ここ(『中』)だからだ」


「……ああ」


 話が見えてきた。

 つまり『中』で団子状態なのだ。

 多くのプレイヤーの最終到達点が『中』ということは大方のプレイヤーとはその程度の実力で渡り合えるということ。

 つまり、その程度の強さで『一人前』、『腕利き』と呼ばれるってわけだ。


「で、そんな『中』程度の奴らをまとめるのは、それよりちょっと上の実力を持つ人物、差し詰め『中の上』程度の実力の持ち主と思えばいい。前に君が闘ったバーム竜滅戦士団の隊長もその程度に当たり、それと渡り合った君の今の実力もその程度ってわけさ」


「はーん。そうか。スッキリした」


 だが、今の説明だけだと疑問が残る。


「じゃあさ。あのアルチョムはここに当たるってわけ?」


 そう言って俺は『上』を表すクイーンの駒を手に取る。


「そうだね。それもとびっきりの」


「とびっきり?」


「彼、その『上』の括りでも一番強いと思うよ」


「え」


ってことは、待てよ。

全プレイヤーの中で一番強いってことにならないか?


「そう。本来ならここに到達できるやつは魔術で体をいじってたり、神から加護を得ていたりと、邪法に手を染めてるやつらが多い。その中で単に戦闘技術のみで渡り合う奴もいなくは無いが、あいつはそんな魔境のトップクラスだ。はっきり言って異常な強さだよ」


 いくつか気になる単語はあったが、それは後で聞くとして、そうか。あいつはそんなに強いのか。と多少感慨深く思った。


「そして、君自身の強さも異常だってことをそろそろ自覚しといてほしい」


「俺」


 俺が?


「普通このゲームを始めたばかりの人間はまともに戦えるようになるまで3ヶ月はかかると言われている。この『まともに戦える』の基準は言ってみれば『下の上』。だが、君は1ヶ月足らずで『中の上』まで到達してしまった。はっきり言って異常だよ」


「……へぇ」


 そうは言われても実感が湧かない。

 だが、少なくとも弱くは無いわけだ。

 なら、それでいい。


 あの男、アルチョムがなんか俺に期待してる風だったのも納得がいった。

 そんなことを考えていると、エトセラムがいつか見た瞳で俺を見つめていた。


 あの、猫のような何を考えているか分からない目だ。


 そして一言。


「さて、君は一体どこまで強くなるんだろうね?」

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