量産部屋
「・・・通信が途絶えましたね。」
ある程度座って休息を取ると、だいぶ体の調子が戻ってきた。水分を補給しながら手を閉じたり開いたりしていると壁に背を預けて端末を確認していた副班長はそう呟く。
「綾人と連絡が取れないと言うことか?」
「えぇ、、、。ですが、はじめに送ったメッセージはちゃんと既読がつきましたのであの放送に惑わされることはないはずです。」
「・・・相当ムカついたがな。」
だが言いかえればエラードはまだ私が逃げ出したことに気付いてないとも捉えられる。ならば助けに来ると踏んでいる内に情報を集めるべきか。
「うむ、もう大丈夫だろう。すまん、迷惑をかけた。」
「いえ、戦力は一人でも多いほうがいいですから。では、エラードのことは後回しに私達は幽世渡りノ箱の量産現場を押さえましょう。」
「わかった。」
やることは決まり、牢から出て上に向かう。
他の牢には人は入っておらず、かわりにボコボコにのされたチンピラたちが投げ込まれていた。
「・・・ちなみに副班長殿は別れたあとどうなったのだ?」
「手錠をつけられ地下に連れて行かれましたのでその場で反抗しました。相手をつぶして壁に叩きつけ、そのまま地下牢まで追い込みまとめてのばした感じですね。」
・・・あ、地下牢に連れてこられたと言うより、ここに追い詰めたのか。
要はゴミ捨て、、、溜まり場というやつだな。
「ところで幽世渡りノ箱がある場所は知っておるのか?」
「虱潰しに移動してある程度は把握しました。ただやはり警備の固い場所は調べられていません。その候補を探っていきましょう。」
副班長を先頭にできるだけ足音を消しながら走る。
あの短い時間で候補を調べられるとは凄まじいな、それに比べて、私は、、、うぅ、、、。
「止まってください。」
すると突然、副班長が立ち止まる。
何かあるのかと同じように前を覗くが先ほどまで走っていた廊下が続くだけで違和感は見当たらなかった。
「・・・?」
「よく見てください。少し壁に溝があるのが分かりますか? ちょっとした区切りのように壁の線や突起が見えたらセンサーがある可能性が高いです。」
言いながら副班長はエリスの背に触れて向こう側へと移動する。あっさりと罠を抜けたことに驚きながらも、急ぐ必要があるので立ち止まることはできない。
ーーカチッ
「・・・ちっ、人の手で発動できる罠もありますか。」
どこからか音がするのと同時に廊下ごと下へと下がり始める。どういう仕掛けだ!?
ただこういう移動系の罠であっても副班長には関係ないはずだ。そう思ったのだが、副班長は特に移動はせずに無言で下へ移動する廊下で立ち止まる。
すると、廊下は下の階にある途切れた別の廊下と繋がった。
そこには壁のレバーに手をかけたアーミーパンツにタンクトップの筋肉質の男性が鉄パイプを持って待ち構えている。
男はこちらを睨みながら裂けた口を開いた。
「・・・女が2匹、量産部屋の奴らが逃げ出したか? それとも対策局か、、、。」
「ハザードファミリー幹部、グルゴー・ロッドハック。異能法違反及び強盗致死、罪状を挙げればキリがない犯罪者ですね。」
名を挙げられたグルゴーはさらに目を細くし、鉄パイプを持って腰を低くした。
「対策局か、もうこんな所まで来てるとはな、、、。まぁいい、とっ捕まえてエラード様に渡してやる。」
「やってみてください。」
相手が言い切ると同時に副班長は相手の背後に姿を現す。いつの間にか手に忍ばせいた小さな包丁、、、(ん? キッチンにも一度行ったのか?) を振りかぶって首を狙う。
