レッツ潜入!!
「さて、ではお金に関してはこれで足りますね。」
「お、おぅ、まさか本当にギャンブルで稼げるとは思ってなかったけどな。」
・・・おい、それをお前が言ったらダメだろうが。
チップをすべて換金(現金は刷られてないからすべて電子だけど)して俺たちはカジノの外に出る。
さてここからどうするのか、蛇紋に聞こうと振り返ると蛇紋は知らないゴツい男どもに囲まれて手を挙げていた。
「おいジジイ、ようやく見つけたぞ。暮馬んとこの金は返したらしいな? ならいい加減俺らんとこの金も返してくれよ。カジノで遊べるほど余裕なら返せんだろ?」
「おいおい、逆転の発想をしろよ。余裕がないから増やそうとしたんじゃねぇか。」
「しばくぞクソジジイ。」
前とは別の借金取りに囲まれ始めた蛇紋に俺も頭痛を感じ始めた。帆哭さんは無表情に青筋だけ浮かべる器用なことをしている。
「満額で2100万、耳揃えて返せよ。」
「耳?誰のをだ?」
「お前のを切り揃えてやってもいいんだがなぁ!?」
「うわーん! 怖いよ兄ちゃん姉ちゃん!」
クズな懲りないオッサンに助けを請われても動く気力が全くわかないなぁ。
俺達は特に助けようとする活力も沸かなかったので無視を決め込もうとしたが、、、
「助けてくれよぉ! 暮馬んとこの借金を代わりに払ってくれたじゃないかぁ!!」
・・・あ、あのやろう、巻き込みやがった。
集まっていた金貸したちは目を光らせながら首をグリンとこちらに向ける。まるでゾンビに見つかったかのような感覚に陥りながらギギギッと横を向くと、先程までキレていた帆哭さんが何故か何も感じさせない無表情になっていた。
めちゃくちゃ怖え!!
返す当てのないジジイの借金を肩代わりしてくれた謎の人、どちらを問い詰めたほうが借金が返ってくる可能性が高いかなんて自明の理で、目をつけるのは当然だよね。
ま、そりゃ複数箇所で借り尽くしている借金の一つでも返済されたなら俺もって考えるよなぁ、、、。
驚くほど全て蛇紋が悪いけど足を突っ込んでしまったのは俺たちだしなんとかしないとね。
取り敢えず上司の帆哭さんの指示を待つと、彼女は軽くため息をついた。
「・・・どうせはみ出した流れ者。殴って泣かせたとしても泣きつく場所なんてありません。」
「へ? ハザードの連中がいるかも知れませんよ。」
「侵入は私とエリスさんでします。一人顔が割れても構わない人がいますよね?」
そう言いながら横目で見てくる帆哭さんに俺は嫌な汗を垂らす。というかもうほぼ確定な荒事に汗を拭って嫌そうに眉を寄せた。
金貸しどもは蛇紋に煽られて、気が立っているのかすぐに飛び掛ってくる。まさかの交渉の余地がゼロだと思わなかったが、俺はすぐに拳を構えた。
厳ついジャージの男が飛び込んできたのでアッパーで顎を割り抜く。
そのまま崩れた男を背負って、ほかに迫ってきている奴らに投げつけた。
巻き込まれた何人かはそれでダウンするが喧嘩慣れしてる連中なので果敢と立ち向かってきやがる。
「おおっ! やっちまえ兄ちゃん!二度と追ってこれないくらいボコボコにしちまってくれ!」
きたねぇ(心が特に)オッサンの声援ほど気持ちが昂らないものはないな!!
踏み込んできた相手の足を踏みつぶし腹に肘を入れると、1人はよだれを垂らしながら崩れ落ちる。
それを横目に次の相手を探すと横合いから拳が迫っていたので頭を後ろに下げながら重心を後ろに下げ、相手の腕を掴んで殴りかかってきていた勢いのまま横に放り投げた。
その後ろにさらに控えていた戸惑っているタンクトップの男に向かって拾った瓶で殴りかかり、飛び上がって近くにいた金貸しを踏みつけた。
ーーズダンッ!
