運命は交錯する⑤
その声と同時に開け放たれる扉。そして、リオンと年の変わらないような男が飛び込んでくる。その顔は蒼白になっており、外で起こっていることが並大抵のことではないことを如実に物語る。
「カイト、何があった。人々は何に怯えている」
「リオン様、蝕が起こっております。そして、つむじ風も猛威を振るっております」
カイトの声にリオンは信じられないというような表情を浮かべるだけ。そんな彼に追い打ちをかけるかのような言葉がぶつけられる。
「それと……先ほど見たこともない珍妙な姿をした娘が現れました」
「娘? 一体、どういうわけだ」
あまりにも一気にいろいろなことを聞かされたからだろう。リオンはどこかで判断するということを放棄している。となると、この場では事情を知っているであろう人物に訊ねるのが一番。
だが、その白羽の矢に立ったであろうカイトもリオンと状況は変わらない。それでも、訊ねられたことには応えないといけないと思っているのだろう。首を傾げながらも言葉を続けている。
「蝕が始まったことも不思議と言えば不思議なのですが……それよりも、先ほどのひときわ強いつむじ風が吹いた後、娘が中庭に倒れておりました」
「中庭? だとすれば、侍女がふざけた格好でもしているのではないのか?」
話をしているうちに少しずつではあっても落ち着いてきたのだろう。リオンの声は先ほどとは違ってきている。それを耳にしたカイトが平静さを取り戻しているのは間違いない。それでも、彼は自分が目にしたことを信じられないという口調で語り続ける。
「たしかに、そのことも考えました。しかし、この城には黒髪の娘などおりませんでしょう」
カイトのその声に、リオンはすっかり驚いた表情を浮かべている。そんな彼を見ながら、カイトは事実だけを述べ続ける。
「蝕が起こることを感知しえなかったことは怠慢と言われても仕方がないことです。もっとも、今回のことはエリアル様も気づいておられなかったのです。そして、それと同時に起こったつむじ風がまっすぐに封印の洞窟へと向かっている。それらのことから、これは神であるデュランダル様が起こされた事態ではないかというのが我々、巫の一族の見解ではあります」
「なるほどな。しかし、神は気紛れだとしか言いようがないな」
「リオン様、そのようなお言葉は神に対する冒涜ととられるのではございませんか?」
リオンの言葉に焦ったようなカイトの声が被さってくる。もっとも、たしなめられた方がそのことを良しと思っているわけではない。だからこそ、リオンは思っていることを遠慮なく口にしていく。
「お前たちの一族ならそう思うんだろうな。だがな、鍵であるエリアルはこの地にいる。そして、封印が解ける前に動こうとしていた。そのことは間違いないんだろう?」
「はい、エリアル様は準備も整っておりましたし、明日にも出立の予定でした」
「それに対して横槍を入れてきたのは誰だ? 他ならぬ神ではないか。このままでは何が起こるか分からないというのは巫の一族であるお前たちなら簡単に分かること。違うか?」
「たしかにそうです。しかし、今はそれもですが、もっと重要なことがございます」
さり気なくカイトが話題を変えてきた。そのことにリオンも気が付いてはいるが、あえて触れようとはしない。今の彼はカイトが口にした『もっと重要なこと』の方に気持ちが傾いているのだろう。だからこそ、確かめるような言葉がその口からは飛び出している。
「ずい分と思わせぶりなことを言うんだな。封じの鍵が確定していないということよりも重要なことがあるのか?」
「はい。何よりもこの蝕で人々が怯えております。まずはそれを鎮めませんと」
カイトのその言葉は至極当然のこと。だからこそ、リオンも軽く頷いている。もっとも、カイトが己を見る視線が期待に満ちたものだということに気が付いた時、リオンの機嫌は一気に悪いものへと変わっていた。
「カイト、何か言いたいことがあるのか? 人々を鎮める役目は俺じゃないだろう」
お前の考えていることは分かっているぞ、というようにニヤリとあげられる口角。しかし、その言葉をぶつけられた方も簡単に引き下がることはない。こちらは穏やかな笑みを浮かべながら鋭く切り返してくる。
「おや、そのようにおっしゃいますか? 王陛下より不測の事態には檄を飛ばせと命じられていたのではございませんか? そして、今の蝕とつむじ風はまさしくそれに値するかと」
「それこそ詭弁だな。ま、今の事態を親父に報告しないといけないしな。その時、親父からそのように言われれば、やらざるをえないだろう。それより、お前たちは界渡りであるエリアルを失いたくないと思っていたんだよな」
突然、問いかけられた声に、カイトは体を強張らせている。それはなによりの肯定の返事。そして、そのことを知っているリオンはここぞとばかりに言葉をぶつけていく。
「やっぱりな。つまり、エリアルを鍵として認めないといったのは神ではなくお前たち自身だったということではないのか?」
「そのようなこと、あるはずがないでしょう。たしかに長老たちはそのようなことをやりかねないほどエリアル様に心酔しております。しかし、だからといって神の言葉を詐称すればどのようなことになるのかは、彼らが誰よりもよく知っております」
カイトのその返事にリオンはフンと鼻を鳴らすだけ。その態度は、彼の言葉を無条件で信じていないぞ、ということを示してもいる。そのまま歩き出そうとした彼だったが、ふと思い出したようにカイトに問いかけていた。
「それはそうと、珍妙な姿をした娘。そいつはどこにいる?」
「蝕の真っただ中で姿を現したわけですし、何かがあってはいけないということで、エリアル様が身柄を預かっておられます」
「ま、そのあたりが妥当か。親父にこのことを報告するついでに、その娘の様子もみておく。異論はないな」
リオンのその言葉にカイトは深々と頭を下げている。その姿にちょっと肩をすくめたリオンは改めてその場から離れようとしていた。
「しかし、蝕が突然に起こるというのも不思議なことだな。そして、その時に現れた娘。神はエリアルが鍵ではないといった。ということは、その娘が鍵となる存在だということなのだろうか?」
「どうなのでしょうか? たしかに、リオン様がおっしゃるとおり、蝕の真っただ中に姿を現したということで何かがあるかもとは思うのですが……しかし、代々、鍵となってきたのはわが巫の一族の者。となれば、どう考えても部外者のその娘がそれに値するとは到底、思えません」
カイトのその言葉にはリオンも頷かざるを得ないのだろう。そのまま、二人は黙りこくって部屋を出て行こうとする。その二人の前には蝕による暗闇が大きく広がり、唸りを上げる風が辺りの者を吹き飛ばしていく。そんな中、現れた娘が何をもたらすのか。そんなことをそれぞれが考えているともいえるようだった。
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