しかしその包丁は相手の首元にたどり着く前にどろりと溶け落ちた。
そのまま柄が燃えそうだったので包丁を手放し、副班長は自分の隣に戻ってくる。
「・・・熱膜。鉄を溶解するほどの高温も纏えるのですね。」
「御名答、俺には刃物は効かん。」
グルゴーは鉄パイプを持ってこちらに向かってくる。
そのまま大きく振り下ろされたパイプを私は前に出て手元に喚び出した剣で受け止めた。
「ーーんな!?」
「・・・え? 溶けないのですか?」
「溶けんが?」
熱膜は手に持ってる物にまで作用するのか鉄パイプの周りは熱で景色が歪んでる。本来なら剣なんて簡単に溶かすほどの熱が込められているはずなのに、その剣を受け止められてグルゴーは大きく目を見開いていた。
「悪いが熱は私も得意分野でな!!」
剣を傾け、鉄パイプを逸らし相手の体勢を崩す。
そこから剣に炎を纏わせて胴体を狙った一閃を放つ。
「ーーっち!」
グルゴーは腰を抜かしたように後ろへと倒れて何とか刃を回避した。しかし避けきれず、腹部に傷を負う。
「ーーっ! 熱膜も意味をなさないとかどういうことだよ!」
「質が違うのではないか?」
そもそもエリスの剣は鉄等の鉱物から作られたものではない。霊子で象られた剣に溶けるという概念がまず存在しておらず、熱に関してはエリスの親となる精霊が起因していた。
要は彼女の言う通り、質が違うのだ。
「・・・ところで副班長殿、こやつは殺してよいのか?」
「そうですね、不慮の事故ということにしましょうか。」
「承知した、誉火!」
鮮やかな炎が剣に纏わりつく。
後ろから小さく「・・・ガス欠しないで下さいよ?」との声が聞こえ、冷や汗を背中に流しながらも何とかバレないように不敵な笑みを浮かべた。
グルゴーはその炎に恐怖したように後退る。
「ま、まて、わかった、降参だ。情報を話すから許してくれないか?」
「ふむ? 抜いた剣を納めるにはどちらかの血で賄わないとな?」
「か、勘弁してくれ! こ、この通りだ、許してくれ!」
恥も外聞も捨て、グルゴーは頭を床につけて許しを請う。グルゴーは対人戦が苦手な訳では無い、だが熱膜を物ともせず、更に振るわれた一閃を躱せたのがほぼ運だという事実に勝機を見出せないのだ。
「・・・では案内していただけますか? 貴方が先ほど言っていた量産部屋とやらに。」
腰を抜かしている相手の前に副班長はしゃがみ込んで顔をのぞき込む。グルゴーは顔を青褪めさせながらコクリと頷いたのだった。
ーーー
「いたぞ!あそこだ!」
「追い詰めろ!」
どんどん増えていく追っ手にため息をつきながら前に見える黒いワイヤーを斬り裂く。
元々ワイヤーはそれだけで勢いよくぶつかれば胴体がおさらばするくらい細かったが、切ったら天井が降ってくるおまけ付き。
しかしおかげで追っ手は振り払えた。
部下にすら罠の位置を教えてないとか吐き気がするね。
ーーガバッ
開かれた床に落ちる直前でめり込むくらい足に力を入れて飛び越える。その際にフユ姉を抱えることを忘れない、忘れて怪我でもさせたらハルさんに殺されそうだ。
「・・・はぁー、きっつ。てか罠の配置が不規則すぎるだろ。これじゃあ罠を配置した当人以外誰も安心して歩けないぞ?」
「たぶん、知ってるのはエラードだけ。こ、この城を作った人達はまとめて殺されたはずだから。」
「・・・・・本当に腐った野郎だ。」
どこまで人を信用していないんだ?