「ーーまだいんの!?」
「兄ちゃん!あと10人以上はいるぜ!」
「やってらんないけど!?」
俺は舌打ちを漏らしながら退路を確認する。
このままここで戦っても埒が明かないので先ずはこの場を離れることが先決だな。
走り出した俺はすれ違いざまにエリスから眼鏡を奪い取って蛇紋の腕を取った。
「ーーむ?」
不思議そうな声を漏らすエリスにとりあえず頷きだけ返しておく。説明する時間はないからね!
俺はそのまま蛇紋を連れてこの場から逃げ出す。
・・・何が嬉しくてオッサンの腕を掴んで逃避行しないといけないんだよ?
帆哭さんとエリスにはまた後でメッセージを送って合流すればいっか。
ーーー
「どこ行ったんだあいつ!」
「くそっ!ここらへんに隠れたはずだ! ハザードファミリーにも協力を頼め!ご贔屓してる分くらい働いてもらうぞ!」
「「・・・・・。」」
ーーガコッ
よくある大きなゴミ箱から2人して顔を出す。
結局あのまま追われに追われ俺達は、路地の端に追い詰められる直前に見つけたゴミ箱に飛び込んでいた。
袋小路よりもちょい前だったので運良く中を改められることなくやり過ごすことに成功する。
「何とかなったな。」
「何とかはなったけどこのままじゃまたすぐ見つかるぞ兄ちゃん。」
でかいけど狭くて臭いゴミ箱の中になんで大人二人で隠れなくちゃいけないんだよ。
当の元凶である蛇紋は「よっこらせ」と飛び降りて、滑りそうになりながら着地する。
「あいつらはワラワラと虫のように湧いてくるからなぁ。土地勘もあるし逃げるのは難しいぞ。」
「・・・元凶は黙っててくれない?」
まるで他人事の様に忠告してくるジジイが普通にムカつく。そりゃあ帆哭さんもキレて手が出るわけだ。
「近くに広場があったよな。人通りも多かったはずだし身動きが取れなくなる前に紛れるべきか。」
「いい考えかもしれない。確か今日はイベントもあったはずだ、デラデラバーガー大食い大会だったか?」
いい案だと長年この街に住んでいる蛇紋にもお墨付きをもらったことだし広場にでも向かってみるか。
取り敢えずゴミ箱から出て辺りを観察。
ちょくちょく足音と怒声が聞こえるし、まだ全然追われてるな。ハザードにも声を掛けるとか言ってたしこれからまた逃げ続けるのはもっと厳しくなるだろう。
ま、取り敢えずは合流か。
できるだけ足音を消して壁伝いに広場を目指す。音が聞こえたら迂回、音が聞こえたら迂回を繰り返していたが徐々に追っ手が増えていき取れる選択肢が減っていく。
ボロボロのカバーがかけられた机に2人で隠れていると、、、
ぷぅッ
・・・わかるよ、我慢出来ないときってあるよね!ただ、いまじゃないよねぇ!?
ドガンッと机が蹴り上げられ、やけにガタイのいいタンクトップのスキンヘッドと目が合う。肩に刻まれたバイオハザードマークが彼をハザードファミリーだと証明していた。
「巌鉄!」
ハンマーのような形状になった拳が振り下ろされる前に後ろへと跳んで元々ひび割れていた窓を割りながら中に転がり込んだ。
「ワリィな、つい緩んじまった。」
「元栓閉めてやろうか?」
「いやん、えっち。」
「ぶっ殺すぞ。」
バゴォンッ
壁をぶち破って入ってきた男の拳を避けてガラス片を顔に投げつける。普通に危ないけど知ったことじゃないよ、こっちも必死だから。
階段を駆け上がって蛇紋も連れて窓から飛び降りる。
右手に掴んでいた蛇紋をカフェの日除けにぶん投げ、俺はそのまま地面に着地。
すぐに両脇から敵が出てきたのでまずは右の相手の顔面をぶん殴り、そのまま後ろのやつに肘を入れた。
ーーズズッ
「ん?」
すると何かが擦れる音がして横を見る。地面から生えてきた謎の警報機に嫌な予感を感じていると、、、
ウウウウウウウウウウウウーーー!!
