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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号


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裏の裏返し



開け放たれた扉を潜るとそこには最悪の光景が広がっていた。


衣服など何もつけておらず、そのままの姿で鎖につながれている人達が虚ろな目をこちらに向ける。



「・・・なんだ、この人達は?」


「肩に番号が焼印されてますね。何の番号ですか、、、?」



恐る恐る声を出して副班長に聞くと、何か分析するように冷静に返される。

もちろん答えを知ってるわけはない事を副班長は理解しているのでただ口に出しただけだろう。


すると、一番近くにいた少年が弱々しく頭を上げた。



「・・・誰?」


「対策局の者です。すぐに助けることはできませんが助けます、必ず。」



無表情なのは変わらないが、何処か優しそうな声で屈み、少年と顔を合わせた。


ただ助けるという言葉を聞いても少年を含め、周りにいる大人たちも力なく座ったり横たわるだけで反応を示さない。



「無理だよ、ここからは出られない。前に助けに来た人も一度姿を見せてそれっきりだったし、、、。」


「・・・それは残念です。確かに私たちも助けられる保証はありません。ですが、、、」



副班長は一度周囲を見渡して立ち上がる。



「期待をさせて、責任を果たせない大人ではいたくありません。」



その力強い言葉に俯いて会話を少年に任せていた大人たちも顔を上げる。その目を受けても彼女の立ち姿は揺るがない。希望という重圧を背負いながらも動じない強い意志を感じさせた。



ーーパチパチパチッ



「素晴らしい、素晴らしい! とても優しい女性だ! 涙が出る!、、、苦しそうでな。」



相変わらずの気色悪い笑みで指輪の付いた両手をカチャカチャと打ち鳴らしながら奥からエラードが現れる。エラードの姿を見て捕まっている人達は怯えたように力なく距離を空けようと隅により始めた。



「エラード・グリタンジャック、、、。」


「おぉ?ワッチのフルネームを知っている人物に久しぶりに会ったなぁ。だがその名はすでに捨てている。」


「捨てた? 勘当されたの間違いでしょう。グリタンジャック家で飼われていた競走馬を殺し、使用人達に手を出して父親から死に物狂いで逃げた小悪党とは思えない言い方ですね。」



愚物を見るかのような冷たい目でエラードを睨み、煽るように吐き捨てる。

エラードは特にその煽りには乗らず、変わらない様子で檻の中を見渡した。



「上は息苦しい、正しい、正しくないと答えの出ない言い争いを続け、自分の思い通りにさせようと各々が行動する。」


「それはそうでしょう。勿論そこに善意や悪意など様々な思惑があり、押さえつけられる人もいます。平穏を求めるなら我慢し、刺激を求めるなら行動を起こす。でも悪意を野放しにすれば自分に危害が及ぶかもしれない、あなた方が認められないのは人の防衛本能ですよ。」


「おぉー、冷たいねぇ。」



決して感情的にはならず、相手の言葉に対して副班長は淡々と返す。そこら辺の話は難しくて参加するのは億劫だな。


そんな事を考えている自分にエラードの下卑た笑みが向けられる。



「ケヒヒッ、さっきまで這いつくばって泣いてた姿と見違えたねぇ?」


「黙れ、雪辱は果たす。」


「ケヒッ、ワッチは戦わんがな。」



そう言ってパチンッと指輪を鳴らすと泥のような物体が下から這い上がって人の形を形成していく、その謎の存在は人の形が作られる前にすぐさま手をこちらに向け、セメントの様に泥を撒き散らす。


