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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号
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能無し


ーー次の日ーー




「・・・休みたい。」



俺は病院の食堂で一人うどんを啜っている。

俺の手は軽い火傷だったので通院する必要もないのに、どうして俺はまたここにいるのだろう。

まぁ、理由は一つしかないけどね。



「ここで大怪我を負えば休めますよ?」



すると、俺が憂鬱な気分で呟いた一言に冷たい声で返答が返って来た。

どうしてここで優しく声をかけたりしないんだろうこの人は。

後ろを振り向くと、いつも通りの無表情でこちらを見る帆哭さんと困ったものを見るように苦笑している柊さんが立っていた。


鬼と天使。。。



「あはは、朱紀ちゃん。もう少し休みあげたら?」


「ですので一番休める手段を提示してあげたのです。そもそも仕事が溢れている現状で休みなんて取れるわけないじゃないですか。怪我をしたら休むしかないので希望があれば私が骨の数本くらい折ってあげますよ?」



すげぇ提案。



一瞬それもありかって思ちゃったから俺も末期なのかもしれない。ついでにそんな提案を真面目にする帆哭さんも末期だね。

すると、そんな俺を見かねて柊さんが囁きかけてくる。



「大変だったらいつでも手伝うから相談してね。」



や、優しい(泣)


でも、貴女俺よりめっちゃ忙しいの知ってますよ?

流石にそんな人に手伝いを申し出るのは気が引けるんだけど。



「まぁ、確かに最近は問題が多いですからね。しばらくすれば落ち着く予定ですので頑張ってください。ってか、やれ。」



こっわ。


そう言って希望を持たせて仕事を続けさせようとするんでしょ?

まぁ、文句言っても仕方ないからやるけどさー。

それに、俺より帆哭さんの方が倍近く仕事してるしね。



「あ、来ましたよ。」



すると、そう言って柊さんが入り口側の廊下へと視線を送った。

奥から昨日会った主治医の男性に連れられてエリスが歩いて来る。

主治医の男性は疲れた様子なのは変わらないが前よりも明るい雰囲気が感じとれた。


まぁ、あの人が疲れてたのはエリスのせいだから、エリスが元気なれば楽になるだろう。


そして、近づいてきた二人に帆哭さんが先に声をかける。



「久しぶりですねラクラットさん。」


「ああ、久しぶりだ。」



昨日ぶりだけどね。

エリスは帆哭さんに挨拶を返した後、後ろの俺にも視線を送ってきた。



「綾人も久しぶりだな。」


「・・・おん。」



だが、俺はやる気なさげに適当に返事をする。

そんな返事にエリスはムッとしているが、俺は気にする気はない。


すると、帆哭さんがフォローを入れる。



「あぁ、気にしないでください、名木田くんはいつもこうなので。あまりに酷かったら捻りますので安心して下さい。」


「あ、あぁ。」



全然フォローじゃなくて体罰予告だったわ。

それにしてもこの人って何でこんなに暴力に抵抗がないんだ?

おかしいな、今のご時世にあってないと思うんだけど。


俺が帆哭さんの暴力性について考え込んでいると、帆哭さんが時計を見ながら立ち上がる。



「では、行きましょうか。彼女にしてもらいたい手続きもありますし、その後宿に案内する必要がありますからね。」



え、人の部屋のこと宿って言った?

つまり、金とっていいのかな?

一泊いくらにしよう。



宿代について考え始めていると帆哭さんに連れられ、エリスと共に対策班の事務所へと向かうことになった。

柊さんや主治医のおっさんに軽く挨拶をして病院から出ると、



pipipipipipiーー



出た瞬間に帆哭さんの腕時計型端末から呼び出し音が響いた。



・・・嫌な予感がするなー。



「・・・? 何の音だ?」



そして案の定疑問符を浮かべているエリス。



・・・え、俺が説明しないとダメ?



