首取り
「・・・初めまして、ではなかったね? 対策局の青年。」
「首取り、レイッツオ、、、。」
片目にモノクルをかけた紳士のようにスーツとトレンチコートを着こなした壮年の男性。
綺麗に整えられた白髪と、柔らかい人好きするような笑みが印象的だが、俺は知ってる。こいつは常軌を逸した異常者だと、、、。
「この城がまだ健在だということは、やはり彼女は来ていないのですね。・・・非常に助かります、蘇生の算段は今回ついていませんから。」
「・・・やっぱり前回は追跡を断つために一度死んだのか。」
「わざとではありませんよ? 出来れば強き者の首も欲しかったですから。万が一の保険が効いて良かったといった所です。」
明らかに変なことを彼は胸に手を当てながら優しく微笑みながら言う。
俺は冷や汗を流しながらフユ姉を庇うように前に立つ。
正直、予想できていなかった。
よりによってコイツがここにいるなんて、、、。
「くくっ、レディを守るために前に立つ、なんと美しい、、、。気高き心、その考えを司る美味をぜひとも味わってみたいところです。」
「やる気か?」
「・・・やる気? あぁ、まぁ気分は上向きですね。ただ私は今雇われの身、私の感情のまま動いてよいものか、、、。」
レイッツオはいつの間にか片手に持っていた鉈をくるくる回しながら悩ましげに上を向いて思考をまとめている。
その間に俺は背後のフユ姉にそっと声をかけた。
「(フユ姉、今から反対に向かって逃げてくれ。フユ姉ならここから逃げることもできるだろ。)」
「(え、で、できるけど、わ、私も戦えるよ?)」
「(絶対に駄目だ。こいつの異能は危険すぎる、よほど力量差がない限り相手しちゃいけない。)」
ウチの班長のように明らかな化け物か、俺のように無効化できないとただのかすり傷が致命の一撃になる可能性が高いのだ。
そんな奴の相手をフユ姉にさせるわけにはいかない。
「さて、作戦会議は終わったかな? とりあえず仕事の延長で首をもらうことにしたよ。楽しみだ。」
「そこはかとなくキモいなお前、紳士っぽいのは見た目だけかよ。」
「紳士を意識したことはないですね。」
ダンッ!
レイッツオは鋭い踏み込みで斬り込んでくる。
何とか相手の鉈に与罸を合わせて防いだが、ミシミシッと身体が軋むような嫌な音を立てた。
片手のくせになんて力してんだよ!?
「あ、綾人くん!」
「来るな!」
レイッツオはギャリンッ!と金属音を立てながら鉈を滑らせて器用に持ち替えながらフユ姉に向かって斬り上げる。
俺は鉈の側面を蹴りつけて軌道を逸らしたが、相手は弾かれた反動を利用しながら体を回し、頭の側面を蹴り抜いてきた。
「ぐっ!」
「チェック。」
ザクッ
腕の辺りを鉈で斬りつけられた。
その痛みを我慢しながら与罸を持ち直して切先を突きこむ。しかし相手は体を開いて簡単に躱し、そのまま鉈を振り上げてきて今度は肩を裂かれた。
「ーーいってぇ。」
「あ、そう言えば君、確か能無しでしたね? ではこれだけでは死にませんか。」
「クソ痛えし、死にそうだよ!」
与罸の柄の先を握って捻りながら引き抜くと、ワイヤーが伸びた。
先端が分銅代わりの重しになっていてブンブンと振り回しながら投げつける。
「・・・長い?」
「剣だからな。」
分銅に気を取られたレイッツオに与罸を振るう。
しかしその刃は体を反らされ軽くかわされる。後ろに目でも付いてるんじゃないかという視野の広さで躱されたが引き戻したワイヤーで相手の腕を絡み取ることに成功した。
「ーー!」
グッと与罸を引くと、レイッツオの巻き付かれた腕から血が垂れる。
「・・・なるほど、ワイヤーから返しが広がり肉に食い込むのですか。中々悪質ですね。」
「だったら痛そうな反応くらいしてくれないか?」
「あぁ、ものすごく痛いですよ? これで巻き付かれれば動きたくなくなります。」
と、言いながらレイッツオは笑みを浮かべながらこちらに向かって走りだす。
俺は焦りながら鎖を引くと、レイッツオの腕からさらに血が溢れる。しかしそれに汗一つ浮かべずレイッツオはいつの間にか左手に持ち直していた鉈を振り被った。
