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異世界少女と無能の現代異生活  作者: たんぽぽ3号


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底のない沼



ーーガチャッ



「・・・出てこい。」



部屋のドアが開かれ、金髪の男が顔を出す。

近づいてくる気配は感じていたので副班長の隣に移動し、さも不安で怯えてるように腕を軽く抱えていた。


副班長は安心させるような笑みを浮かべて自分の顔をのぞき込む。



「いくよ、エリス。」



・・・・・わ、笑うな、笑ったら駄目だぞ。



普段からは想像できないような優しい笑みに少し吹き出しそうになるのをこらえながら副班長と一緒に立ち上がる。


相手はうまく騙されてくれているのかニヤニヤとした笑み浮かべながら副班長の腕を掴んだ。



・・・殺されるぞ!?



「わりぃが姉ちゃんは俺と来てもらう。もう一人のガキはコイツに付いて行け。」


「え、別なのですか!?」


「はっ、いつか機会があればまた会えるぜ。」



金髪の男は副班長の腕を引いて自分と引き剥がす。

副班長は特に抵抗もしないでこちらを不安そうに見ながら部屋を出て行った。



・・・すごい演技力だな。



「・・・来い。」



残された帽子を被った細身の青年は鋭い金色の目でこちらを睨みながら歩き出す。

おいて行かれないように慌てて後を追い、少し間を空けて後ろについた。


それにしても廊下は木造なんだな。


外から見た時も思ったが、資料で見たことのある古風な城のような外見をしていた、再現しているのか?


周りをキョロキョロ見渡しているのを不安からの行動だと勘違いしたのか青年は少し振り向いて舌打ちする。



「・・・あの女にはもう会えないと思ったほうがいい。」


「・・・え、ど、どういう、ことですか。」



・・・危ない危ない、ついいつもの口調で話しそうになるな。


と言うか会えない?



「・・・・・。」



男はそれ以上答えず無言になって歩いた。


なんとなく想像はできる。つまりそういうことだろう。だがそれなら自分はどこに連れて行かれるのだ?


とりあえずはぐれないように不安そうに俯きながら付いていくと、、、エレベーターを青年が呼び出して気絶しそうになる。



・・・うぇ!?乗りたくないのだが!?



何でこんな趣ある建物にエレベーター何かがあるのだ! まだ苦手を克服できてないのに!


青年は先に乗ってボタンの前で乗ってこない自分に首を傾げている。

一度息を呑んで、小刻みに震えながら意を決してエレベーターに飛び乗った。


飛び乗ってすぐに端の方に寄り、壁に体を預ける。



「・・・そんなに怖がらなくても平気だ。お前は運がいい、丁度前任の可愛い担当がいなくなったからな。」



か、可愛い担当ってなんだ? 凄まじく鳥肌が立つのだが、、、?


思わず腕を擦り、ドン引きしているとどこか同情したような目を向けられる。



「・・・別に反抗しなければいい生活できる。」



・・・なんかやけに優しいな?


思えば最初からこいつはどこかハザードに嫌気が差してるかのような話し方をしている。


ふむ、だが今は自分も潜入してる身だ。安易な声掛けはリスクがある、、、と綾人が言っていた気もするし、何も言わないでおこう。


でも、そうだな、言えるとしたら一言だけ、、、。



「・・・ありがとう。」



ポツリと短く感謝の言葉を口に出した。

すると青年は驚いたように目を見開いて振り向き、見つめてくる。若干の焦りを感じるが、特に疑われることなく青年は前に向き直った。


ホッと息を漏らすとエレベーターは目的の階に到着したようだ。


開かれたドアの向こうにはやけに広い廊下が一直線に伸びており、その両脇を青い篝火が照らしている。



「・・・真っすぐ行けばエラード様に会える。」



青年はそれだけ言うとエレベーターに乗ったままドアを閉めた。


残された自分は一度深く息を吸って前を睨みつける。



・・・まさかいきなり敵の首魁と相まみえることになるとは思わなかったが、むしろチャンスだ。この機会を逃すわけにはいかない。


下では恐らく幽世渡りノ箱の製造場所を副班長が探しているはず。

私は少しでも情報を手に入れてグリーンパイソンとの繋がりや目的を暴いてやる。



覚悟を決めて、巨大な扉に手をかけた。


手をかけ、、、手をか、、、重くないか?