まぁ、とりあえず連絡が来たので通話するだろうしその後でいっか。



「はい、帆哭です。」



帆哭さんはそのまま通話を始めたので必然的に俺たちは手持ち無沙汰になる。



「・・・なぁ、あれはなんだ?」



そして暇ができれば絶対に質問攻めにあうだろうと言う予想はバッチリ当たってエリスに袖を引かれながら、エリスから「なぁなぁ」と話しかけられていた。


いやだよー、めんどいよー、帆哭さんに任せたい。



「・・・遠くにいる人と会話ができる機械だよ。」



投げやり気味に答えてあげる。



「おー、なるほど、伝導石のようなものか。」



なにそれ、そっちの方が気になるんだけど。

そうか、別に世界が違くても生活水準が違うだけで似たような物は存在するんだな。

まぁ、人は生活を豊かにすることに妥協しないからね。それは向こうだって同じか。



「でもやはり魔力は感じないな。」


「そりゃそうだろ、使われてるのは電気だからな。」


「電気?・・・雷の事か?」



んー、てか雷が電気の一種。



「雷ならわかるぞ、よく使っていたからな!」



いやいや、なに使うって。雷は自然現象だよ?

俺が半目を向けてる先でエリスは堂々と胸を張っている。

ちなみに今の彼女は帆哭さんが持って来た簡素なワンピースを纏っている。装飾も少なく地味と言えば地味だが、彼女が着ると絵になっているから不思議だ。



「・・・ちなみにどう使ってたの?」


「雷の魔法は貫通力があるからな。相手の頭を貫いたり、遠方の敵を狙撃するのによく使っていた。着弾地点近くの連中が動かなくなるのも便利で・・・。」


「おう、そうか! 頼むから絶対こっちでは使うなよ!?」



どこの戦略兵器だよ。

この前だって手から炎を吐き出してたし、雷だって打てるって、、、。



こいつ一人で何個分の兵器と代替できるんだ?



・・・あれ? こいつの教育係ってけっこう責任重大じゃないか。



「安心しろ、私だって使いどきくらいわかっている。・・・それに今の魔力量だと使えないからな。」



・・・?



「何で?」


「前も言ったがこの世界では霊力が回復しづらくてな。そのおかげで魔力も全然回復しない。この調子で魔法を連発してしまえば再び倒れることになるだろう。」



あー、そう言えば言ってたなそんなこと。

これについてもいずれは解決策を見つける必要があるだろう。

彼女はこの世界に渡るのに霊力を消費したって言ってたから帰るのにも大量の霊力を使う可能性が高い。


でもどうやんだろ、パワースポットでも巡ってみるか?



「・・・まぁ、手は考えてみるよ。」



俺がボソッと呟くと彼女は意外そうな表情になる。



「どうした? 頭でも打ったのか?」


「もう二度と言わないもん!」



折角の行為を無碍にされた!


なんか無性に恥ずかしいな、返って布団にくるまって寝たくなってきた。


それから、しばらくすると通話を終えた帆哭さんが戻ってくる。



「ほらほら名木田くん、ラクラットさんを口説いてないで行きますよ。」


「口説いてねぇわ! 誰がこんな顔しか良いところのない物騒な奴に惹かれるんだよ!」


「そこはかとなく失礼だな貴様。」


「事実だからな。」



ーーバチッ



俺とエリス、二人の間に火花が散る。

エリスは不敵に笑いながら、今までなにも持っていなかった手に剣を召喚した。



「くく、魔法は使えなくなったが何もできないというわけではないぞ?」


「はっ、剣一本取り出したからって勝てると思ってんじゃねぇよ。」



お互いに臨戦体制をとりながら睨み合う、俺は腰に差してあった三段警棒を伸ばして構える。


よし、まずは武器ぶん投げて虚をついてやろう。

そう思って踏み出そうとした時、



パァンッ!!



俺とエリスの間で帆哭さんが手を叩いた。

結構な大音量が響き渡り、二人とも呆気を取られる。



「血の気が多いのは結構ですが、場をわきまえてくださいね。」



そう言っている帆哭さんの後ろに一台の黒塗りセダンが止まった。



・・・あれ?呼んだのってタクシーじゃなかったっけ?



