空いた時間
「と、言うことで是非ともハルさんにこの街を統治してもらいたいのです。」
「断る。」
あのあと俺達は、処理班に連絡してエラードを引き取ってもらい、ハザードファミリーの調査と幽世渡りノ箱についての聴取を任せていた。
そしてそのあと、時間が出来たのでハザードのテリトリーから離れ、ハルさん達ファミリーの縄張りに戻り同じ6番街に住んでるハルさんに事の顛末を説明してこれからのことを相談させてもらっていた。
しかしそんな帆哭さんの提案にハルさんは興味なさそうに手をプラプラさせている。
「俺は殴ることしかできねぇ。この街を滅ぼすくらいの化け物が出たって言うんだったら喜んで殴りに行ってやるが、人をあーだこーだするのは苦手でな。その点、エラードの野郎は上手くやってたもんだろ。」
・・・そうか?
確かに金を使っての支配は上手くやっていた。
あの後、エラードが逮捕されたと聞いて慌てて俺達を問い詰めてくる連中がいた。
ま、エラードに気に入られて甘い汁をすすってたやつらだよね。
上とは違い、法に触れる賭け事などなど、人の欲望を刺激する娯楽で人を呼び込み金を稼ぐ。それを使って人を雇い、依存させ、自分の支配力を高めていったのは確かに上手くやったと言える。
「実際にあれで回っていたことは回ってた。確かに堕ちる人間は大勢いたが、上を望めばどこまでも登っていける。そう思わせるような手練手管は俺にはねえ。」
ハルさんはそう言いながらウィスキーをラッパ飲みしてソファに寝転がる。眠そうにあくびを漏らして話には全く興味なさそう。
「・・・つーかこの街だって第四区だろ。普通に考えて管理するのは区長の役目じゃねぇか?」
「・・・・・おっしゃる通りで。」
おぉ、珍しく帆哭さんが言い負かされてる。
実際にハルさんの言う通りで、ここがいくら地下とは言え本来管理するのは区の管理者である区長の仕事だ。
しかし、その区長は前前任の頃からこの街を放置している。おかげでエラードのような人間が現れ、薬物や暴力が横行する無法な街が強固になってしまったのだから。
そんでその責任が誰にあるかといえば区長であって、ハルさんじゃない。いくらこの地下街で幅を利かせているとは言え彼に頼むのは道理が通らなかった。
だから帆哭さんもあまり強く出られないのだろう。
「・・・別になるようになるだろ。どうせまたそのうちエラードみたいなやつがこの街を支配したがる。金だけは回る街だからな、そこまで悲観する話じゃねえ。」
「ですが、それではまた危険な組織が出来上がってしまう可能性が、、、。」
「そりゃそうだろ、この街はそんな街だ。正義の組織が生まれるわけねぇ。ま、でも安心しろ、この街が壊れるような危険なものが出来ちまったらそん時は俺が潰してやるからよ。」
それだけ言い捨ててハルさんは寝返りを打った。
もうつまらない話は終わりとばかりに寝息を立て始める。
その様子に帆哭さんも諦めたように立ち上がって頭を下げた。
「それだけ言ってもらえれば充分です。とても御心強い言葉、感謝します。」
「固い、固いよ帆哭姉、かしこまり過ぎだよ。」
言いながら呆れたようなナツが背中を預けていた壁から離れる。そしてドカッとソファの空いてるところに座ってジュースの瓶を空けて飲み始めた。
「ハル兄はみんなのこと気に入ってるからね。みんなが困ってるなら助けてくれるよ。でも、この街で暴行、強盗なんかはよくあることなんだ。それを管理するくらいならこの街はなくしたほうが早い。」
「それは確かにそうだな。」
俺の隣でずっと無言を貫いていたエリスは納得したように頷いている。確かにね、俺もそのほうが早いとも思う。
「ま、無理だろうけどね。この街は良くも悪くも掃き溜めとしてうまく機能しちゃってる。下手な処理はもうできないくらいにね。」
