これから
「話ついたならそろそろ本題に入っていい?」
「「え?」」
いやいや、何で2人が驚いてんだよ。
てか、帆哭さんは聞いて(盗聴)たんだからなおのことわかるだろうが。
そもそも俺がここに何しにきたと思ってんの?
容態のチェックと彼女のことを聞くためだからね。今の所彼女の悩み相談と進路相談しかしてないから。
「そう言えばそうでしたね。・・・では手続きもありますのでチャチャっとやっちゃいましょう。」
え、この人患者の健診を適当にやろうって言った? 引くわー。
もう自分がやりたい事すんだからって投げやりになってるじゃん。
「じゃあ、・・・まず聞きたいんだけど、どうして急に倒れたのか心当たりはあるか? 眩暈がしたとか、急に心臓が苦しくなったとかそこら辺。」
俺がそうエリスに聞くと、彼女は少し考えた後頭を振った。
「いや、一気に疲れが押し寄せてきたような感じだな。頭痛と倦怠感が酷くて意識が保てなくなった。」
んー、なるほどなるほど、軽く検診を引き受けちゃったけど詳しいやり方知らなかったや。
まぁ、症状を軽く記して後で本職の方々に投げるとしよう。
「・・・だが、この症状は普通に魔力切れだと思うぞ?」
俺が症状を書き写しているとエリスは気になるようなことを言った。
それには端でキッチリ座っていた帆哭さんも興味があるのか顔を向ける。
「魔力切れ?」
「あぁ、魔力が少なくなればなるほど体に倦怠感と頭痛が現れるのだ。私が倒れる前は魔法を使って魔力を消費していただろう? 恐らくあれが契機になった。」
あぁー、確かにずっと手の平から炎を出してたからね、無駄に。
持続的にその魔力?とやらを消費していたのなら納得だ。
「ふむふむ、んでその魔力って何? 詳しく頼むわ。」
取り敢えず気になることが増えたので聞くとしよう、まだまだ長くなりそうだな。
「ん? 魔力というのは体の内に流れる力のことだ。私は目に見ることができないが確かに流れているらしい。」
「つまり中には見える方もいらっしゃるのですか?」
興味を惹かれた帆哭さんが堪らず会話に入ってきた。
「あぁ、魔女と呼ばれるもの達は見えるというな。まぁ見えない私達からすれば眉唾だが、魔法が使えている以上実際にあるのだろう。」
おぉー、すげぇーファンタスティック。
何だろう、全然知らない内容だから話を聞くだけでワクワクする。
そこでふともう一つ気になっていたことがあったのを思い出した。
「じゃあ体重が軽いのもその魔力が関係しているのか?」
俺がそう聞くと、エリスは少し目を見開いた後に再び頭を振った。
「ふむ、いつの間にか体重も調べられていたのだな。」
「あ、別に詳細な数字は聞いてないよ? 単純に軽くて心配だなって話だから。」
「いや、気にしてなどいない。ただ何処まで検査されたのか気になっただけだ。」
よかった、女性なら体重をばらされるのは嫌がられる時も多いからね。
まぁ、見た感じ華奢だし軽そうな見た目ではあるけど、剣を振っていたなら筋肉質だったりするのかな?
「そんで?」
「あぁ、それはな私の体が半分精霊種であることと関係があると思う。」
精霊・・・種?
「え、人間じゃないの?」
「半分は違う。私は精霊と人の間に生まれたハーフだ。」
俺と帆哭さんはその返答に驚愕した。
そこらへんの奴らがこんなことを言ってたらイタイ奴だけど、コイツならワンチャンあるのかもしれない。
俺はチラリと帆哭さんを見る、すると、帆哭さんもこちらを見て頷いた。
「面白いですね。では、一回バラしてみますか。」
「バラされたら死ぬだろ!?」
あ、エリスが初めて帆哭さんに突っ込んだ。
てか普通にバラす提案する帆哭さんって正気なのかな。
俺はもう一回検査してみようって提案しようとしただけなんだけどね。
え、何故かって? 頭の病気かなーって思ったからだよ。
「それで、精霊って何?」
「精霊とは、世界を作り上げた創造神 『ファルストス』様より生み出された自然的存在だ。ファルストス様は大地を想像する時、始まりの大精霊と呼ばれる存在を八体創造し、大地を造らせたとされている。私はその中の一体の娘だな。」
娘!?