まさかの足止めに困惑していると、ゴゴゴッと引き摺るような音を立てながら扉が開かれていく。

何かダンジョンの扉みたいだな。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



その部屋は謎にピンクの明かりに照らされ、謎の甘い香りがする。


光を反射する金や銀の財宝が棚や机に並べられ、真ん中には大きなソファが備え付けてある。

奥には小さなドアもあるが、まずは目の前のソファに座る人物が目についた。



鈍く光る金歯に剃り込まれたツーブロックを後ろに纏めている。無駄に豪奢なジャケットを身に着けているが、腹が大きく出ているので前は閉められていない。



「ケヒヒッ! なるほどなぁ、相当上玉を捕まえたと言っていたが、想像以上だ。」


「わぁ、可愛い子ー。」


「人形みたいねー。」



エラードは両脇に二人の女性を侍らせている。

1人は薄着のランジェリーを着ていて、もう一人はメイドのような服を着ていた。


そのどちらも顔立ちが整っていて美人と言われる部類だと理解できる。つまり彼女たちはエラードのお眼鏡に叶ったお気に入りか、、、。



面食らったように立ち竦み、扉の前で固まっていると、エラードは長い舌で唇を舐めながら宝石があしらわれたゴツい指輪がついた手で手招きをする。



「怖がらなくていい、ほら近くに来い。立ってても疲れるだろう?」



言われてゆっくりとエラードに向かって歩いていく。

ふかふかの絨毯を踏みしめながら広い部屋の真ん中までさしかかると、エラードに止まるよう手で示された。



・・・というかこれで情報得られるのか?



「よしよし、お前らは奥の部屋に行ってろ。あとでワッチも行く。」



エラードはそう言って両脇の女性に合図をし、二人の奥の部屋へと向かわせた。そしてこの部屋には自分とエラードの二人だけが残る。


嫌な鈍い雰囲気に冷や汗を流しながら相手を観察していると、エラードは腕を組んで目を細めた。



「・・・ケヒッ、対策局の駒にしておくには勿体ないな。」



その一言にブワッと怖気が走り、距離を取るように飛び退った。思わず背後の扉を触ったが、先ほどよりもはるかに重く閉められている。



「・・・貴様。」


「貴様? 口の利き方がなってない嬢ちゃんだな。どうも対策局は教育が疎かなようだ。」


「何故、私が対策局だと、、、?」



震えないよう意識しながら何とか問いかけると、エラードは「ん?」と不思議そうな声を漏らす。



「何故も何もお嬢さんの姿はすでに知っている。そりゃそうだろ、お前さんはワッチのバックに付いてる方達と敵対してるのだからなぁ。」



言いながらエラードは笑みを浮かべながら顎をさすった。


なるほど、つまりコイツはすでにグリーンパイソンから私の情報を得ていたということか、、、。


簡単に予想できそうな事が思いつかなかった自分に思わず歯噛みする。



「やはりグリーンパイソンと繋がっているのか。」


「あぁ、良い取引をさせてもらっている。実は近々対策局の面々がこの街に来るだろうって言われててな? その時に写真を見せてもらったんだよ。あの紫髪の美人さんもいいが、儂はお前のことが気に入ってな、わざわざここまで来てもらったんだ。」



エラードの言い分から私達が誘い込まれたという事を理解する。そして理解したと同時に下に連れて行かれた副班長殿は無事なのか?と言う不安が湧き上がった。


やすやすと分断されたのは悪手だったかも知れん、、、。


手の中に剣の柄のみを顕現させ、背中に隠しながらいつでも振り抜けるようにする。



「そう警戒しなくていいぞぉ、お前さんは運がいぃ。ちょっとワッチのご機嫌をとって愛でられていれば不自由のない生活ができるのだからな。」


「・・・私は今を不自由などと感じていない。」


「ケヒッ! まだ日が浅いのかよっぽどな甘ちゃんか、、、。例えばだ嬢ちゃん、わっちが幽世渡りノ箱をワザと暴走させてお前さんらに一矢報いようとする。だが制御が利かずに自分が愚かにも幽世の住人に襲われたとしたらだ。その時嬢ちゃんはこう思うはずだ、『自業自得』だ、とな。」


「・・・。」


「ないか? 人を売り捌き、幾人もの人を私利私欲で浪費したわっちを心の底から助けたいって思ってくれるってのか?」



エラードは大仰に両手を広げながら人を嘲るように笑っている。


自分はエラードの問いに思わず目を逸らして思考してしまう。

その瞬間、視界がグラリと歪んだ。



「ーーっ!?」


「クズのお話に耳を傾けてくれる優しい優しい人形ちゃんで良かったよ。おかげでよーく薬が回ってきたみたいだ。」



・・・薬?



身体が熱く、吐く息がいやに熱を持っている。

どことなく下腹部が疼き、足に力がはいらない。


何だ、一体何を、、、された?