セメントは檻に囚われた人たちの足元にまで及び、ゾゾゾッと這い上がるように登っていく。



「さぁ、守れるか対策局!? こいつの泥は簡単に人の骨を砕くぞ!」


「・・・舐めないでもらいたいですね。」



副班長は泥に向かって手を伸ばし、ドポンと浸すと副班長と共にドロは姿を消した。



「ほぉ、手に触れた物体をまとめて移動できるのか。」


「ほんと便利な力だ、異能というのは。」



片手に剣を出しながら構えるように相手を睨む。

エラードは何やら端末を片手に持ちタップするとプシュッと直近でよく聞いた軽快な吹き出し音が鳴った。


その音だけで囚われた多くの者たちが震える。



「さぁ、また無様にはいつくば、、、」


「纏え誉火。」



剣に炎を顕現させて強い熱を持たせる。

すると熱に空気が押されて風が起こり、外側へと押し出されていく。



「ーーっケヒッ!? 素晴らしい熱だな!!是非とも飼い殺してみたい!」


「やってみろ、、、!」


「ではやりましょう。」



バチバチに睨み合ってお互いに一触即発の空気のなか、踏み出そうとしたら横合いからサラリと同意が得られて横を向く。


そこには一度姿を消したはずの副班長が何事もなかったように立っていた。



「えぇ!? さ、さっきの奴はどうしたのだ!?」


「少しずつ転移を繰り返して外の宙空に置いてきました。流動的な異能の使い手ですし決め手にはなり得ないでしょうけど、、、。」



な、なるほど、そういう使い方もあるのだな。

でも副班長の話し方的に徐々に移動、決め手になり得ない宙空で手放すなど、選択肢が限られてる所をみる限りそこまで遠くには移動できないのか?


副班長の異能の詳細は知らないので欠点なども分からないが、今は優位に持っていけたことを喜ぶべきだな。



「さぁどうする、2対1だぞ?」


「・・・ケヒッ、これじゃあ確かに劣勢だ。」



ドチャッ、ドチャドチャッ


天井の隙間から4体の先ほどと同じドロのような塊が落ちてきて人を形作っていく。


だがこちらももはや動じることなく誉火の火力を上げてドロの水分を飛ばし動けなくした。


固まった連中を抜けてエラードに向かおうとしたが、エラードは近くにあった棒で塊を壊して土埃を立てる。


目にゴミがはいらないよう、つい目を覆ってしまい、エラードはその隙に奥の扉から逃げ出した。



「ゲホッ、ゴホッ! くそっ、逃げ足の速い!」


「ストップです、ラクラットさん。」



逃げ出したエラードを追いかけようと走り出すと、副班長に襟を掴まれて後ろに転びそうになる。

急になんだと目を白黒させていると、副班長は少し周りを見てから何か考え、一つ頷いた。



「・・・もう退路は確保されてますね。あの男がドアから出た瞬間罠が張られました。」


「うぇ?」



言われて目を凝らすと煙の奥でキラリと光る赤い線が見える。

人の感情を利用し、足を絡め取る手法は上手いと言えるがやられる側からすればうざったらしいな。



「ラクラットさん、まずは鉄格子を切断してもらえますか? 先にこの人たちを逃がしましょう。」


「・・・だがエラードに逃げられるのではないか?」


「可能性は高いですね。ですが私はこの人たちを助けると約束してしまいましたし、この人達が材料となる可能性が高い以上、放置もできません。」


「・・・承知した。」



了承の返事を返して鉄格子を斬り裂く。

このくらいの強度であれば何の問題もないが、どうも心には迷いがあった。


確かにこの人達を助けたい、だがあいつを逃がせばまた多くの犠牲者が出るだろう。

まだ幽世渡りノ箱がどう増えているか分からない以上早めに助けるのは理解できるが、、、



・・・いや、何を考えている。助けてまたあとであいつを捕らえればいいだけの話だ。



そう納得して捕まっている人たちに手を貸しながら牢から解放していると、遠くの方から僅かな揺れが感じられた。



「まぁ、何時までも後手に回っていると思ったら間違いですけどね。」



副班長はそう小さく呟きながら笑みを浮かべるのだった。




ーーー




「ふぅ、危ない危ない、事前に情報をもらっていたとは言えあの小娘の力量は想定外だったな。」



金剛城の中腹、地下ではなく少しうえに登ったところにある隠し通路をエラードは息を切らしながら進んでいた。


元々体力はないし、戦闘は部下に任せきり、逃げるのもやっとの思いだが、エラードには自分しか知らない退路を作っていた。



「ケヒヒッ! ここはもうダメだな。まぁいい、しばらくはグリーンパイソンに匿ってもらってまた再起を図れば良き良き、、、。」



自分が通ったあとには一度消していた罠を再び起動させている。確かあの転移系の異能者は一度行ったことがある場所で地形を把握してなければ移動できなかったはずだ。それならここを追ってこられる心配もない。


