合間合間に
斗世婆の所で湯浴み?(体拭き?)を済ませ、エリスお勧めの服屋へと向かっていた。
ある程度汚れも落ちたし、あとは着替えるだけ、、、。
最低限の衣服を身に着け歩いてるだけなんだが、、、エリスさん?歩くの遅くない?
顔を少し赤く染めて無言でスカートを押さえながら歩いている姿から色々察した俺は、紳士然として咳払いする。
「・・・なに、漏らしたの?」
「気遣いくらいしてもらえんか!?」
悪いね、俺に紳士は無理だったみたい。
つーか、何があったんだよ、そんな(ある意味)ギリギリの戦いしてたの?
「エラードに変な薬を嗅がされてな。正直まだ体が調子がよくないんだ。それに、えっと、、、さ、さ、さすがにその、、、綺麗にしたのに、、、履くのも、、、な?」
「え、つまりお前今ノーパ、、、」
「それ以上言ったら殺す!」
顔を真っ赤にして剣を首に突きつけられたので両手を上げて冷や汗を流す。せっかく汗拭いたのに意味なくなっちゃうじゃん、、、。
急に大声を上げて剣を取り出したエリスに視線が殺到し、エリスは「ううっ!」と恥ずかしそうに頬を染めて後退る。うん、あまり無茶な動きするものじゃないよ、スカートなんだからさ(誰のせい)。
「・・・ん? エリス、その剣。」
俺は首に添えられた際に違和感を感じてエリスが握っている剣を指さすと、光が一気に弱くなって剣が霧散する。
今まで見たことのない現象に俺は不思議そうに首を傾げた。
「あぁ、恐らく霊力を消費しすぎたのだろう。今の感覚だと鎧は出すことは不可能、そして剣も、、、出せて数秒が限界か。」
前だったら半狂乱に取り乱していたと思うが、今のエリスは冷静に自分の状態を認識している。
恐らくだが元の世界は霊力に満ちていたらしいし、この様に力が枯渇することはなかったのだろう。
だからこそ自分の限界ギリギリというものを理解することができず、力をセーブしたり残りの残力を確認する術が分からなかった。
ただこの霊力が薄い世界で、残りのエネルギーに気を配る。要は力のセーブの仕方と容量を理解できたのかな?
いやー、成長ですね。前だったら精神が不安定すぎてハラハラしたけど、今じゃそんな心配も必要ないくらい客観的に自分を見れてるな、うんうん。
「・・・はぁ〜〜〜。しばらくはまた霊力を集め続けないとか。」
「つまりめっちゃエンジョイせいと、、、。」
「やりようがわからんわ。」
そうだね、急に楽しめって言われても俺も困る。
何が楽しいかなんて本人次第だし答えがあるものでもないしさ。
そんなこんな話ながら歩いていると少し寂れた場所にある店の前でエリスは立ち止まる。
ショーウインドの隣にあるドアを空けてなかにはいると、うれしそうな声が奥から聞こえてきた。
「あーーー! え、エリスちゃん!無事だったのねぇ!!」
「あぁ、心配かけたな、佐伶那。」
佐伶那と呼ばれた女性はうれしそうに涙を浮かべながらそっとエリスに抱きつく。
感動の再会をしたような空気に水をさせるわけもないので俺は一般客のように店の服を手に取って見る。
ふむ、どちらかと言うと古着屋みたいな感じかな?
特に季節物やブランドで揃えられているという感じはなく、様々な衣服が綺麗に整頓されて並べられている感じ。
高そうな材質から安そうだけどオシャレなものまで、ここでなら気に入る服が必ず一着は見つかりそうな、いい店だ。
「うわぁーーん!!ごめんねぇ!あれから私ずっと寝れなくてぇーーー!!」
「そ、そうか!嬉しいが、力がつよよよよよっ!? 背骨折れるわ!」
ゴリラのような力でエリスは細い腰を掴まれて苦しそうに呻いている。どうでもいいけど服がめくれ上がっていろいろ危な、、、いやどうでもいいけどね?