それを刃で受け止めワイヤーを肘で押し引き、相手の体勢を崩す、返す刃で斬りつけたがその刃は硬質な何かを斬りつけたようにガインッと弾かれる。
「『状態保存』の異能、しかもパッシブじゃなくてマニュアル操作かよ。」
「おや?知らなかったので? くくっ、勝手に発動しないと不意を突かれて怪我しますが、意識していれば問題ありません、変わらないものに刃は通じませんから。・・・ただ、この状態では血が止まらないのが難儀ですが。」
言いながらレイッツオは血がだくだく溢れている腕を持ち上げる。
無茶な動きをした影響で返しはさらに肉を抉り、深く食い込んでいた。もはやあれでは外すのにすら激痛が伴う。
・・・はずなのに
「痛みがないのか?」
「ありますよ、ただ痛いからなんですか? あなたは手加減してくれますか?見逃してくれますか?」
「・・・しないな。」
「でしょう?」
レイッツオはワイヤーを掴んで無理やり引っ張って外す。腕は真っ赤に染まっているが彼は軽く腕を振るだけでにこやかな笑みを絶やさない。
ただ俺はその仕草に違和感を覚えた。
腕を振るったはずなのに血が飛ばない。
「状態保存か、、、。」
「御名答、血を止めました。もし君に無効化の異能がなければその傷は私が解かない限り永遠と塞がらない傷にできるのだけどね。」
俺は背中に伝う嫌な汗に頬を引きつらせる。
そう、彼の異能の一番恐ろしいところはそこだ。
レイッツオの異能は他者にも影響を与える。そのため少しの切傷でもつけられればいくら包帯を巻いてもそのケガは自然治癒せず、常に血があふれ出る。
要は少しの傷でも血が止まらず失血死する可能性があるのだ。
そしてレイッツオはさらに失血の速度を速めるために深手を負わせやく、首を落としやすい鉈を標準装備にしている。
「かすり傷程度では死に至るまでそれなりの時間を要します。しかし、今の君の傷なら私の異能がなくとも失血死しそうだ。」
「・・・舐めんなよ?」
強がってはみても彼の言う通り、傷は深くだんだんと寒気を感じてきた。傷口は常に殴られてるかのように痛むし頭痛も酷い、もうこのまま気絶してしまいたいくらいだ。
「強がりを、もはや戦闘に集中できていませんでしょう?」
「だったらなんだ? お前は手加減してくれるのか? 見逃してくれるのか?」
強がりの笑みを浮かべながら言い捨てると、レイッツオは驚いたように目を見開き、同じ様に笑みを浮かべる。
「クッ!クククッ、クハハハハハッ!! 最高ですね!えぇえぇ、貴方の言う通り見逃したりはしません。・・・お名前を聞いても?」
「あ? 何だ急に、、、。名木田 綾人、お前らのせいでこき使われてる社畜だよ。」
「これはこれは、ご迷惑をおかけしています。これからもよしなに、、、!」
ドンッ!
先ほどよりも鋭くレイッツオは走り出し、鉈に全体重を乗せるように軽く跳びながら鉈を振りかぶる。
首の後ろがビリビリと痺れ、嫌な予感のままに横に跳んだ。
振り下ろされた鉈は床を砕いて下の階まで崩れ落ちる。
「ーーっどんな力だよ!?」
「鍛錬の賜物です。」
下の階に落ちながら転がり与罸を構える。
横薙ぎに振り切り落ちてきたレイッツオを狙うが後ろへとくるりと回ってかわされてしまう。
「ざんね、、、おや?」
ビュオンッ!
振り切った与罸をそのまま手放し、ワイヤーを引っ張って相手の眼前に刃を持ってくる。その刃の背を蹴りつけ、相手の体を押しつけ、またワイヤーを引いた。
ーーズバンっ!
「ーーっこれはなかなか!」
レイッツオは血を撒き散らしながらたたらを踏む。
俺は逃がすまいと近づき、顔面に向かって拳を振りかぶった。
ズガンッと鈍い音を響かせながらレイッツオを床にめり込ませる。しかし手応えは硬く、防がれたと察した俺はすぐさま後退。
だが、逃げ際に振られた鉈に足を斬られる。
「お愛顧ですね?」
「・・・その薄ら笑い、いい加減捨てさせてやるよ!」
斬られた足を無視して踏み込み、血を散らしながら与罸を握りしめた。
この剣のワイヤーの返しは任意の場所に展開できる。普段は閉じているのでワイヤーを持っても問題ないが、それを今回は全体に展開。
ムチのようにふるうだけで当たっただけで肉が抉れる凶器と化す。
「ムチとは、扱いづらいものを?」
「ちげえよ馬鹿。」
ガキンッ!