エラードは下卑た笑みを深くした。



「死んでないなら上々! 外にもハザードはいる、また首取りに人を献上して再起を図ってやるじょ!」



勝ち誇ったように立ち止まって手を広げると、建物から伝わる微かな振動を感じた。



「・・・ケヒ?」



その振動は時間につれてドンドンと大きくなり、音とともに目の前の通路の天井が崩れ落ちた。



ーーズガアンッ!!



パラパラ、、、



「よーやく見つけたぞ、クソ野郎。」



エラードの目の前に降り立った綾人は睨みながら煙の中を立ち上がる。


そして与罸をエラードに向けた。



「・・・貴様、何故ここに?」


「ウチの副班長を舐めんなよ。例え初めての場所であろうとあの人は分からないを理由に不利な状況のままいる人じゃない。」



綾人に言われたことの意味がわからずエラードは眉をしかめる。その顔には先ほどのような余裕はない。



帆哭 朱紀 の異能『転移』は自分が空間を把握している場所に転移が可能になる異能だ。


ホームとなる場所では無類の強さを誇るが、完全にアウェーの場所だと途端に無力になる。が、それではウチの班長に付いていけない。


なので彼女は空間を把握する能力を磨き上げた。


音による反響定位による近場の構造と建物の特徴から位置を割り出し転移を繰り返す。徐々に行動範囲を広げていき、事前に入手したマップなどを示し合わせながら転移可能な場所を増やすのだ。


たとえそこが未知の場所であろうと、短い時間でホームへと変える。


例え通信が阻害されてもどう動くべきかの合図は決めてあった。それを頼りに俺はエラードの逃げ場に先回りしたってわけ。


ただ短時間での異能の発動は脳への負担が大きいと柊さんが言っていたのでだいぶ無茶はしているはず、、、。

それを無駄にしないためにもこいつはここで捕らえておきたい。



「エラード、お前を異能法違反で逮捕する。」


「ケヒヒッ、こりゃあまずいな万事休すってやつだ。・・・が、ずいぶんと満身創痍じゃないか?そんな状態でワッチを捕らえたとしてお前は逃げ切れるのか?」 



エラードの言う通りレイッツオとの戦闘で負った傷は深く、応急処置はしているが未だに傷口はめちゃくちゃ痛いし血も止まってない。


無理に動き続ければ普通に失血死しそう、、、。


いや、てか常人ならもう死んでる量なきがする。だって鉈で斬られてんだよ? 普通に大怪我じゃん。



「・・・おとなしく捕まってくれない?」


「ケヒッ、やだね。ワッチはな~んもできん。でもできないながらも諦めは悪くてな。」



言いながらエラードは懐から黒い箱を取り出した。

その見覚えのある箱に目を細める。



「幽世渡りノ箱か、、、。」


「だいせーかい、この箱を使用したときの生き残れる確率はたったの50%。ただワッチ、そんな博打は打ちたくなくてな。そしたら本当にたまたま幽世ノ住人の意識をそらす方法を見つけたんだ。」


「暇人かよ。」



何をしてたらこんな危なっかしい爆弾のような道具の切り抜け方が見つかるんだよ。そんな事してないで大人しくしててくれ、頼むから、仕事したくない。



「新鮮な生き血で満たし続けるんだよ。幽世の住人がなぜ人を襲うのか?それが恨みつらみだというのはただの勘違いで実際は人の生き血を求めてたんだ。そんでその血が一定量溜まると箱が分裂、晴れて量産が可能ってわけさ。」