大きな音が辺り一帯にこだまする。
すぐに折って音は消したが既に場所がバレて大勢の金貸したちに囲まれた。
「おいおい、まずいぞ兄ちゃん。」
流石の蛇紋もまずいと感じたのか、冷や汗を流していた。
俺はどうやってこの状況を切り抜けようか頭を必死に回していると、、、
ーーぐぱっ
突然金貸したちの足元に真っ黒な巨大ワームの口が現れ、そのままビルの側面の壁ごと金貸したちを飲み込んだ。
「・・・へ?」
突然の展開に目をシパシパさせていると、向こうの角から大きな紙袋を抱えた女性が姿を現す。
「・・・あ、綾人くん。ひ、久しぶり、だ、大丈夫だった?(もぐもぐ)」
「ふ、フユ姉?」
ビキニにジーンズ、長いくすんだ赤髪を片目が隠れるようにしたオドオドしている女性。
たわわな胸に押し付けるように沢山のハンバーガーが入った紙袋を抱えている。
名前を呼ばれた彼女は嬉しそうにはにかみ、ぴょこぴょこ跳ねるようにこちらに来て、、、ピタッと足を止めた。
「・・・・・く、臭い。ふ、2人とも。」
「あ、さっきゴミ箱に突っ込んだからね。」
「そうか?あまり普段と変わんねぇ気がするんだが、、、。」
それはそれでどうなんだよ。
清潔感を保つことが難しい街であることは納得するけどできることがないわけじゃないからもう少し頑張ろう。普通に病気になるからね。
フユ姉は顔を顰めながら鼻をつまみ、こちらに手をかざした。
「じ、じっとしててね。」
「へ?」「ん?」
グワッと地面に穴が空いたと思ったら黒いワームに俺と蛇紋は飲み込まれる。
真っ暗な視界で息もし辛い中、何かドロドロした粘液にもっちゃもっちゃと揉まれて「ペッ」と吐き出された。
ーーべしゃっ
「「・・・。」」
「す、少しは匂い取れたと思う。」
言われて服の匂いを嗅ぐと、さっきまでの汚臭が驚くほど薄くなっていた(若干はするけどね。)。
横のオッサンは最初に会った時よりも匂い薄くなったんじゃない? 良かったね。
ドロドロの粘液に塗れながらゴシゴシと目を擦っていると、フユ姉は紙袋からバーガーを一個取り出して手渡してくる。
・・・え、お腹空いてたから普通にありがたい。
するとそんな様子を顎が外れるんじゃないかってくらい蛇紋が大袈裟に驚いた。
「ふ、フユ様がご飯を、、、わ、分け与えた? そ、そんなこと、、、あるわけ、、、!」
「お前はフユ姉の事何だと思ってんだよ。あとフユ様って何?」
「し、知らない、何か勝手にそう言われてる。」
フユ姉ってどこかオドオドしてるから様って感じしないんだけどな。
むしろ帆哭さんのほうが様って感じがする。
・・・ま、どうでもいいけど。
取り敢えずデラデラバーガーと書かれた包装を開けると分厚い肉に油でコーティングでもされているのかってくらいテッカテカのバンズにチーズ。
齧り付くとそれだけで口周りが油にまみれてデロデロするな。
味は濃くて食べ応えがすごい。体にはすこぶる悪そうだけど味はめっちゃくちゃ美味い。
「そ、それで、綾人くんは、こ、ここで何を?」
「ん? あー、色々あってハザードファミリーに潜入しようと思っててな。なのにこのオッサンのせいで無駄に金貸しから逃避行してるとこ。」
「そ、そうなんだ、、、。じゃ、蛇紋食べれば解決、す、する?」
「ごめんなさい! ちゃんと反省してるから許してくださいフユ様!」
普通にゆっくりと黒い目を蛇紋に向けて殺そうか?と提案してくるフユ姉はちょっと怖い。相変わらずこの兄妹達は手が早いなぁ。
そして目を向けられた蛇紋はこの日一番の速度で土下座し、地面にグリグリと頭を押しつけた。
・・・こいつのこの怖がりよう、、、何かフユ姉にされたな?