しかし目的はレイッツオに攻撃を当てることじゃない。振り回したワイヤーに引っ掛った不自然な配置にあった電飾を引くと、ガコッと音がして両脇から壁が動き出す。
「なるほど、私に会うまでに罠の傾向と特徴を理解していたのですか。」
「お前はお前で察しが良すぎて気持ち悪いわ。」
勢いよく閉じられた壁にレイッツオは挟まれる。
無言で注意深く様子を確認していると壁が閉じ切られていないことに気づく。
「言ったはずですよ、予告のある攻撃では私は倒せません。」
「知ってるよ。だけど、今は異能を使って体の状態を固定して潰れないようにしてるだけだ。その状態で動けるのか?」
言われたレイッツオは目を見開いたあと、楽しそうに笑う。
「これはこれは、一本取られましたね。」
「どれだけ保たせられるか見ものだな。」
バチンッ!
先ほど返しのついたワイヤーを振り回して細かく木屑と破片が宙に舞っている。軽く積もった屑に向かってライターを投げると火は途端に燃え広がった。
その火はレイッツオを取り囲み、燃え広がって退路を塞ぐ。
「・・・城ごと落ちますよ?」
「そんな簡単に落とせる構造じゃねぇだろ。壁の奥には鉄板が貼ってやがるしいつでもきり離せるんだろ?」
木製にしてはいやに頑丈だし下手な攻撃じゃびくともしない。
それにこんな手の込んだ城がただのハリボテとも思えないしな。
「ククッ、徹底してますね。でもこの状態ではあなたも逃げられないのでは?」
「お前と違って一人じゃないんでな。」
同じく退路を火に囲まれていた俺を、上から降ってきたワームによって床ごと食い破られる。
流れるようにワームは下へと落ちていき、その体躯に乗っていた眼鏡をかけた少女と目が合った。
「・・・なるほど、認識阻害ですか。言われてみればいつの間にかあの少女がいた事を覚えていない。上手くやられたものです。」
レイッツオは楽しそうに笑いながら燃え広がる火に包まれていくのだった。
ーーー
綾人がレイッツオと死闘を繰り広げる少し前、、、。
「・・・やはりわからん、この凄惨な現場を作る理由は何だ?」
「量産部屋、名の通り何かを量産するのに必要な手順である可能性が高いです。それでその何かが、、、」
「幽世渡りノ箱であれば目的は達せられると。」
「そういう事です。」
部屋の中にいた警備という名のチンピラを全員こてんぱんにし、その骸(死んでない)の上で2人は頭を悩ませる。
今何に困っているかと言うと、それらしい部屋を見つけられたのに肝心の黒い小さな箱は見つかっていない。ここはまるっきり関係ないのか隠されているのか、、、未だその答えを見つけられないでいた。
「・・・その、死体の中に埋められてるとかはない、のか?」
言ってはみたが声音には否定して欲しいという願いを込めてしまう。
副班長は目を細めてジッと胴体だけの死体を見たあと首を振った。
「脳がないので死んでるのと同じですが、状態保存によってあの肉体は生かされています。押し込むと肉体が損傷しますので生命機能が停止するかもしれません。それでは本末転倒だと思います、それにどちらかと言うとメインは、、、」
言いながら副班長は血が溜まった池を覗く。
「首を取って栄養がなくなるまで血を作らせて池に貯める。その血にも状態保存を掛けて腐敗を防ぎ、常に新鮮な血液をキープしているのですか、、、。」
「そこまでするのか?」
「理由があるということですよ、そしてその理由が、」
副班長は突然血の池に手を突っ込んで何かを探り出す。躊躇なく誰のかも分からない血液に手を突っ込めるのは勇気があるな、いやなんか本能的に忌避感があるだけで戦場で触る機会はよくあるがな?
「これですか。」
血の池から小さな黒い箱を取り出して副班長はため息をつく。何処かで見たことのあるその箱が何なのか、教えられなくても察しがついた。
「それが幽世渡りノ箱か。」
「えぇ、なぜ血に浸されているのかは私もわかりません。おそらく増やすか、生存確率を上げる意味があるのでしょう。・・・できればそこまで聞き出したいですね。」
すると、ガコンッと音がして奥の扉が開かれる。
両開きのドアが自動に開き、まるで誘いこむように口を開けた。
「・・・ジャミングはされてるはず、電子機器に頼らず私たちの居場所を把握する術を持たれてるようですね。」
疲れたように息をつきながら副班長殿は部屋に向かって歩き出す。
私は慌てたようにあとにつき、「良いのか?」と顔をのぞき込んだ。
「いいです、どうせ把握されてるなら術中にはまってみましょう。リスクを超えなければ何時だって答えに辿り着けません。」
その目に迷いはない。何が来ても乗り越えるという強い意志を感じさせた。
私は同じように前を向いて覚悟を決める。
先ほどは醜態を晒した、あの雪辱は必ず果たしてやると心に決めて、、、