「だな、下手に壊してここの一癖も二癖もある連中が地上に放たれたらそれこそ国が荒れる。それは区と言うよりもはや国が望まないだろうな。」
この街はただの犯罪者や行き場のない者達の溜まり場ではない。国で管理することができない危険な異能者を閉じ込める檻でもあるのだ。
俺はそんな事を考えながら奥のテーブルでハンバーガーを食べまくっているフユ姉にちらりと視線を送る。
彼女の異能『暴食』は認識阻害のように一級管理異能とされている。その利便性に凶悪性、もし悪意を持って暴れれば多くの犠牲者が出ることが予測される危険な異能であるからだ。
実際、この街にはフユ姉以外にも危険な異能者が多くいる。本来管理されなければ危険すぎる彼等が放置されているのは、、、
「ぐごぉーーー。」
「え、ハル兄、本気で寝ちゃったじゃん。」
ソファでイビキを漏らしながらガチで寝始めてるこの人の功績が大きい。
実際彼らのなかにも不当に扱われ、ただ持ってしまった異能のためにこんな街に閉じ込められるのは納得がいかない者は多いだろう。
仮に地上で生活したいと言えば、手続きを踏んで上で生活することはできる。できるが、制限が多すぎて辟易したくなる人が多いらしい、リリカのようにね。
なら力任せに暴れて上を支配してしまえばいいという反逆思考が生まれかねないが、ここで反旗を翻して大々的に振る舞えば彼に潰される。
異能を持たない無能者、、、の、はずなのに極東防衛国最強と呼ばれるウチの班長と渡り合える化け物に、、、。
そんな彼がストッパーとして存在してるからこの不安定な街の存在が許されているのだ。
「それではさすがに御暇しましょうか、また帰り際に挨拶に来ますが、ここにずっといるわけには行きませんからね。」
「え? でもこの街にいるならここら辺で泊まったほうがいいんじゃない? ほかの宿はぼったくり価格だし防犯もないよ。」
「大丈夫ですよ、、、」
そう言ってニコリと笑った帆哭さんはガシリと俺の肩を掴んで黒い笑みを浮かべた。
「・・・寝れませんから。」
「嫌だ!助けてくれ! エリス!今すぐこの場から飛び出して逃げよう!」
「どうせ追いつかれるから嫌だ。」
そうだね、帆哭さんの転移から逃げられる気はしないよね!!
俺は過剰な仕事の予感に涙を浮かべながら引き摺られるようにこの場を後にするのだった。
ーーー
「おーお前たち!無事だった、、、何かあったのか?」
絶望に打ちひしがれ、顔を下げた状態で帆哭さんに連行されていると前からしばらく聞いていなかった気のする仲、、、同行者?が手を挙げながら近づいてきた。
その姿を確認して帆哭さんは露骨に嫌そうな顔をする。
「・・・生きてましたか。」
「おう、俺様が心配で心配で堪らなかったのはわかるぜ。」
「いえ、落胆の感想です。」
ため息をつきながらそう返す帆哭さんに「相変わらず照れ屋だなぁ。」とブチギレられそうな軽口を返しながら蛇紋は俺のところに来た。
「・・・そんで? 色々上手く行ったのか?」
「まぁあんたが囮になってくれたおかげである程度スムーズにはいったな。」
城では驚くほど警備との遭遇が少なかった。
それだけ彼が騒ぎながら逃げ回っていた、、、いやよく逃げれたなほんとに。
ま、つまりどこかに警備が引っ張られていたということだ。
そんで誰が引っ張っていたかと言うと心当たりは一人しかいない。
「くっはっは! 昔から悪運だけは良いんだ!この中年のジジイ1人を捕まえられないとは、最近の若者はてんでダメだな。」
「・・・あんたいくつだよ。」
「あ? この地下に来た時から覚えてねえよ。つーかなんだ、俺様に気でもあるのか?」
「そんな予兆があったら精神病棟にぶち込んでもらうわ。」
相変わらず飄々と掴みどころがねぇな。
でもまぁ無事で安心した。
こっちの勝手で巻き込んじまったわけだしこれで死なれてでもいたら寝覚めが悪か、、、別によかったかな?