ただフユ姉から蛇紋に絡むとは思えないし、女好きなこのオッサンがフユ姉にうざ絡みして返り討ちにあったほうが考えられるな。
「・・・あ、綾人くんに、め、迷惑かけない。」
「おう!兄ちゃんには迷惑かけねぇぜ!」
何その含み。
エリス帆哭さん経由で迷惑かけるってことかな?
やっぱ反省してねえな。
グッと親指立てる蛇紋にフユ姉はゴミを見るような目を向けていたが、興味がなくなったのか紙袋の中に手を入れてバーガーを食べ始めた。
「そういやフユ姉、追っかけてた連中はどうした? 殺しちゃった?」
「・・・う、ううん、胃袋にしまってある。ひ、拾い食いはハル兄に怒られるから。」
拾い食いって表現は斬新だね。
フユ姉が少し広いところを指さすと黒いワームからデロリと大勢の金貸したちが吐き出された。全員が白目をむいて気絶し、力なくその場に力尽きている。
倒れてる何人かの方にはハザードマークの入れ墨が確認できたのでハザードファミリーも何人か紛れていたみたい。
「・・・まとめて気絶させちゃったけどどうしよ、このまま追われ続けても面倒なんだよな。」
「は、ハル兄のところ行く?」
出戻りやん。
ま、フユ姉は俺達がハルさんのところから来たって知らないからね。
「2人がどうしてるのか気になるしなー、あ、てか連絡してないや、聞いてみよ。」
思い出したのでポケットから端末を取り出してメッセージを送るとすぐに返信が返ってきた。
『あちら側から接触されたので先に行きます。名木田くんは別ルートからお願いしますね。』
「・・・。」
団体行動って知ってる?
どうやらハザードの構成員に声をかけられたらしい。
帆哭さんとエリスが揃ってればそのうち声をかけられたかもしれないけどちょーっと危うくないか?
「・・・いや、違うか。人手も内部構造も未知数なんだ。別で動いた方が効率的か。」
口に手を当てて何となく帆哭さんの思考がトレース出来たので1人そう納得する。
ただ問題は別ルートが思いつかないことだよね。
「なぁ、金剛城って裏から侵入する方法とかない?」
ダメ元で2人に聞いてみたが、蛇紋は首を振り、フユ姉はバーガーかじりながら小さく頷いた。
「な、ないけど無いなら開ければいい。」
あまりに脳筋な返答に思わず笑いそうになったが、目の前の彼女の異能なら確かに可能だろう。
ただそうなると問題は、、、。
「・・・でもそうなるとフユ姉の力を借りることになるぞ? 思いっきり巻き込んじまうけどいいのか?」
ハルさんにファミリーは動かせないと言われたばかりなのに巻き込んじゃって怒られないかな、俺あの人に怒られるのだけは嫌だよ?
そう不安そうにしていると、フユ姉はフフンと胸を張る。
「だ、大丈夫だよ。ファミリーにはハル兄がいるから、も、もしハザードに敵対して攻め込まれても返り討ちにしてくれるはず。」
「でもハルさんには手は貸せないって、、、。」
「て、手を貸せないだけ、、、だよ。ハル兄ならホコリを払うくらいの手間なら気にしない。」
・・・すっごい信頼だな。
まぁでも俺もあの人が手こずる姿を想像できないし、仮に攻め込まれても欠伸しながら返り討ちにしそう。
ただ嫌な感覚がするって言ってたしハザードファミリーを相手にするのは嫌そうなんだよな。
でも他に手も思いつかないし、、、
「・・・しゃーないか、フユ姉、力を借りてもいい?」
「う、うん! 任せて、綾人くんのためなら何でもするよ!」
な、なんでも?
最近なんだかそういう誘惑が多い気がする。
善意で助けてくれるって言ってくれたのに何を考えてるだと頭を振り、蛇紋が「いいなー」と声を漏らしていたのを視線で押し黙らせた。
「よし、フユ姉が来てくれるなら百人力だな。んじゃ、行くかー趣味の悪い建物に。」
「お、おーー。」
やることも定まったし、6番街の中央付近にある趣味の悪い金色の建物を睨見つける。
小さく腕を上げるフユ姉に癒されながら俺はやる気をたぎらせるた。
そんな中、戸惑うような声が呟かれる、、、。
「・・・え、俺もか兄ちゃん?」
・・・確かにお前いる?