「では行きますよ二人とも、急ぎですので早く乗ってください。」


「急ぎ? え、どこ行くんすか?」



俺が当然の疑問を浮かべると彼女はいつも通りの無表情で



「仕事です。」



そう言うのだった。




ーー




俺とエリスは帆哭さんに続き車に乗り込んだ。


どうやらさっきまでの通話は近くで発生した事件への対処を依頼されたらしく、一番近くにいる俺たちに連絡が来たみたいだね。

緊迫した状況らしく、説明は車の中でしてくれるらしいのだが・・・。



「おぉー!こんな速さで移動してるのに全く揺れんぞ!」


「わかったからあまり暴れないでくれ、・・・酔う。」



隣の異世界人が車に大興奮でとても説明を聞ける状況じゃない。

帆哭さんは説明を俺にぶん投げているので走る原理や仕組み、安全性を簡単に説明していく。

最初は少し恐怖に彩られていた気がしたのだが、走っていくうちに興奮が勝ったのか今は大分テンションが高い。

エリスのテンションが上がっていくごとに俺のテンションは下がっていくけどね。(疲れ)


だが、しばらくするとそれもようやく落ち着きを見せ、エリスは大人しく窓の外を眺めているだけになった。

窓の外を流れるビル群や対向車に見入ってるようだ。



・・・よ、ようやく落ち着いたな。



これで何とか話を聞ける。



「帆哭さん・・・。」


「あ、着きましたね。」



ガッデム!


そりゃそうだよな! そんなに遠かったら俺達に連絡なんてこないもんね!



「行きますよ。」



帆哭さんはそれだけ言ってさっさと車から降りてしまう。

俺はガジガジと頭を掻いてヤケクソ気味に後に続くことにした。



「ほらいくぞ斬り裂き魔。」


「その呼ばれ方だけはいやなんだが。」



あながち間違ってないでしょうが。




ーー




急ぎ足の帆哭さんに俺とエリスは無言で続く、何故無言なのかというと状況がわからないので(騒ぎまくってた誰かと説明しない誰かのせいで)ここが事件現場であった場合こちらの位置を敵に知らせることになるからだ。


頭上を蛍光灯の光のみが照らす地下駐車場に3人で潜り込み、進んでいくと奥の方から物音と大声が聞こえてくる。



「ーーーっくそ、くそくそくそくそくそっ!」



すると、細身のサラリーマン風の男が赤い車を睨みながら何かタイヤに細工をしている現場が目に入る。


俺たちは柱の影に隠れて軽く様子を見ることにした。


すると、帆哭さんが端末を開きトークを見とけって無言のハンドサインをするので俺はおとなしく従い、端末を手に持ち音が鳴らないようトークを開く。

帆哭さんはそのまま車の裏を回りながら奥の方へと姿を消して行った。


ちなみにエリスは俺の下で俺と帆哭さんのやりとりの意味がわからず首を傾げている。

だが、静かにしないといけない状況なのはわかっているみたいで大人しく屈んで待機していた。


そして、少しすると端末にトークが送られてきた。



『収集班からの情報によると、あの男は以前から会社でストレスがたまると異能を使って他人の車に細工を行い、事故を誘発していました。そして今回、収集班が現行犯で捕えるため男を張っていたところ憤った状態で会社を途中退社したため、私達に逮捕の要請があったわけです。では、私は現行犯の証拠を手に入れますので後は頼めますか? 相手の異能は『拡張』です。厄介ですが貴方なら対処は簡単でしょう。』



・・・つまりタイヤに軽い傷をつけ、その傷を遠隔で拡張してパンクさせたってこと?



いや簡単じゃないでしょ、人を取り押さえるのって大変なんだからな。


軽く下を見るとエリスと目が合い、首を傾げられた。

何かしたほうがいいのって表情だ。

すると、再びトークにメッセージが追加される。


『あ、ちなみにラクラットさんはまだライセンスがありませんのでそこで待機しとくように言っといて下さい。許可なく異能を使えば法に抵触しますからね。』



ちくしょう! そう言えばそうでしたね!



この国ではライセンス、あるいは許可証を所持していないものが異能を発動した場合、異能法に抵触する恐れがある。

そのため彼は完全に違反者だな。



・・・仕方ねえ、とっとと行くか。



エリスに小声で待機しておくように伝え、俺は物陰から出ていった。

彼女はそれに頷きを返してくれたのでおそらく待機してくれるだろう(え、してくれるよね?)