子孫とかじゃないんだ!
てかすごい壮大な展開だな。
なんかもう天上の話すぎて想像がしづらすぎる、世界創造って何年まえのはなしだよ。
「・・・どうやって子供を作るのですかね?」
となりの帆哭さんからボソッと呟きが聞こえた。
確かに気になるなそれ、てか母親と父親どっちが精霊なんだろ、聞きづらいから聞かないけどね。
「つまり体重が軽いのは半分が霊体で重さがないから?」
「というより、霊体の密度が薄くなっているからだな。恐らく界渡りをした時に大分霊力を消費したらしい。魔力は霊力から生まれる、だから本来なら私が魔力を切らせることは滅多に無いのだがこの世界では霊力が回復しづらいみたいだ。」
そう言って彼女は体の調子を確かめるかのように手を閉じたり開けたりしていた。
「ん? じゃあ、しばらくすれば体重は増えるの?」
「あぁ、平均的なくらいにはなると思うぞ。この世界の平均を知らないから他の人達と同じかどうかはわからないが、違和感は少なくなると思う。」
へぇー、そんな感じなんだー。
別に問題があるような感じじゃなさそうだな、本人はよくあることと認識しているみたいだし、原因もわかってる。それなら俺たちが気にしても仕方なさそうだな。
まぁ、霊力が回復しづらいってのは気になるけど、恐らく向こうとコチラが違う世界ってのが関係してるのだろう。
・・・さて、これをどうやって柊さんに報告しようか?
助けを求めてチラリと横に座る帆哭さんへ視線を送る。
「・・・。」
だが、彼女は俺の視線にも気づかず何やら考え込んでいた。
・・・珍しいな、この人が他の人からの視線に気づかないなんて。
「・・・帆哭さん?」
俺が声をかけると、彼女はハッとした顔になり一つ咳払いをした。
「失礼、考え事をしてました。」
「珍しいですね、そんなに長く考えているの。」
「私だって気になることがあれば考え込むことはありますよ。・・・それでどうしたのですか?」
おっと、そうだった。
「柊さんにビックリ人間でしたって報告しようと思ってるのですが、どう思います?」
「馬鹿かと。では、異能の力であったと報告するとしましょう。報告は私から伝えますので名木田君は別のことをお願いします。」
「へ?・・・別の事?」
何か他にやることでもあったかな?
「ラクラットさんには貴方の家に住んでもらうことにしますので部屋の片付けでもしておいてください。」
・・・は?
「・・・はあぁぁぁぁぁ!?・・・プペッ!・・・カッハ!ゲホゲホ!」
叫んでる途中に目にも止まらぬ速さで喉を突かれた。(何で!?)
俺はあまりに唐突な痛みに両手膝を床について思いっきり咽せる。
いやまじでこの人なんでこんなに暴力的なの?
訴えても勝てるんじゃないかな、まぁ、前に一回ボロ負けしたから2度とやらないけど。
「叫ばないでください、ここを何処だと思ってるのですか?」
病院。
今すぐお世話になりそうですね(俺が)
文句を言ってやりたいのだが喉が痛すぎて声が出せない。
「・・・さて、では名木田くんの疑問にお答えしますね。まず一つ目にラクラットさんはこの現代の生活が分からないですよね? なら、わかる人と共に生活した方がいいと考えました。かと言って全くの初対面の方と生活を共にするのは別の問題が浮上しますので事情を知っている名木田くんがぴったりというわけです。」
なるほどすごく納得した。
だけどそれなら言ってくれれば良かったよね?