「それでどうしたんだ? わざわざ俺たちを探してたわけじゃないだろうし、何か用でもあんのか?」
「おいおい、冷てえな。一緒に仲良く逃避行した仲だろ? 無事かどうかくらい心配になるだろ。」
「・・・そんで?」
「あんなに頑張ったんだからお礼があってもいいと思うんだよ。」
わざわざ探したのはお礼を強請るためかい。
純粋に心配できてくれるような奴には見えないし、納得だけどさ。
「・・・だ、そうですよ? 帆哭さん。」
「・・・・・はぁ、いくら欲しいのですか?」
「ん? 別に姉ちゃんが一晩付き合ってくれればいいぜ。」
「わかりました。・・・武器はありですか?」
「決闘じゃねぇよ!?」
いいね、夜中の決闘。面白そうなんでぜひとも見学させてもらいたい。
蛇紋は手をブンブン振りながら後ずさり、ヤレヤレと頭の後ろを掻いた。
「冗談だよ、ちょいとあとで兄ちゃんと嬢ちゃんに手伝ってもらいたいことがあるんだが借りていいか?」
「えぇー、めんどいんだけど、、、。」
「はい、そのくらいならお安い御用です。」
帆哭さん帆哭さん? 俺は難色を示したよね? 貴女が許可しちゃったら俺達に拒否権がなくなっちゃうよ?
隣のエリスを見ると、俺と同じように嫌な顔をしている。
「ちなみにどのくらいかかるのですか?」
「ん? あー別に大したことじゃないから2、3時間もあれば済む。」
「では余裕を持って3日ほど蛇紋さんに付き合ってください。よろしくお願いしますね。」
「あ? そんなにいらねえぞ?」
蛇紋の疑問を無視して帆哭さんはスタスタと金剛城に向かって歩いていく。
言わんとしたことを理解した俺はポリポリと頬をかいて苦笑した。
「ツンデレだよな。」
「・・・ふむ、つまり休みをくれたと言う事か?」
エリスの問いに俺は頷きを返す。
わざわざそんなに時間がかからないと言われた仕事にこれだけの時間をくれたということはゆっくりと羽を伸ばせという彼女なりの気遣いだろう。
ただそこに自分は含んでなさそうだなぁ。
俺は重いため息をついてだるそうに帆哭さんの後を追う。
「あー、んじゃ後で適当な時間に連絡くれ、そしたら2人で向かうからよ。」
「おう、わかった。」
「手伝いに行くのか?」
「さすがにあの人も休ませないと班長にシバかれそうだしな。ちょっとでも手伝って空き時間くらい作ってあげようぜ。」
あの人の仕事をすべて肩代わりすることはできない。俺達とは違ってできることが多すぎるからな。
でも少しくらいの手伝いならできるし、そうすれば時間も作れるだろ。
罪悪感を持って休みたくないし、頑張りますかぁ。
ーーー
次の日、、、
「・・・つっかれたぁ。」
「事後処理の大変さが身にしみるな。」
俺は適当な廃墟に敷いた寝袋の上で重く息をついた。
昨日は、幽世渡りノ箱の残りの捜索に他に囚われている者がいないか、レイッツオとハザード幹部捜索に街の治安維持(元々崩壊してるようなものどけどね。)等など、やることが目白押しで目を回していた。
必死にキリキリと働き、何とか夜中にキリがついたので、適当な居心地良さそうな廃墟を見つけ、そこで仮眠をとって今に至る。
勿論エリスと交代しながらね。
「・・・さすがにエリスが目立ちすぎるし宿なんて泊まれるわけなかったけど、ここは放棄された建物が多くて助かるな。」
「あぁ、外で野宿するよりは遥かに快適だ。それに道具も揃っていれば文句はない。」
軽いボヤキにエリスは真面目にウンウンと頷いている。
元の世界でエリスは部下を従え、行軍していたと言っていたし、その時の野宿の様子と比べているのだろう。
確かに適度に壁があってキャンプ道具も応援できてくれた処理班から借りている。家と比べたらさすがに快適さに差があるけど、このくらいならそこまで苦痛じゃない。
・・・でもいい加減風呂入りたいなぁ。
「・・・よっし、とりあえず風呂でも行くか。」
「む? 蛇紋との約束はいいのか?」
「いーだろ、別にまだ連絡来てねぇし。つかお前も風呂入りたいだろ?」
俺に言われてエリスは自分の匂いをスンスンと嗅いだ後に顔をしかめる。
「・・・まぁ、汗を流してさっぱりはしたいな。というか綾人、お前その怪我で風呂にはいれるのか?」
・・・ん?