「・・・それでレイッツオと取引でもしてんのか。」


「あり? もうあいつと会ったのか、、、。」



先ほどまで饒舌に語っていたエラードはレイッツオの名前を出されて少し考える様に黙り出す。

余裕そうな笑みは消え、レイッツオに会ってなお重傷で済んでいる綾人に対して警戒度を引き上げていた。



「・・・この箱はな?確かに逃げるのにも便利だが別の使い方もできてな。」



言いながらエラードは箱を両手で持ち、捻るように力を加えていく。

バキンッと嫌な音を立てて箱が捻れると嫌な感覚が辺りに立ち込め始めた。



「・・・わざと暴走させる気か?」


「ケヒヒッ! 幽世ノ住人を相手にしながらお前らはワッチを追えるか!?」



ズルンッ



割れた箱の隙間から半透明の手足の長い幽霊のような存在が現れる。顔の部分は空洞になっていて表情などはないが、その異質な雰囲気に気圧される。



「フユ姉!」


「う、うん!」



俺の後ろで眼鏡をかけて隠れていたフユ姉から黒いワームが幽世ノ住人に喰らいつく。

そのワームに対して幽世ノ住人はゆらりと細い腕を前に向けると、指が軟体生物のように伸びて絡みついた。



ーーパアンッ!



「ーーえ?」



絡みつかれて少し止まったあとにワームは弾け飛ぶ。今まで簡単に敵を制圧していたワームは抵抗する隙もなく霧散した。



「ーーフユ姉!止めるな、近づかれるぞ!!」


「う、うん!」



通路を埋め尽くすように黒いワームが所狭しと殺到する。、、、が、その全てが指に絡み取られて霧散していく、物量で何とか相手が近づくことは避けられているが、異能の連続使用は負担がデカい。

相手の底が分からない以上、このままじゃジリ貧だろう。


なんとか隙間を覗き見てエラードの様子を伺ったがすでに後ろへと振り返って走り出している。

幽世ノ住人がこちらの攻撃に手一杯になっている隙を見て狙われる前に逃走に移ったのだろう。



「・・・逃がすかよ。」



ホルスターから引き抜いたR-808をこの猛攻の中、静かに構える。

目を細めてワームと指が絡みつく視界の中、一度息を吸って、、、止めた、、、。



ーーガウンッ!



引き金を引き小さな発砲音を一度だけ響かせる。

隙間を縫って銃弾はドンドンと伸びていき、エラードのふくらはぎに命中した。



「ーーがっ!」



ドタタッとエラードは転んで足を抱えて蹲る。

元々痛みに対して耐性も低そうだし時間は稼げるだろう。


俺は一度目の前の猛攻に向き直る。


能無しは一度現れてしまった異能には無力だ。

その存在に触れてかき消したりできるほど便利ではない。そもそもコイツが異能存在なのかも不確かだしな。



ただそれが内側であれば話は別。



体を作る元となる内側から能無しが発動すれば相手を瓦解できるはずだ。


俺は内ポケットから赤い銃弾を取り出してチャンバーに直接挿入。銃弾を放ち、弾が命中すると幽世ノ住人は少し動きを止めたあと存在が崩れだす。



「・・・ビンゴ。」



獣屋と作り上げた特殊弾、『能壊弾』。

俺の血肉を混ぜ合わせた気味の悪い弾だが、それは異能存在に対して特効になり得る。


異能存在は存在を崩され、異能者の体内に弾が残ればしばらくは異能を使えなくする。



「・・・絶対に世間に公表できねぇけどな。」



もし外に漏れればこれを求める人物があふれかえるだろう。生産には俺の体の一部が必要だし量産なんかできるわけないししたくない。


ほんと俺だけが使える専用弾だね。



・・・・・てかこの存在を素手で倒したハルさんは何なんだよ。


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