そんな俺の視線に気づいて、エリスはハッと急いでスカートを押さえる。佐伶那と呼ばれた女性はその様子で俺の存在に気づいたようだ。
「あら、その方はどなた?」
「あ、どうも、エリスの同僚の名木田 綾人です。」
俺は社会人らしく頭を軽く下げて挨拶をする。
佐伶那さんはニコリと笑って同じように頭を下げた。
「この街で珍しいわね、私は店主の佐伶那よ。・・・ねぇねぇ、貴方エリスちゃんのなーに?」
「あ? 何ってただの同僚だが?」
「へぇー、そうなのね? まぁいいわ、服は好きなの着てちょうだい。エリスちゃんには迷惑かけちゃったしタダであげちゃうわ。」
「え、いいの?」
「いいわよ。」
まさかの太っ腹な提案に心の中でラッキーと呟く。
佐伶那は俺を見て口元を隠しながらニヤニヤしてるのがどこか気になるが、考えてもわからないので首を傾げながら、まぁいいやと替えの服を探す。
「ところでエリスちゃんはどうしたの?」
「・・・いや、服が汚れてしまったので替えの服をな?」
「あら、それなら任せて! バッチリ可愛く仕上げてあげるわ!」
「いや自分で選ぶぞ?」
「遠慮しないの! ちゃんと後ろの彼に褒められるようにしてみせるわ。」
「な、ななななな!別にただ着替えたいだけが!?」
なんか向こう騒がしいな。
うるさいのを無視して適当なシャツにエスニックっぽいのを羽織る。さすがに短パンは地下なこともあって肌寒いので黒の長ズボンにしといた。
いやーなんか佐巳月みたいになったな、吐きそう。
服が決まったのでこれにしようと佐伶那さんに伝えようとしたら、いつの間にか二人とも姿を消していた。
どこに行ったのかと、辺りを見渡すと、奥の更衣室の方から微かに声が聞こえてくる。
「・・・あら? エリスちゃん履いてないの?」
「理由があるからだ! 決して好んで履いてないわけじゃないぞ!」
「別に趣味は人それぞれだし否定しないわよ? ただ、エリスちゃんだと結構危な、、、」
「そもそも誤解だ!」
・・・うん、聞かないほうが良かったね。
罪悪感を感じながら椅子に腰掛けて二人を待つ。
暇なので端末をポチポチしてパズルゲームをやっていると目の前に人の気配を感じて顔を上げる。
するとそこには、にこやかな笑みを浮かべる須木原さんが立っていた。
「・・・へ? なんでここに?」
「朱紀から呼び出されたの。元々首取りの事件はあたしが追ってたからさー。それで今首取りの痕跡たどってたんだけど、陰鬱とした顔が見えたから覗き込んだわけ。」
誰の顔が陰鬱としてるって?
須木原さんは前と同じ黒のタートルネックの危ない家庭教師のような格好で妖艶に微笑む。昼間から見ていい存在じゃないね、夜に出直せ。
「と、こ、ろ、でー、前の後始末代、まだ貰ってないけど?」
「はっはっはっ、帆哭さんに請求してください。」
「いいけど殺されない?」
「俺の命って軽いですよね。」
「子供の持ってる風船のほうがまだ丁重かもね。」
そんなレベルなんだ、、、泣きそう。
ただまぁ須木原さんも本気で請求してるわけじゃないようで、辺りを見渡して更衣室の方に視線を止めた。
そしてニヤニヤした笑みでこちらを見下ろしてくる。
「なになに、青春真っ盛りなの? デート中?」
「この年齢で青春とかいてぇわ。」
もうそんな多感な時期はとっくに過ぎたと言うか投げ飛ばされたわ。常に仕事仕事で考えたこともないし、そんなはっちゃける元気もねえよ。
すると奥のカーテンが開かれる。
更衣室からニッコニコの佐伶那さんと疲れたようなエリスが並んで出てくる。
エリスは柄物のシャツと短めの黒いスカートとパンクっぽい格好して佐伶那さんのうしろで照れている。
ゴチャついてるわけでもなく装飾は適度に少なくだけど地味じゃない、佐伶那さんの服屋としての高いセンスを感じられた。
「おー、めっちゃ似合ってるじゃん。」
金髪色白だし、こういう格好が合うのかな?