言われて俺は包帯でぐるぐる巻きの腕を持ち上げ、痛みですぐに下に下げる。
そう言えば俺って重傷負ってました。
腕と肩の傷は深いし、縫ってはいるけど無茶な動きをすれば簡単に傷が開くだろうね。
「・・・あー、そういや無理そうだな。しゃーない、タオルとお湯借りて拭くだけで我慢するか。あと新しいスーツ貰お。」
「服であれば一つよい店があるぞ? 別にもうスーツでなくてよいならそこで買ってみたらどうだ。」
ほう? 確かにわざわざスーツをもらう必要もないか。あのスーツ特別製で高いし、あとで書類出さないとだからね。
てか、エリスがこの街で服屋に心当たりがあるの面白いな、何繋がり?
「よっこらせ、んじゃ行くか。ここで寝てても体痛くなりそうだしな。」
「うむ! というかその重傷で普通に出歩けるのはお前くらいだけどな。」
・・・え、班長の修行ではこのくらいよくあったんだけどなぁ。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
6番街は裏に行けば行くほど治安が悪くなるが、ある程度人が多いところはまだ安全だ。
スリとかに気をつける必要はもちろんあるけど俺とエリスならそこら辺も問題ないだろう。
そしてエラードの支配してた地域は施設のごった煮のように色んな建物が所狭しと並んでいる。
そのネオンが綺羅びやかに照らす街中を歩いて目的の銭湯を探す。
「「・・・・・。」」
人2人分くらいの距離を空けながら、、、。
「なんでそんな距離あけてるのん?」
「・・・・・乙女の事情だ。」
はっはっはっ、乙女なんてどこにいんだよ。俺の横には剣をブンブン振り回す狂人しかいないよw
というか、匂いだったら俺のほうがひどいと思う。
血と泥と埃と汗、役満かってくらいベッタベ、、、オロロロッ。あ、避けられてるのは俺かぁ。
まぁでも避けられてもしゃあない。
あともう少しだし、我慢するかな、、、。
「つーか、やっぱ替えの服ゲットしてからのほうがよかったかなー。」
「だがこの状態で人に会うのは失礼だろう。」
確かに、、、ん? てか俺はともかくエリスってそんな怪我とかしてないよね? あまり戦闘といった戦闘をしたって話も聞かなかったし、そこまで臭いことはないんじゃない?
そう思ってそっと気配を消して近づいたら、ダンッと跳んで逃げられました。
「・・・俺そんなに臭う?」
「あ! ち、違うんだ!別に匂いとかは慣れているし気になりはしないぞ!」
え、じゃあなんなの?
俺には繊細な乙女心はわからないよ。
「・・・さ、さすがに匂われるのは違うだろ。」
「それもそうか、、、あ、ついた。」
怪しいビルの一角。
『プルプル銭湯』とか言う訳の分からない店名の風呂屋が現れた。ピンクのネオンに照らされた明らかに怪しそうな入り口の暖簾をくぐると、まさかの昔懐かしの銭湯のような玄関が出てくる。
番台にはバスローブを着た鋭い目突きで金を数えるババ、、、お姉さんが座っていた。
「よっ、斗世婆、久しぶり。」
「なんだい、文無しには用はないよ。」
「はっはっはっ、俺は文無しじゃなくて能無しだって。」
斗世婆と呼ばれたお姉、、、ババアは数えていた端末の数字から目を離してこちらをだるそうに見る。
そして俺とエリスを交互に見て目を細めた、、、。
「・・・三十万でどうだい?」
「売らねえよ!? 」
そんなにお金に困ってるように見えんの?
てか普通に人身売買容認すんな、現行犯でしょっぴくぞ。一応対策班にも緊急時の逮捕権はあるんだからな?
「なんだい、本当にただ湯浴みに来ただけかい。・・・2人で500だ、さっさと入りな。」
「「やっす。」」
「あぁ?文句あんのかい?」
安くて文句はないのですぐに会計をしてエリスと別れる。中の浴場は決して広くなかったが、客はいない。
俺は安心してお湯だけ借りて、汚れだけを落としたのだった。