違和感を探すと、部屋の端にある壺のようなものから煙が立っていた。よく意識すると部屋の中には先ほどよりも濃い甘ったるい匂いに満ちている気がする。



「そこら辺にいた薬剤師が趣味で作り上げた香だが効き目は確かでな。今までこの煙をかがされて理性を保てたやつはいない。・・・思ったより時間は掛かったがな。」



ゆったりとした動作でエラードは立ち上がり、何とか立とうと踏ん張る自分の横に立った。

そしてそっと足のつま先で小突かれると痺れるような感覚がそこから走って「ーーっか!」と短く息を吐いて倒れてしまう。



「ケヒヒッ! 人は痛みに対してはある程度耐性を得られても、快楽に抗うことはできない。なぜか、快楽は人が求めていることだからだ。」



ーーぐっ


足で背中を踏みつけられとビリビリと波のような感覚が体中に広がる。目からは自然と涙があふれ、垂れてくるヨダレを拭うことさえ意識できない。



「おいおい、なに人様の絨毯を汚している? 貴様のような庶民が買えるような代物じゃないぞ、ケッケッケッ!」



涙を浮かべながら下卑た笑みを浮かべてこちらを見下ろすエラードを睨みつける。しかしエラードは動じずさらに笑みを深くした。



「さて、それじゃあいい加減楽しませてもらうとするか。」



汚らしい手をこちらに伸ばしてくるエラードからなんとか逃げようと身を捩るがうまく動かせない。また先ほどの感覚が走るのかと目を強く瞑ると、、、



ーーズドンッ!



突然、城が爆破されたかのような衝撃が走った。

エラードはその揺れに興を削がれたように鼻を鳴らす。



「・・・ケッ、そりゃあ対策局が一人で来るわけねぇわな。お仲間さんか?」



不快な様子を前面に出しながらエラードは懐から葉巻を取り出して火をつける。

そしてウザそうに煙を大きく吐いた。



「まぁいい、生娘を一から仕上げるのもいいが、お仲間さんに堕ちた姿を見せるには早めに仕上げる必要があるな。なら、こうしよう。」



またエラードは深く笑う。



「対策局は怪物退治の専門家だったな。実はわっち、前にレベル1の怪物、いわば幼体を拾う機会があってな?」



エラードは屈んで煙をこちらに吐きつけてくる。

吐き気と怒りが湧くが、身体には未だに力がはいらない。



「確か怪物と言うのは喰らった人物が一番恐怖する存在に化けるのだったか? ワッチは興味が湧いたら試したくなる主義でな、まず初めに幼い少女に暴漢を焚き付けてめちゃくちゃに襲わせる。」



まるで自慢するかのように言われた事をすぐに理解できず思わず目を見開いて固まった。



「そんでそのガキを今度は怪物に食わせたのよ。すると、あら不思議、怪物はひどく醜い人間なのかするわからない醜悪な鬼へと変貌した。」



ケッケッケッ、楽しむように笑うその声に腹の奥底から怒りが湧いてくる。



「おそらくその少女にとって自分を襲う暴漢は鬼のように見えたのだろうなぁ、酷く怖かったろうに、可哀想だ!」


「黙れしゃべるな! 貴様のようなゴミの声が耳に届くのは著しく不快だ!」



体中が怒気に包まれて、足を震わせながらも何とか立ち上がる。その目は怒りに満ち、手に顕現させた剣の切っ先をエラードに突きつけた。



「ケヒヒッ! どうした何を怒る!?その少女に同情でもしたのか? 貴様には関係ない他人だろう!? あぁ、安心しろ、ちゃんと襲わせた方の暴漢も怪物に食わせてやったさ!」


「人が人を守りたいと、助けたいと、仇を晴らしてやろうと思って何が悪い!? 貴様のような悪辣な者がいるから世界は歪むのだ!!」


「違うなぁ!! 人の考えは無限に広がる!例えいつも人助けに慢心する警察だって夜にはギャンブルで遊び呆けることもあるだろう、それの何が悪い? 悪くないだろう?そいつはただ金を払って欲望に従っただけだ!規律の範囲内で! なのに正義の味方であるイメージのせいでそいつは第三者からみっともない、汚らわしいと糾弾される! つまらんつまらんつまらん!! お前に何の影響がある!?お前は常に正しいのか!?お前は何だ!?誰も助けてないくせに何を偉そうに言い募る!? 歪んでるのはワッチらのような悪がいるからじゃない、多種多様な身勝手な価値観の押し付け合いによって世界は歪んでいるのだ!!」


「ーーっ! 助け合おうとする価値観だって人が持ち合わせるものだろう!」


「とても素晴らしく美しいことだな。だが興味がない、ワッチの趣味じゃない。」



エラードは最後に吐き捨てて右手の指輪をうえにかざす。すると、パカッとエリスの足元が開き、暗い穴へと誘われた。



「ではな、従順になった頃に会いに行かせてもらうよ。」



落ちていく景色の中、最後にそう言い捨てながらエラードは穴を閉じたのだった。


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