清楚系も好きだけどめちゃくちゃ目の保養になるね。
「ほらほらー、似合ってるだけでいいの? こんなに可愛い娘が貴方のために、、、」
「おい、何言ってるんだ!?」
「んあ?」
いや似合ってるは似合ってるし、それ以上の言葉あるの? 「服との親和性が神がかってますね」そんな感じでいいかい?
いや怖えだろ。
「めっちゃ可愛い。」
小悪魔的にね。
それ以上の言い回しは思いつかなかったので結局ありきたりな褒め言葉を返す。俺にこんなこと言われて嬉しいか?そう思ったのだが、エリスは顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
案外褒められ慣れてないんだね。
「あら、すんなり言うのね。」
「・・・別にためらう必要ないだろ。」
それこそ思春期じゃねえんだから、、、。
そう言えば青春どうこう言ってた人がいたなー、と思って前を向いたらあらビックリ、いつの間にか姿を消していました。
ホントあの人何しに来たの? 冷やかしかな?
「・・・? どうした?」
「いや、なんでもねえよ。・・・さてと、これから何するかね。」
風呂も入って服も着替えた、さぁ動けるぞってところで目的はない。蛇紋の手伝いは明日やることにしたし、今日は何するかな。
「・・・麻雀、ビリヤードダーツ、昼から酒もありだな。まぁぶっちゃけ歩くだけで何か起こるような街だし、街ブラもありかー。」
「疲れてるしお前は怪我人だろ? のんびりしたほうがいいのではないか?」
指を上げながら思いつくこの街でできる遊びを口に出していると、エリスはどことなく心配そうに包帯が巻かれてる俺の腕を見ていた。
俺はその視線を受けて苦笑する。
「このくらいは慣れっこだし大丈夫だよ。・・・でも確かにのんびりはしたいなぁ。」
「あら、ならおすすめのbarがあるわよ? ダーツも遊べるしこの街の中で唯一と言っていいほど静かだしね。」
この街で静かな飲み屋とかあるの!?
常にどんちゃん騒ぎの大宴会。
新しく建てられた飲み屋もすぐに外装は落書きされ、なかの家具は常に壊される荒れっぷり。
そんな街で静かにしっぽりできるbarとか絶滅危惧種だろ。
「いいね、、、。よし、今日はそこでだらけよう。」
「・・・barとはだらける場所なのか?」
「多分違うわね。」
いいだろ楽しみ方は客それぞれだろうが。
場所を佐伶那さんに教えてもらい。
鼻歌を歌いながらその店へと向かう。
さー、怪我してるけど酒飲んで平気かなー。
ーーー
場所はちょうどハザードとファミリーの狭間らへんにある小さな小屋。外装は黒く、電飾が施された地味なものだが、どこかワクワクする。
「おぉ、雰囲気あるな!」
「・・・ただの黒い小屋ではないか。」
「それがロマンなんだよ。」
首をかしげるエリスを連れて店のドアを開ける。
店内は静かなジャズと、明るすぎない落ち着く明かりの中、グラスを磨くバーテンダーがこちらを見て「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。」と促してくれる。
どこに座ろうかと店内を見渡す。
お客さんは1人しかおらず、これはゆっくりできるかなって思ったらそのお客さんにどこか見覚えがあることに気づいた。
「・・・あれは、嶺藤だったか?」
国防軍の制服に身を包んではいないが、外回り中の営業みたいな格好でグラスを傾けている嶺藤はエリスの声を聞いて顔を上げる。
「・・・綾人か。それと、君は?」
「最近対策局に入った後輩だよ。」
「エリスだ、貴殿は確か嶺藤殿だったな。」
ここまで会話したのに無視して遠くに座るのもあれなので、近くの席に座る。露骨に嫌な顔をされたが気にせず笑みを返しておく。
バーテンダーのオッサンに「何をお飲みになられますか?」と聞かれたので適当にオシャレな名前のカクテルを2つ頼んでおいた。
・・・エリスって酒飲めんの?