俺は柱の影から出てわざと足音を立てながら悠然と男に近づいていった。



「あ、あいつがッ! あいつがデータを消しやがったんだ! 俺じゃないのに、あの馬鹿どもは! クソ!くそくそくそ!」



え、闇深くね? まいっか、俺には関係ないし。


少し歩くと向こうもこちらに気づき、視線を向けて来た。

こけた頬に目を縁取ったクマから彼の精神的疲労を感じ取れる。


彼は悪態を吐きながら車に何かしていたところを見られた気がしたのか、目が泳いで挙動不審になっている。



「だ、誰だい君は。」


「初めまして、対策局のものです。少しお話を聞きたいのですが?」



そう言って懐から対策局職員の証である手帳を開いて相手に見せる。

それを見た瞬間相手の顔色がわかりやすいくらいに青ざめていった。



「た、対策局の方がどうしたのですか?」


「いえ、ですからお話を聞きたいだけですよ、武梨 洋司さん。」


「ど、どうして名前を、・・・いや、えっと話ですか?」


「えぇ、ここでなにをしていたのですか?」



出来るだけ笑顔で敵対的じゃないよー、と表現しながら近づいて行ったのだが、



「・・・ッヒ!」



相手は俺の笑顔を見たのち短い悲鳴をあげて後ずさってしまった。



「・・・。」



うん、よく笑顔が不気味とか怖いとか言われて来たから慣れてるんだけど、流石に初対面の人にビビられるのはくるものがあるな、、、(泣)



「い、いや、仕事で少し納得できなかったことがありまして、今から帰ろうとしていたところですよ。」



は、ははっ、っと詰まり切ったぎこちない笑顔で弁明をする。

だが、こちらは情報の手札が揃っているので向こうの勝ち目は薄い。



「へー、そうですか、でもその車は貴方の車ではないですよね?」


「・・・ッツ!」



俺がそう返すと彼は言葉を詰まらせた。



「え、えぇ、知人の車ですね、今日は帰るのに車を借していただいたのですよ。」


「・・・あそこに貴方の車があるのにですか?」



後方の角に停めてある車を指差すと、彼は再び苦しそうに顔を歪めることになった。



「ただまぁ、別に貴方がその車になにをしても俺たちは関係ない、それは警察の仕事だからな。でも、あんたには異能を使って人の車に細工をし、事故を起こした容疑がかかっている。もしそれが事実なら、・・・ちょっとまずいことになりますね。」



すると、彼は俺から目を離さずに背中側に手を回した。

こちらを見つめる覚悟を決めた目と力を込めた様子から次に彼がとりそうな行動に予想がついてしまう。


俺はその様子を見て思わずため息が漏れた。



・・・下手な抵抗は勘弁してほしいんだけどな、痛いのやだし。



てか、仮に俺を倒しても背後にもっと容赦のない奴が潜んでいるから大人しく捕まったほうがいいと思うんだけど。



「・・・抵抗はやめたほうがいいと思いますよ? てか、やめましょ? 罪が重くなりますから、俺は貴方を連れてさえ行ければいいだけなんで、、、。」


「な、なぁ、見逃してくれないか? そうすればお互いに怪我しなくて済むだろ?」


「それができたらしてあげたいんだけどなー。」



柱の影に潜んでいる約2名が恐ろしくてそんなことはできないね。

だって、どんなナイフや銃より怖いもん。



「そうか、なら、・・・う、恨まないでくれよ!」



彼はついに意を決してしまったのか、こちらに向けて走り出す。背後に隠していた手には刃を飛び出させたカッターを握っていた。


あれに切られたらもちろん痛いし深手を負う可能性もあるけど、ナイフとかと比べ切れ味も耐久値も低い。だがそれは、異能を除いた場合の話だ。


後ろに下がった俺は背後の柱に阻まれ一度動きを止める。



「う、うぉぉぉおおおおお!」



彼は叫びながら逃げ腰でカッターを振るった。

俺はそれを屈んで躱し、相手の脇に潜って前方へと退避する。

柱には肉眼では見ずらいぐらいの微かな傷が付いていた。



ーーズゴンッ!