いや、でもエリスは女性じゃん。まぁ、すぐ斬りかかってくる奴に手なんか出さないけど、流石に不安なんじゃない?
「それに名木田くんには女性に手を出す勇気なんてないじゃないですか。仮に手を出されそうになってもラクラットさんの実力であれば斬れますよね?」
そう言って帆哭さんはエリスに視線を投げる。
あ、斬ることは確定なんだね。
視線を受けたエリスはこくりと首肯した。
「あぁ、切り落とすくらいなら可能だ。」
・・・何をですかね?
俺の頬を冷や汗がだくだく流れ落ちる。
まずい、このままだとこの切り裂き魔と一緒に生活することになってしまう。俺と家と俺の息子の命が危ない。
何とか回避する手段を!
「・・・この件が片付いたらしばらく有給あげてもいいですよ?」
「うっす!がんばります!」
ならやるっきゃねぇな!!
まじかよ、有給なんていつからとってないんだろう。
前に行きたいライブがあった時なんて有給取ろうとした瞬間、脱獄騒ぎがあって休日返上させられたしな。
しかもダラダラしてて給料も出るなんて最高じゃねえか!
「・・・ちょろ。」
「なにか言いました?」
「何も言ってないですよ。」
なんか一瞬聞こえた気がしたけど気のせいか。
てか、そう言えばエリスの意見を聞いてなくない?
こういうのって本人の意思が大事でしょ。
そう思って彼女を見ると、彼女はコチラの視線に気づき、頷く。
「あぁ、私もそうしてもらえると非常に助かる。・・・頼んでも良いか?」
あ、これは決定の流れですね。
ここで、「ふざけるな! そんな不幸顔の奴なんてごめんだ!」って言ってもらえれば帆哭さんとエリスをセットに出来たのになー。
これって残業に当たったりしない? したら最高。
エリスに上目遣い(布団の上に座ってるから必然的に)で頼まれたし、どうせ断れないなら痛い目にあわないうちに了承しよう(震)
「・・・致し方なくね。」
俺がそう言うとエリスはほっと息をついた。
まぁ、拾って来ちゃったのは俺だし面倒くらいは見ないと・・・か?
「さて、エリスさんは体調が良ければ明日には退院出来るみたいですのでその時はまた迎えに来ますね。」
「何から何まですまない。」
「いえいえ、先に恩を払っておけば後で恩が倍になって帰ってくるので。」
そう言うのは人がいないところで言うか心の中に留めておこうね、堂々と宣言するのは帆哭さんくらいだよほんと。
「あぁ、わかった。返せるように善処しよう。」
そんな帆哭さんに対してエリスは自然に返す。
思った反応が返って来て嬉しいのか少し機嫌が良さげになった帆哭さんが病室の出口へと向かった。
「ではラクラットさん、また明日。・・・名木田くんも行きますよ。」
とっとと来いって視線で促されたので俺もすごすご立ち上がり帆哭さんの後に続く。
「んじゃ。」
俺はそう一言言ってから帆哭さんについて行くのだった。
ーー
陽が沈み始め、人通りが少なくなった橋の上を俺と帆哭さんで並びながら歩いていた。
柊さんに2人で何とか誤魔化しながらエリスのことを報告し、俺はそのまま帰ろうとしたのだが、帆哭さんに首根っこを掴まれたのでそのまま一度事務所に顔を出すことになった。
でもそれならタクシーで帰っても良かったんじゃない?