「お前ここで何してんの? 国防軍の捕物とかあった?」
「ただの野暮用だ。それと仮に捕物があったとしても教えはしない。」
それはそうだけど冷たいなぁ。同じ元気な()ヤツらを引っ捕らえる仲間()じゃないか。
「・・・お前は随分と精力的に働いてるみたいだな。まさかハザードを潰すとは思わなかった。しばらくはここの治安も悪くなるだろう。」
「なんだ嫌味か? ここの治安が悪くなるのと上ごと巻き込んで悪くなるのどっちがいいんだよ。」
「くくっ、ここだけの方がマシだな。」
「おっ、メディアに聞かれたら一面に載れるような発言だぞ。」
「お前が引き出したんだろ。」
嶺藤は静かに笑いながらウィスキーが入ったグラスを傾ける。にしてもこいつやけに度が高いの飲んでんな。落ち込んでんの?
「てかちょうどいいや、聞きたいことがあったんだけどいい?」
「・・・悪いが文句は受け付けない。」
「あの変なアーマー装備って、お前らの、、、」
「勘弁してくれ、今日は休みなんだ。あれの管轄は阿良田だ、文句はあいつに頼む。」
いやお前上司じゃん。
クレーム対応してくれよ。
それに俺あいつ嫌いなんだよね。なんかやけにニッコニコで元気だしマッドなんだもん。
「同じのをいいか?」
隣からエリスがおかわりを頼む声を聞きながら俺は肘をついてため息をつく。
「・・・本当に元気ないな。相談乗ろうか?」
「ふっ、気色悪いな。お前に相談するほど追い込まれてない。・・・ただ単に何も上手くいかないと嘆いていただけだ。」
あー、まぁそういう時もあるよね。
ちなみに俺はここ半年くらい上手くいった記憶ないよ。じゃあ相談乗れないね、俺が相談したいくらいだもん。
「おかわりいいか?」
「ま、そっちのゴタゴタは知らないけど異能関係の仕事なら手伝えるぞ?」
「・・・ふむ。随分と珍しいな、明日は雪でも降るか? 何が狙いだ。」
「おいおい、人が優しく提案してるのにそれはないだろ。」
「仕事嫌いが急にそんな提案するわけないだろ。」
ふ、普段の行いが響いてますな。
「・・・少し時間作ってもらえないかなーって。」
「俺にか? どのくらいの期間で。」
「できるだけ長期、週に何時間か付き合ってくれるくらいでいいんだけど、、、。」
「おかわりいいか?」
「今の現状では難しいな。だが、お前が国防の仕事を一部手伝ってくれるなら考えることはできる。」
「じゃあ後で対策局が手伝えそうなの振ってくれ、、俺がやるとは限らないけどさ。」
「おい、灰原とか来たら最悪だぞ。お前がやれ。」
「いやー、なかなか忙しくて、、、」
「おかわりいいか?」
「お前何杯飲むんだよ!?」
会話の間間に挟まれるおかわりの催促に焦ったように横を見ると、エリスは顔を赤くし、頭をふらふら揺らしながら出されたカクテルを飲み干していた。
前に立っていたバーテンダーは困ったように水を差し出しながら止めていいものかこちらの様子をうかがっている。
「まだ7杯目だぞ!」
「店入って数分だろうが!ペース配分って知ってる!?」
「にゃかかかか、何を言っている。元の世界ではこのくらいよゆ、、、あははは! 綾人がぐにゃぐにゃしてる!!」
「・・・・・元の世界?」
「そんなところ今拾わないでくれ!」
何が面白いのかケラケラ笑っているエリスに水を手渡してなんとか飲ませる。隣の嶺藤に助けを求めるような視線を向けたが、こちらを無視してウィスキーを飲み干していた。
そして彼は淡々とバーテンダーにお金を払って店をあとにする。
サラリと面倒くさくなる空気を感じて逃げる危機管理能力は流石だけど今だけは助けてもらいたかった。
「にゃはははっ、綾人は飲まんのか? 甘くておいしいぞ!!」
「おうそうか!この水もおいしいから飲もうな!な!」
誰か助けてくれ!!