だが、軽く傷の付いた柱から鈍い音がして柱は大きく切断された。

それを見て俺は笑いながら冷や汗をかく。



・・・これが『拡張』の異能か。



彼が異能を使えばどんな小さな傷でも大きく出来る。

もしあのカッターで軽く皮膚を切られればたちまち大きな裂傷を負うことになるだろう。

だから当たるわけにはいかない。



・・・まぁ、油断しなければあんな短いのに当たるわけないけどな。



俺は腰に付けていたホルダーから警棒を伸ばしながら取り出す。

それを見て男は身を竦ませて後ずさった、それを好機と見た俺は足に力を込め、懐へと突っ込む。


ゆっくり近づいたさっきと違い、一歩で全力。

床から軋む音を出しながら一足で相手の前方へと潜り込んだ。



「なっ!」



驚愕で固まった相手の顎に向かって警棒の柄を叩きつける。

顎が割れないよう、最低限の手加減はしたがこれで、、、。


だが、そんな中相手は相手は踏ん張り、立ち止まった。



「へ?」



まさか、衝撃を拡張して威力を弱めた?


やべぇ、相手が素人だと思って油断した。

それと、相手が細身の会社員だと思い手加減しすぎたな。



「うわぁあああ!」



男は腕を振り上げ切り掛かってきた、俺は距離を詰めていたため避けられず左腕を刃が掠めてしまった。



「・・・あぶっ!」



スーツを軽く撫でた程度だったが、後ろに下がった後に確認したスーツはパックリ裂け、素肌を晒していた。


彼はそのままポケットに入れていたカッターの刃をばら撒きながら投げつけてきた。

思ったより多く所持していたので防ぎきれず先程裂けたスーツの間から覗いていた素肌を掠め、紙で切ったような地味に痛い傷ができてしまう。



「綾人!」



奥からエリスの声が地下駐車場に反響して響く。



「ーーっな! まだいたのか! くそっ『拡張』!」



そう言って彼は異能を発動させようと大声を上げる。

彼は俺に傷がついたかは確認できていないだろうがどこでも軽くついていれば御の字だと思ったのだろう、実際傷できてるし。

そして、彼の異能が発動した瞬間俺の腕は深い裂傷を負うだろう、そうすればとてもじゃないが彼を追うことなんてできない。



「・・・これで・・・え?」



・・・・・まぁ、発動すればだけどね。



俺は何事もなかったように立ち、腕を振って無事を見せた。

その様子に彼は目を見開いて驚く。



「当たってなかったのか!? ならもう一回・・・。」


「いいえ、終わりですよ。」



彼の背後に潜んでいた帆哭さんが後ろをとって男を地面へと張り倒した。

そして、倒した瞬間に腕を折り、痛みを与え抵抗できないようにする。



・・・容赦ねぇー。



「ぐぁあああ!」


「大袈裟ですね。下手したら相手は大怪我を負っているところなんですから腕の一本くらいで騒がないでください。」



そう言いながら帆哭さんは手錠を取り出して男を拘束した。



「武梨 洋司さん、貴方を異能法違反の疑いで逮捕します。」



あーあ、人に異能を使っちゃったから罪はさらに重くなっちゃったね。

まぁ事故を誘発していた時点で不味かったから今更か。



ーーータタタッ



後ろから足音がして振り向くとエリスが不思議そうに俺の腕をペタペタ触ってくる。


なに? くすぐったいんだけど。



「・・・うん? あいつが使っていた魔法は小さな傷を大きくするものではないのか? だが、綾人にも傷はついているが発動してないってとは・・・。わかった! 無機物限定なのか!?」



魔法じゃないよ。後なんでエリスが興奮してんの?


てか、エリスは俺がかすり傷を負ったことに気付いたのか。よくあんな小さな傷を遠くから見てて気づけたな。



「違う違う、てか魔法じゃなくて異能だから。」


「・・・? 何か違うのか?」



まぁ、妙な力って点では一緒だけどね。



「魔法と違って異能は一人につき一つ、力の能力や種類も豊富で千差万別。使えないようなしょぼい力から、生まれた瞬間から世界を滅ぼせるような大きな力を持っている事だってあるんだよ。」


「それはなんとも・・・不気味だな。」



お、あまり聞かない意見だけど、深く同意だな。

俺もこの不自然な力には不気味さを感じることが多々ある。

ちなみに帆哭さんは男を拘束した後にどこかに通話をかけていた。



「それで無機物限定じゃないとしたら何故、綾人は無事だったのだ?」



あ、そこ気になる?