何でわざわざ歩いてるのだろう。もう疲れたから早く休みたいんだけどなー。
ポケットに両手を突っ込み、あくびを噛み殺しながら歩き続け、前を歩いている帆哭さんに声をかけた。
「それで? あいつに俺をつけたってことはグリーンパイソンの連中は目的を達していたって受け取っていいんですよね?」
俺が今までの会話から感じ取ったことを指摘すると、帆哭さんは立ち止まり呆れた半目をこちらに向ける。
「・・・。相変わらず鋭いですね、普段からもう少しその感じを出してください。」
いや、俺的には普段からキッチリしてるつもりなんだけど・・・。
てか歩いて帰ってる理由だって帰りがけに話をするためでしょ?
帆哭さんはため息を吐きながら歩き出す。
「全く、盗聴器の存在だって気づいていたくせに何なのですか? あの下手な演技は。」
いやいや、気づいてなかったわ。
だからゲームショップ行ったりして須木原さんに金を取られることになったんだからさ。
「まぁいいです、いつものことですから。・・・では、先ほどの問いへの答えはYESです。」
帆哭さんはこちらに視線を向けることなく歩きながら続ける。
「連中の目的は『局所的破壊現象』、それは収集班から得た情報通りでした。ロット兄弟の逮捕した後、私と佐山くんで現場を調べた結果、彼らが得ようとしていたのは異界の上位存在の召喚だと言う実にオカルトめいた目的だったことがわかりました。」
予想通りの結果に俺は厄介ごとの雰囲気を感じ、顔を顰める。
「あー、てことは連中の目的は上位存在を媒介とした高密度エネルギーを利用することかな。なら、クラリスが召喚されたのは半分が精霊であり上位存在の為か? だから召喚の条件に抵触したと考えると、彼女は奴らに今後狙われる可能性が高い、・・・っていう認識であってます?」
「・・・合っています。」
そこまで俺が指摘すると帆哭さんは再びため息を吐いた。幸せ逃げるよ?
夕方のため仕事帰りの車が多いのか多くの車が通り過ぎる。
集中して話を聞かないと聞き逃しそうだ。
「でも何で俺なんです? 護衛だったら適任が他にいるじゃないですか。」
「それは、こちら側の生活を名木田くんに教えてもらいたいからですよ。」
・・・何で?
「何でですか?」
思ったことをそのまま口に出して聞いた。
すると、帆哭さんはようやく立ち止まり体ごとこちらへ向けた。
こちらの目をまっすぐに見つめる吸い込まれそうなほど澄んだ紫色の瞳に俺は目が逸らせなくなる。
「今の彼女に必要な人間は優しい人でも強い人でもありません、ずる賢い人間です。・・・わかりましたか?」
貴女が俺をどう思ってるのかがわかりました。
ズルくないわ、環境に適応しようと頑張ってるだけだわ。
「環境に馴染む為には名木田くんが最適なのですよ。」
「人に何かを教えたり導いたりするのに俺は向いてませんよ。」
「結果がどうなったかは出てみないとわかりません。その時どうするのかの選択はいつだって博打ですよ。」
その発言に俺は苦笑した。
「貴女は徹底的に石橋を叩いて渡るタイプでしょうが。」
「いいえ違います。石橋の基礎組みや図面、石工の素性や人柄に仕入れ先まで全て調べ上げるタイプですね。」
徹底的。
そりゃあ、行動に迷いがないわけですね。
帆哭さんはそれだけ言うと振り返って再び歩き出す。
紫色のたなびく長髪が夕陽と相まってキラキラしてるな。
「ですが、それだけ調べてもいつだって予想外は起きるわけです。ですので私が信頼を置くのは臨機応変に対応できる人物ですよ。」
「・・・お眼鏡には適ってます?」
「ふふっ、どうでしょうね。」
軽く笑い声が聞こえた気がするが車通りの多さと前を向いて先を歩いている帆哭さんの表情はわからない。
まぁ、あの人が俺に対して笑いかけるときなんて俺を虐める時だけだろうから気のせいだろうな。
・・・明日からも面倒な日々が続きそうだ。
俺はそんなことを思いながら帆哭さんの後をついて行くのだった。