だがそれでも構成員全員に罠の配置を教えてないとは思えない。限られた少数、例えば幹部クラスなら、、、。
「どわはははは! 見つけたぞ害虫が!」
そんな事を考えていると奥から金歯を光らせたやけにガタイの言い大男が両手に斧を持って走ってくる。
・・・あれ、なんかあいつ見覚えあるな。
ただ帆哭さんほど物覚えがいいわけではないので全く思い出せないけどね。
「く、工藤タボッカ、ハザードの幹部。」
「・・・タボッカ? あー、昔金歯入れてもらったのにすぐ抜けたとか言って歯科医を半殺しにいた奴がいたなー。」
確か異能は、、、糖分チェックとか何とかしょうもないヤツだった気がする。
「てめぇを殺してフォレノワールで今日は締めだな!」
「・・・フォレ、なに?」
「け、ケーキ?」
この見た目で甘党なのかこいつ、、、まぁ好みなんて人それぞれだからいいけどさ、、、。
剛腕から振るわれる斧の破壊力は高く、両手の斧を交互に振りながら迫ってくる。
・・・なんか虫が這ってくるみたいな動きだな。
と、冗談めかしに考えるが破壊力は馬鹿にならない。
簡単に床を割り砕きながら迫り続け、振動で足元が覚束ないが俺は与罸を手に持ち、笑みを浮かべながら構えた。
「さ、復帰戦といこ「食べるね。」、、、へ?」
ーーバグンッ!
せっかく武器を構えて戦闘態勢をとったのにフユ姉が手を翳すと、現れたワームが一瞬で通路にいたハザード共をまとめて喰らう。
後には構えを取った格好で固まる間抜けな俺だけが残された。
・・・なんかさ、定期的にテンプレ外されるのはなんなの? ここは俺が久しぶりに手に取った剣で活躍する場面じゃない?
「あ、あれ? よ、余計だった?」
「・・・・・んにゃことないよ。」
どことなくやるせない気持ちを隠しながら、歩こうとすると背後から足音が聞こえてくる。
いつの間に後ろに?
「不完全燃焼ならぜひお相手如何かな?」
「・・・・・お前は」
振り向いた背後にいた予想外の人物に俺は大きく目を見開いたのだった。
ーーー
ガコンッガコンッ!
先ほどから壁を押すと階段や通路が現れたりする、本当にダンジョンのような城をグルゴーに案内してもらっているのだが、、、
「まだ着かんのか?」
「ま、待ってくれよ、一歩間違えれば俺たちだって危ういんだ、おとなしくついてきてくれ。」
「わかりました、ただ長引けば長引くほど貴方の命が私達によって危険にさらされることもお忘れなく。」
「・・・くっそ!」
うむ、サラリと脅しを入れられる副班長殿はやはり怖いな!
グルゴーは何とか慌てないようにしっかり壁の木目とかを確認しながら、何やら仕掛けを操作している。
その怯えたような様子には少し同情するが、誰の味方かと言われればもちろん副班長の味方だ。
実際に私たちはどこに案内されているか分からない。
適当に時間を稼がれたり、罠に案内される可能性だってゼロじゃないのだ。
副班長殿の気が急くのもわかる。
「・・・とりあえず誉火で背中を炙っておけばよいか?」
「いいですね、では私はそこに塩を塗ります。」
「鬼かよお前ら!わ、わかってるって、本当に案内してるから!」
最初の強気な態度はどこいったのかというほどおっかなびっくりしながら進ませると、グルゴーはある部屋の前で凄く苦い顔をして立ち止まった。
「・・・ここが量産部屋ですか?」
「・・・・・・・・あ、あぁ、念のために一つ言わせてくれ、俺はただエラード様に拾われただけでこれに関与はしてないからな?」
どこか言い訳がましい事を言うグルゴーを無視して副班長はドアを空ける。私も後から部屋を覗き込み、その光景に思わず固唾を飲んだ。
その部屋では、頭をなくした男女の遺体が首から血液を滴らせながら血のプールに浸かっていた。
元々部屋に近づいて行ってる段階で僅かな血臭は感じていた。しかし、こんな凄惨な現場が現れるとは思っておらず、思わず口を手で覆ってしまう。
そしてちらりと横を見ると、副班長は目を強く細め、何かに怒るかのように手を握りしめている。
「お、おい! 貴様らどこからきた!」
遠くの方からこの部屋の管理でも任されてるのかチンピラ達が慌てたように近づいてくる。
グルゴーはすでに案内を終えたからか私たちから離れて逃げていた。
このままでは囲まれると思ったが、副班長はまるで遠くから迫る声に気づいてないかのように静かな、、、しかし深い怒気を感じさせる声音で呟く、、、
「ここで関与してきますか、首取り、、、!」