・・・あんまり言いたくないんだけどなー。



「・・・まぁ、それこそ俺の異能の力だな。」


「む? 何か使っていたのか? あの男が力を使う時は嫌な感覚がしたが、綾人からはなにも感じなかったぞ?」



へ、感覚?


異能は人に馴染む。


そのため人が異能を使う時はとても自然であり、よっぽど力を込めない限り違和感など感じない。

実際俺も男を対処している際に変な感覚などは感じなかった。


俺はチラリとエリスを見る。

そんな彼女は俺の視線を受け、キョトンとしていた。



・・・まぁ、エリスは感覚鋭そうだし、半分精霊ってところが関係してるのかもしれないな。



そう自分に言い聞かせ、深く考えないことにした。



「名木田くんの異能は感じづらいとは思いますよ。彼の異能は『能無し』ですから。」


「ちょっと帆哭さん? ここは満を辞して俺が話し出すところじゃないっすか? あと結構その呼び方は傷つくので言わないでくれませんか。」



何故か説明を横入りされた。

別に大した異能でもないから自分で言いたかったのに!!



「能無し?」


「・・・はぁ。・・・そ、能無し、俺は異能が使えないのが異能なの。」



それだけ言われて彼女はさらに疑問符が多くなってしまったようだ。

そりゃそうだよね、こんなのが異能って言われても普通は困惑する。

戦闘に役立たないし下手したら味方に迷惑かけるしな。



「異能は使えないけど、触れた相手の異能を使えなくすることができる。そして、俺は異能の干渉を受け付けない。・・・でもまぁ、発動された火炎系の異能とかを打ち消したりなんてできないから使い時なんて滅多にないけどね。」



そう、この『能無し』と言う異能と言っていいのかわからない力は、異能による干渉を受けることはない。なのでさっきの男がつけた切り傷は俺にとってただのかすり傷に過ぎないのだ。

でも、火炎とか発動された後の異能に対しては喰らうことはないけど異能で熱された鉄パイプとかで殴られると当然熱い。そこら辺の線引きは俺もまだわかってないんだよな。


ようは異能を喰らわないけど打ち消せないってことかな。



・・・てか、正直使いづらいんだよな。



俺が触れれば相手の異能を封じ込めることはできるけど、逆に触れなければなんの意味もない。

それに異能の干渉を受けないということは医療系の異能も受け付けないって事だ。

つまり俺は怪我とかにより注意を配る必要が出てくるわけ。


後、何より地味。


かっこいい異能戦を俺だってしたいのに俺は銃撃ったり、警棒で殴ることしかできない。

俺もかっこよく手から氷とか出して 氷剣! とかしたいのに!


あ、なんか落ち込んできたな。帰りてぇー。



「そ、そうか。」



ほら見てよ、エリスだって何とも言えない表情になっちゃったじゃん。



「まぁ、全く役に立たないわけではないですよ。洗脳系は効きませんし、異能犯罪者を拘束したりするのにも便利です。中には手錠をかけても一瞬で壊して逃げる犯罪者も多いですから。」



そう言って帆哭さんは俺にフォローを入れたのち、捕まえた男に視線を送る。確かにあいつなら地面に手錠を叩きつければちょっとした傷で手錠を壊せるだろう。


俺は男に近づき、念の為上から押さえつけることにした。


と言っても帆哭さんが腕を折った後気絶させたみたいだから気にする必要も無さそうだけどね。



「ま、どんな力でも使いようですよ。ショボくても工夫次第で上手く使いこなせます。」


「今しょぼいって言いました? 地味に傷つくのでやめてもらえないですか?」



軽く流れた涙を袖で拭う。

確かに弱いけど、俺も頑張ってるのに、、、(泣)


すると、ポンっと肩に手を置かれた。



「ま、まぁ、頑張ろうな。」


「そういう優しさはマジで傷つくからな!」



俺の悲痛な叫びが広い地下駐車場に響き渡るのであった。




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